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断腸亭落語案内 その67 金原亭馬生 笠碁~桂三木助 へっつい幽霊

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引き続き十代目金原亭馬生、「笠碁」。

明治の頃、三代目小さんが上方から移したといわれている。
いたるところに書かれているが、皆、詳細はない。
ある種、神話のような語り伝えのようではある。

初代露の五郎兵衛の「露がはなし」(元禄4年(1691年))に
原話があるという。(「落語の鑑賞201」延広真治編)
初代露の五郎兵衛というのは江戸初期の京都の落語家で、
やはり、上方系の噺であることは間違いないのであろう。
江戸落語は寛政、1790年代終わり頃からで、歴史が違う
のである。)

三代目小さんはたくさんの速記が残っているのだが、この噺は
私は見つけられていない。
三代目小さんということは、柳派のものといってよかったのであろう。

馬生師は志ん生の長男であるが、柳派のものも三遊派のものもどちらも
演る。ずぼらな父親で、稽古らしい稽古などしてもらえず、
自分で様々な師匠から習ったという話もある。
志ん朝もそうだが、芸風も志ん生とは随分違っている。

まあ、二人とも、結果としてその方がよかったのであろう。
志ん生自身もそう思ってのことだったのかもしれない。

十代目金原亭馬生という人は、品がある。
「笠碁」には品が必要であろう。
口喧嘩、怒鳴り合いになるわけだが、品がなければ、
聞いていられないのではなかろうか。
怒鳴り合いの部分も馬生師のものは安心しておもしろく、
聞いていられる。
また、この人の独特のやはり、フラ、なのか、空気感がよい。
言葉にならないような、なにか、言葉にならない音を出すことが
あるのだが、これがとてもいい演出になっている。

五代目柳家小さん師のものも少し触れておこう。
馬生師のものと負けず劣らず、傑作といってよいと思う。
双璧であろう。

馬生版よりも台詞というのか、エピソードが多い。
柳派直系ということで、原形に近いのかもしれない。

ふわっとして、穏やかな、小さん師の人(にん)に合っている。

談志家元も演ったが、これはさすがに、形は小さん師ものである。

「いや、なにもね、待ってもらわなくってもあたしゃ負けませんよ。
 負けませんけどね、惜しいじゃないか。お前なんかわかんない。
 そいうのあんだよ。惜しいというのが。
 いや、あたしも言いすぎた。あんなこと言っちゃいけない。
 そりゃわかってる。言っちゃいけなかった。
 ね、けども、それを気にするような、あいつと俺じゃないんだよ。
 それを、ずっと根に持つんだよ。あーいう奴だ。
 
 演ってて、俺と小さん師匠の間柄喋ってるよう、、

 途中で反省してもしょうーがないけどね。

 あーいう奴だ。
 家元とかなんとかいって、俺んとこ挨拶来ないんだろ。
 あん畜生は。

 あたしはなんとも思ってませんよ。
 あたしはなんとも思ってない。
 あいつはね、なんなんだろうね。どっかヘンな奴なんだよ。
 
 あー。
 どうでもいいけど、煙草吸ったって、喉がおかしくなる。」

談志家元の「笠碁」。
「ひとり会」のものをちょっとだけ起こさせていただいた。
ここが一番可笑しい。

こうやって、噺の途中で、切って、解説をしたり独白をしたり。
そして、すっとまた噺に戻る。家元はよくやった。
プロはある程度皆これできると思うが、家元以外は、滅多にやらない。
(ちなみに、私などは、絶対にできない。アドリブであるが、
落語というのは長い早口言葉として覚えて喋っているので、途中で
止めると、戻れない。どこから再開していいか、わからなくなる
のである。)

家元はこれすら上等な芸になっていた。

さてさて、十代目金原亭馬生師であった。

馬生師は昭和57年(1982年)54歳で亡くなっている。

志ん朝師も亡くなったのは63歳。
父、五代目志ん生は83歳まで生きている。
あれだけ、放蕩をした志ん生よりも、子供たちの方が、年若く
亡くなっているのは、皮肉というのか、なんというのか。

だがやはり、十代目金原亭馬生師、戦後の落語家として
記憶すべき人である。

さて、次。

先に、小さん師のことを挙げてしまったが、もう一人、忘れては
いけない人がいたのを忘れていた。申し訳ない。
小さん師とまんざら関係がなくもない人。

三代目桂三木助である。

昭和36年(1961年)に58歳で亡くなっているので、
リアルタイムでは私は知らない。

これというネタは多くはないかもしれない。

だが、存命中は「芝浜」といえばこの人であった。
また、その流れるような江戸前の口調は素晴らしい。

今回、私はこの人で取り上げたいのは「竃幽霊」。

竃は、へっついと読む。
かまど。土で作られている。見たことのない人も多かろう。
ガスや電気が家庭になかった頃の煮炊きのためのもの。
もちろん、薪を使う。

画数が多く、難しいので、漢字を使いたいのだがひらく
ことにする。

「へっつい幽霊」。

応挙の幽霊の画のことなどを、枕に振って噺に入る。

ある道具やに客がくる。
なぜか、関西弁。

仕入れたばかりのへっついを気に入る。
値を聞く。

おまけして、三円。

じゃ、お前のところで運んでくれて、三円にしてくれ、という。
重く、大きなものなので自分の手で運ぶことはできない。
配送付き。

道具やは了解し、売り、その男の家へ運ぶ。

それが、その日の夜遅く。

道具やは、戸をドンドンと叩く音で、叩き起こされる。

 

つづく