引き続き、金原亭馬生師「笠碁」。
雨の中、富士登山の笠を被って、出かけることにする。
(場面転換、もう一方の旦那の店。
こちらの旦那は店に出ている。)
退屈で、いらいら。
店の者やら、家族の者へ小言ばかり。
(二件ほどの小言。)
番頭さん?!。
あー、あいつを呼び出す時に、あーたを使うのは、一番最後の手です。
それをやってだめだったら、あたしは生きてる甲斐がなくなっちゃう。
いや、俺がわるかったんだよ。
だけど、あいつも出てくるがいいじゃないか。
(基本、この二人のうち[ミノヤ]の方が、出かけていくことに
なっているらしい。)
あ!。
来た!。
あいつが出てきたよ。
ヘンな恰好してんねー。
あー、みんな引っ込んで。
すぐ、お茶を入れなさい。
それから、碁盤をここへ。
それから、一番いい羊羹があったろ?。
あれ。厚く切って。あいつ羊羹が好きだから。
碁盤を見ればね、我慢できずにね入ってくるからね。
へ、へ、へ。
やっぱり、我慢できなくて、出てきやがったんだ。
へ、へ、、、?
行っちゃった。
家に来たんじゃねーのか?。
家の前を通って行くとこなんかありゃしませんよ。
碁会所?。
あいつが碁会所なんか行ったって、お茶を出すぐらいが
関の山ですよ。
、、、、、!。
電信柱の陰で立ってます。
家へきたんですよ。
考えてる。
え?、声を掛けますよ。
だけどさ、こっちを向かないんですよ。
ほ、、、出てきた、出てきた。
(店の前を素通り。顔と仕草だけで表現。)
行っちゃった!。
俺は二度とあいつと付き合わないよ!。
人の家の前をぐー、っと。
ほんとーに、やな奴、、、、
!。
戸袋んとこに立ってます。
今度、声掛けますよ。
ん!、出てきた!。
、、、、、ぅ、ぅ、オウ!。
ぅ、ぅ、オウ。
ぅ、ぅ、オウ。
なんだ?。
あんまり、家の前をウロウロしてもらいたくないねー。
ウロウロしたくないけど、煙草入れを忘れちゃって。
こんな家に煙草入れ置くと、煙草入れがヘボんなるから。
煙草入れがヘボ?!。
ヘボかヘボでねえか、一番くるか?
いくとも!。
やー、この間(こないだ)のことはあたしが全部わるい!。
あれ、勘弁してください。なかったこと、なかったこと。
(盤の用意をしながら、下を見て、前は向かない。以下ずっと。)
あーたが来ないともう、寂しくって、寂しくって。
年を取って、こんな寂しい思いをするくらいならな、もう、生きて
いたってしょうがないと思った。
マッタなし、って、もうあんなことやめましょ。ね。
(後ろへ。)
早く、お茶を入れて、お茶を!。
さっきから、お茶をすぐに入れられるように、って
言っといたでしょ。
んとーう(本当)に。なんのために生きてんです!。
みんな死んじゃえ!。
さー、いきましょ、いきましょ。
こやってね、こやって、石をやってれば、いいんですよ、ね。
これがね、愉しみで。
早くお茶入れなさいよ。生きていたかったらね!。
(前の碁盤の上を手ぬぐいで拭く仕草をしながら。)
おい、おい、たいへんだ、ちょっと、屋根や呼んできてくれ。
漏る、ようだよ。
屋根が。
(引き続き、碁盤の上を拭く。)
漏るね。
なんだい?。
他は漏らなくて、盤の上だけ漏るよ。
なんで、、?
(ここで初めて、前を向く。)
あー、お前さん、笠かぶったままだよ!。
これでお仕舞。
下げ、のような、下がっていない、イマイチな終わり方。
いくらなんでも、もっと前に気付きそうなものである。
不自然であろう。
だが、他にないのか、皆もこれで下げていた。
馬生師は枕が比較的長いが、全体で30分弱。
「笠碁」。いかがであったろうか。
つづく