浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)
断腸亭料理日記本店
 

断腸亭落語案内 その68 桂三木助 へっつい幽霊

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引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


開けてみたら、昼間、へっついを買った男。

あのへっつい、引き取って、
トッテ、トッテ、トッテ、トッテ、、、。

ラッパみたいな人が来たね。
へい。手前どもから出た物ですから、お引き取りは致しますが、
元値というわけにはいきません。道具やの決めで、半値の
一円五十銭になりますが、、。

それでけっこう。引き取って。

しかし、昼間あんなに気に入って買われたのに、、、
よかったらそのわけを教えていただけませんか?。

わけなし。なんにも聞かんと、引き取って。
トッテ、トッテ、トッテ!。

じゃ、こういたしましょう。わけを教えていただいたら、
元値の三円でお引き取りいたします。

ほんなら、話をするがな、道具や。
お前の家で、あのへっつい買ってな、道具や。
わい、家に帰ったやろ、道具や。
お前あのへっつい、運んでくれて、土間へ据えてくれたな、道具や。
晩飯、すんでな、道具や。
で、わい、床引いて、床入ってな、道具や。
どういうわけだか、寝られねえ、道具や。
けったいな晩やな、思うてな、ドウグヤ!。

ちょっと待ってくださいなー。
道具やには違(ちげ)ぇねぇけどねー、
いちいち、言葉の仕舞に、道具や、道具やを付けずに
喋れませんかね。

ふんふん。
そのうちにな、道具や。

まだやってるね。

あのへっついの隅から、ちょろちょろっ、ちょろちょろっと
火が出たかと思うと、痩せぇて、蒼い顔をしたのが、灯具やぁ。

しょーがねーなーこの人ぁ。
ふん。

すぇーっと枕元へきて、金出せー。
俺、幽霊の追剥ぎってのは、初めてだ。
あのへっつい取って。トッテ、トッテ、トッテ!。

ま、ま、ようがす。お引き取り致します。
今晩ってわけにはいきませんよ。
夜が明けたら。

そんなこと言わないで、すぐに取りにきて。
あのへっついあったら、わい怖おうて、よう眠れん。
んなら、道具や、お前の家泊めて。

そうおっしゃっても、ご覧の通り、手前の家は手狭でござんす。
あたくしと女房と寝るのがやっとでございます。
とてもお泊めするというわけにはいきません。

まあ、しょうがない、というので、泊めて、明くる日、道具やは
へっついを引き取り、また店に置いておく。
ものがいいので、これがすぐ三円で売れて、夜中になって
ドン、ドン、ドン、と、起こされて一円五十銭で戻ってくる。
また店へ飾っておくと、三円で売れて、一円五十銭で戻ってくる。

毎日、毎日、品物が減らなくて、一円五十銭ずつ儲かる。
道具やさん、大喜びですが、
さて、人間、二(ふたぁ)つ、いいことてぇのはないもんで、

(この、ふたぁつ、のリズムが最高によい。
 しかし、この人、言葉にそうとう無駄がない。)

二十日ばかり経ちますと、他の品物がパタッと売れなくなってしまう。

ある日のこと、道具やさん、真っ青な顔して表から飛び込んでくる。

おっ母。
いや、店先じゃ、ちょいっとまずいんだ。台所行っとくれ。

えらいことんなったよ。
さっき引き取ってきたへっつい、この近所でたいへんな評判だ。
あそこの道具やのへっついから幽霊が出る。
あそこの道具やの品物からお化けが出る。
なるほど、他の物が売れないわけだ。
弱ったなぁ。

そう言われると、私もなんだか気味のわるいところがあったん
だけども、、、
どっか捨ててきたら?

冗談言っちゃいけない。
それほど評判になっているものそこいらへ捨ててみろ、
あのへっついはあの道具屋の、、

しょうがないねー。
誰かもらってくれる人がない。?
いえ、そらぁ、ただ貰ってくれる人なんざぁないだろうけどもさぁ、
あのへっついじゃぁ、お前さんも随分儲けてるんだからさぁ
一円くらいなら付けたっていいじゃないか。一円付けて誰かに
貰ってもらう。その代わり、どんなことがあっても苦情聞きっこなし
ってぇことにして。

うーん。
一円くらいなら、そらぁ付けたっていいけどもなぁ。
貰ってくれる人があればいいなぁ。

と、夫婦が話をしています。
台所のそばが塀で、その向こう側が裏の長屋の井戸端んなってます。

この井戸端で顔を洗っていましたのが、長屋に住んでいる
渡世人熊五郎。ヤクザの方じゃ、ちょいと兄ぃ株でして。

道具や夫婦の会話を聞いていた。
へっついに一円付けてもらってもらう?これは、よい。
へっついからなにが出るって、そんなもなぁなんだい。
へっついは台と土は離して、台は焚き付けんなるし、
土は細かくして、路地のへこんだとこに敷いてやりゃ、
子供も転ばないと親たちも喜ぶ、水たまりにもならない。
一円は儲かるし。
(パン!。手を叩く。)

あ、えらいことした。
手ぬぐい落っことしちゃった。

と、そこへ同じ長屋に住む、銀ちゃん、若旦那が通りがかる。
銀ちゃんは大店の若旦那だが、お約束の放蕩で、勘当になり
こんな裏長屋にいる。

銀ちゃんに手拭いを借りる。

銀ちゃん、詰まらなそうだな。

えー、よく詰まりました。
つまらないというのはまだどうにかなるうちはつまらない。
ガタっと詰まると十銭の金もどうにもならない。
煙草ものめなきゃ、湯いも入れないんですよ。

 

つづく