浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



吾妻橋やぶそば 本所吾妻橋、駒形橋界隈

4537号

4月5日(金)第一食

さて。
なにか、そばシリーズのようになっているが、
今日は吾妻橋[やぶそば]

ちょっと、久しぶり。

以前は吾妻橋東詰めのアサヒビール側の通り沿いに
あったのだが、今は駒形橋の東詰めにある。

現代の地図

今回も少し昔のことを書いてみたい。

以前(上記21年のページ)に江戸の地図を出したが
今日は、明治の地図を出してみよう。

明治30年(1897年)

「東京一目新図」

明治30年厩橋はできているが、駒形橋は関東大震災後の
建設で、まだない。ここは駒形の渡しという渡し舟。

隅田川沿いの通りは江戸の頃から変わらずあるが、
清澄通り・浅草通りはまだない。
この界隈斜めの通りが多いがこうした細かい町割りは
現代と見比べるとやはり江戸の頃の名残のよう。

吾妻橋は江戸の頃は東橋という表記だが、隅田川
掛かる五本目の橋で、浅草と本所を結ぶランドマークと
いってよろしかろう。江戸期はもちろん木製だが、
できたのは安永3年(1774年)で田沼時代、江戸も中頃。
落語にも多く登場するが、やはり代表は「文七元結」であろう。
三遊亭圓朝作で作られたのは明治だが、設定は江戸。
若者の身投げを左官の親方長兵衛が止める舞台。
吾妻橋明治20年(1887年)に鉄橋だが橋板が木製
のものに架け替えられ、今のものはやはり震災後の建設。

余談だがこの「文七元結」の長兵衛の住まいは噺の中では
“本所達磨横丁”と言っている。本所達磨横丁の実際の場所は
ちょい南の東駒形一丁目に今もある実相寺付近のよう。
噺の中ではもう少し吾妻橋に近そうだが、こんな距離感である。

さて。
この界隈、もう一つ書いておきたいのがビール工場。
前にも一度書いた気もするが、まあ、よいだろう。

今、こんなところにビール工場があったというと驚く人も
少なくないのではなかろうか。
明治の地図に書き入れたが、ここは吾妻橋袂でランドマークに
なっている、今のアサヒビール本社と墨田区役所の一郭。
なんと昭和60年(1985年)までここでビールを作って
いたのである。そしてそれが、今のアサヒビールの本社
ビル群などになったというわけである。

ここにビール工場ができたのは明治33年(1900年)。

よって、ほんとは、上の明治30年の地図に書き入れるのは
正しくはないのだが。
この時、ここは札幌麦酒の東京工場としてできた
のである。

え?。サッポロ?、アサヒの間違いではないの?、
と思われよう。これ、間違いではないのである。
最初は札幌であった。どうしてアサヒに変わったか。

明治中に札幌麦酒は合併により大日本麦酒に名前が変わり、
さらに、戦争中、国策でビールは一つのブランドに
なったりもしている。
そして、戦後大日本麦酒は、GHQ財閥解体政策により、
朝日と札幌に分割され、元札幌のものであった吾妻橋工場は
朝日麦酒に所属することになったというわけである。

私自身、子供の頃はこの界隈に住んでいなかったので、
ここにアサヒの工場があったのを記憶してはいないが
写真を見ると、吾妻橋袂の壮観な姿であったよう。

やはり、大きなランドマークであったろう。

閑話休題
吾妻橋[やぶそば]で、あった。

ここは、昼のみ、15時までなので、早めにきた。
駒形橋を自転車で渡って、13時半前に到着。

ほぼ満席、入れ替わりを待って、相席で着席。
客層は、近所のサラリーマンのお昼というよりは、
わざわざきている感じであろうか。
この雰囲気であれば、酒をもらってもよい、で、あろう。

座ると、水が出る。
最近はそばの実の温かいお茶を出すところも多いが、
元来はそばやは水を出すものであった。
日本茶はそばの香りと合わないから、と聞いたことがある。

今日は少し肌寒いので、ぬる燗で。

やぶそば伝統の菊正宗。
また、お通しの、黒いそば味噌も。

つまみは、鴨ぬきを頼んだ。ここは珍しく、天と鴨の
ぬきが、品書きに載っている。

鴨ぬき。

小ぶりな丼。
これもなかなか熱い。
ゆずが浮いて、長く切ったねぎ、三つ葉、脂の付いた鴨肉。
つくねが入っているわけでもなく、まったく、シンプル。
ここはやはり、これがよい、だろう。
つゆが、じんわりと、うまい。
この味が、菊正に合うことこの上ない。

食べ終わる前、そば。
もりが、大、中、小とあり、中を頼む。

単純に中は、もりが二つ。

つゆをそば猪口へ。

微妙だが、細めではなかろうか。
色も、微妙だが、気持ち薄めか。
そして、かなりシャッキリ、堅めにゆで上がっている。
つゆもこのあたりのしょうゆの勝ったもの。
やっぱり、これでなくてはいけない。

よい喉ごし。

夢中で手繰る。
このふた山、どうしてなかなか量がある。

食べ終わり、勘定をして、出る。

ご馳走様でした。

ここ、土日は列、とも聞く。
距離的にはむろん、遠くはないのだが、
なかなか橋を渡ってまでこない。
ウイークデーなら、よいかもしれぬ。

 

 

墨田区吾妻橋1-11-2
03-3625-1550

 

 

 

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