浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅利と大根の鍋

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3957号

10月24日(日)第二食

今日は日も出て少し暖かい。

コートは出したのだが、まだよさそう。
セーターを着て出る。

自転車で向かったのは、御徒町、吉池。

日曜日で人出も多い。

特にあてがあるわけではない。
ちょっと間があいたが、よいものがあれば、
にぎりの鮨でもよいか、と思ってはいた。

目についたのは、パック入りの浅利むき身。

いつも必ずある、というわけではないと思う。

よし!。

浅利むき身とくれば、浅利と大根の鍋、
である。

これは池波レシピ。
梅安シリーズ、で、ある。

梅安が品川台町の自宅兼、針治療所で一日の
療治を終えて、一人で鍋をこしらえ、呑みながら
食べる。

去年も、もう少し遅い時期であったが
食べていた。

大根の千六本と浅利むき身を一緒に煮る
だけなので、簡単なのだが、浅利むき身がなければ
成立しない。

浅利むき身というのは、書いた通り、吉池でも
必ずしも定番ではない。

値段は、1パック400円ほど。(今日は熊本産)
安くはない。

殻付きの浅利自体は高いものではないので、
この値段はむき身にする手間賃といっても
よいのだろう。それだけ昔の人件費が安かった
ということにもなろう。
火の通ったものは冷凍でもっと安く出回っているが
むき身は生でなければ、いけない。
生をゆでた時の煮汁にうま味が出てしまっている。

浅利むき身というのは、江戸前東京湾の名物で
あったといってよいだろう。
むき身にして売られるものも多かったのである。

いつ頃までそんなものであったのか。
少なくとも、池波先生の育たれたころ。
戦前、戦中。

今の品川区大井町で育った私の父親も昭和2年生まれで
池波先生よりもちょい下だが、ほぼ同世代。
子供の頃は毎日のように食卓に上った食材と言っていた。
慣れ親しみ、むしろ食い飽きたおかず。
また、それだけ安かったわけである。
私の育った頃にも、小松菜と浅利むき身の
しょうゆで煮〆た煮びたしはよく食卓にあった。

また、浅利のむき身といえば、深川飯、
というのも江戸・東京名物として、すぐに頭に
浮かぶだろう。
浅利むき身のつゆを飯にぶっかけたもの。
ちなみに、これは、しょうゆ味もあるし、
味噌味もある。

この、浅利と大根の鍋も、梅安は小説の中で
鍋で冷酒(ひやざけ)を呑んだ後、温かい飯に
かけまわして食べている。
これが深川飯といってよいだろう。

また、浅利むき身は、上品ではないが、
ねぎなどとと一緒に、かき揚げの天ぷらにしても
うまい。

2パック買ってきた。

この量で400円である。

ざるにあけて、水洗い。

大根は半分を買ってきた。

6~7cmに切って、皮をむく。
縦方向に薄く切り、千切りに。

大根はやはり繊維の方向に長く短冊に
切るのがよいだろう。

鍋のつゆは出汁はよいだろう、水。
大根からも浅利からも出汁は出る。

お膳にカセットコンロを用意。
水を張った鍋に薄くしょうゆ。

大根の方が火が通るのに時間が掛かるので
先に入れる。
点火し、煮る。

大根が煮えてきたら、浅利むき身も投入。
軽く浅利にも火が通ればよろしい。

ビールを開けて、食べる。

浅利、大根、しょうゆだけの味。
まったくシンプル。

こういう食べ方をすると浅利には、苦みがあることが
わかる。それで、作品でも山椒の粉を振って食べている。
今日はなしにしてみた。

ただ、この苦みは、煮ているうちに消えてくる
のではなかろうか。
気のせいかもしれぬが。
それでか、この煮汁、つゆがかなりうまい。
苦みもないように感じる、のである。
飯に掛けたくなるのもよくわかる。

これだけのものだが、まさにこれが、
江戸・東京庶民の味、といってよいだろう。

 

 

 

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