浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



歌舞伎座・五月大歌舞伎團菊祭 その4

dancyotei2018-05-15



さて。引き続き「弁天小僧」。


名台詞について書いているが。
なかなか、むずかしいことを書いているような
気がしている。


自分のことを思い返してみると、昨日出した、例えば、忠信利平の
名乗りの台詞、


「がきの頃から手癖がわるく、抜けめいりからぐれだして・・」


に触れたきかっけは書いたように、好きな落語「居残り佐平次
からであった。


いつ頃かといえば、30代前半、25年以上も前のこと。
落語は見たり聞いたり、習って自分で演ってみたりもしたが
歌舞伎とはまったく縁がなかった。


歌舞伎も観なければと思い立って観始めてまだ10年弱。
その間に、この「弁天小僧」を観たのは今回を
入れてやっと三回目。


だが、その都度、ここに書いているので、
台詞も書きだして、役者の抑揚でなん度も読み返し、
読み返し、やっと身に入ってきて、本当の意味で、
そのよさがわかってきた。


おそらくこれは、同じ時間、回数、歌舞伎を観ている人よりは
深く入り込んでいるといってよいだろう。
それでやっと、よさがわかったというレベルだと思う。


昔、それこそ落語「居残り佐平次」が生まれた頃、
(おそらく明治)にはかなりの割合の普通の人々が
「弁天小僧」をなん度も観て、あるいはまわりでも観ている人が
ほとんどで、空でいえるほど「がきの頃から・・」には
慣れ親しんでいたのであろう。


私の場合はかなり特異な方で、現代の普通の皆さんには
この台詞を、文句なくよい、と感じられるようになるには
かなりのハードルがあような気がしている。


さて、さて。


もう一つ、この七五調の名台詞で、今回書いておきたいのは、
役者の喋り方、抑揚。


私も落語を25年前に立川志らく師匠に習ったわけだが
最初に教えられたのが、落語には落語のリズムと
メロディーがある、ということ。
なんの気なしに喋っているように聞こえるかもしれぬが
落語にも落語に聞こえる喋り方があるのである。
これができていないと、落語には聞こえない。
落語も、立派な古典芸能なのである。


歌舞伎ならばましておや。


時代物、世話物、様々な芝居の種類、男女、年齢、役柄毎に
違った独特の、台詞の発し方がある。
よく芝居口調などというが、まあ、それである。


そして、七五調の台詞にはまた固有の喋り方がある。


例えば「がきの頃から手癖がわるく、抜けめえりからぐれだして」
であれば「抜けめえり」の「め」にアクセントがきて
「めぇ」と小さな「ぇ」が入るような発音のしかたで多少
ゆっくりめにいう。(これを“時代”というようである。)
今回の松緑、この部分は比較的さらっと言っていたようである。


もちろん、役者によって、上手い下手もあるのであろう。


また、長い七五調の台詞の中で、全部が同じ調子ではいけないだろうし、
あるいはまたクセが強すぎても、いわゆるくさい芝居になる、
のかもしれぬ。


今回の弁天小僧菊之助は、尾上菊五郎
書いているように、五代目菊五郎の初演で
始まっているこの芝居で、その後、代々の菊五郎一門に
伝えられてきている。
そうすると、菊五郎の喋り方というのは、
現代においては、最も正統な弁天小僧菊之助の台詞の発し方と
いってよいのであろう。


私など、数多くの役者の台詞を聞いているわけでは
ないので、比較対象も少ないし、まだまだ
よしあしを聞き分けられるようにはなっていない。


まだまだ勉強中だが、こんなところも
この芝居の大切な見どころといってよろしかろう。


今回の「弁天小僧」でちょっとおまけ。


寺島しのぶの息子、寺島眞秀(まほろ)君(5歳)が
ちょいとした芝居あり、台詞ありの浜松屋丁稚役で出ていた。
寺島しのぶは、当代菊五郎富司純子の娘。
菊之助の姉。富司純子菊五郎の舞台にはよく劇場の
玄関に立っており、我々が観に行った日にも、富司純子
そして寺島しのぶさらに、その旦那のフランス人アーティスト
ロ−ラン・グラシア氏(らしき方)もお見かけし、なんと私は、
喫煙所でこの方にライターを貸すことになったり。


今回の眞秀君出演は菊五郎のインタービューを読むと
寺島しのぶが希望したとのこと。


寺島しのぶ自身女性なので歌舞伎役者になれないことを
少女時代とても悔しがったと聞いたことがある。
是非とも息子には歌舞伎役者になってほしいという
思いがあるのであろう。
初めてのハーフの音羽屋が登場するのか。
名前はなにを継ぐのか。梅幸か。
眞秀君、くりくりした目で、なかなかはきはきとした
利発そうな様子であった。
たのしみである。


さて、こんなところで「弁天小僧」は読み切りとして、
弁当。木挽町[辯松]。


包装。

開ける。

中は、こんな感じ。

上左から、出汁巻き玉子、紅白蒲鉾、ゆで玉子、栗甘露煮。
上右、鰆照り焼き、そら豆、はじかみ、つくね串、桜漬け大根。
下左、赤飯。下右、うま煮(里芋、つとぶ、牛蒡、椎茸、筍、
生麩)。


今回は脚も痛かったので、ビールも呑まず、至って健全。


この後「鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)」の「菊畑」、
最後が踊りの幕で菊之助の「喜撰」。


「菊畑」「喜撰」どちらも初見。
「鬼一法眼三略巻」は義太夫狂言で「一条大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」と
「菊畑」が上演されるがどちらも観たことはない。
義経の若い頃、牛若丸の物語。一幕だが、コンパクトにまとめられ、
なかなかの佳作。松緑はよかったのではなかろうか。私などがいうのも
僭越の極みだが、よい役者になっていきそう。(この人、少し痩せた?)
「喜撰」。菊之助はやはり踊りではまったく安心して観ていられる。


最初の「弁天小僧」に押されて、後の二幕がどうも
おまけっぽく、正直のところ、気合が入らなかった。