11月10日(金)夜
さて。
その、浅草雷門前、並木通りの[藪蕎麦]、で、ある。
浅草に五反田のオフィスからの帰り道に寄る、ということは
いつもは山手線経由で帰ってくるためあまりない。
寄るとすると、東武で栃木から帰ってきた時である。
今日は特別。
並木の[藪蕎麦]に寄らねばということ。
もちろん、歌舞伎座の顔見世見物から続いている。
あそこでも書いたが、直侍のそばやに最も雰囲気が近い。
五反田からも浅草には都営線で一本。
後ろから降りて、駒形橋西詰の交差点を渡って
並木通り。
今は雷門から離れると人通りは少ないが、本来、
この並木通りは浅草寺の表参道である。
7時すぎ、暖簾を分けて、硝子格子を開けて入る。
いらっしゃい〜、の声。
座敷もテーブルもそこそこ埋まってる。
一番手前のテーブルがあいていたので
そこに。
例によって、頼むのは決めてきた。
菊五郎の直侍の「テンで一本つけてくんな」は、
店に入って、座敷に向かって歩きながらの台詞であったが、
これもむろん入った時には決めている、はず。
やはり、座って品書きをのんびり見て、なんというのは
野暮であろう。
馴染みの店であれば、なにがあるかは知っていて、
その店に行こうと決めた段階で既に、なにを食べるかは、
決めている。また、初めての店でも、そうそう変わったものが
あるわけでもないので、最初のセリフということに
なるであろう。
今日は鴨抜きと燗酒。
ここ、以前は壁に貼った品書きしかなかった思うが、
さすがに最近は外人のお客などもあるからか、
クリアケースに写真入りのものを用意しているようである。
お姐さんが水の入ったグラスを置きながら、
その品書きが必要かどうか、ちょっと、私の顔を見るが、
このタイミングで
鴨抜きと、お酒お燗で。
あ、はい。“ヌ”キですね?!。
と、お姐さん。
お!。さすがに正しい、ヌ、にアクセントのある
ヌキの発音。
なんだか、うれしくなる。
お姐さん、新聞を持ってくる。
ここでもちょっと私の顔をみて、用不用の確認をしながら、
私は、あ、ありがとうございます、と、スポーツ新聞ではなく、
読売新聞の夕刊を開いて、ちょっと斜め読み。
お酒がくる。
むろん、燗の具合は、熱くもなくぬるくもない上燗。
決して、デフォルトが熱燗ではない。
なにもいわなければ、上燗。これがあたり前なのである。
お酒がきたら、すぐに新聞は閉じてたたみ直し、わきに置く。
これはお姐さんがすぐに下げる。
そば味噌をなめながら、一杯、二杯。
鴨の“ヌキ”もきた。
ふた付き。
開けると。
そういえば、私はここでは、ヌキの場合、テンの方が好みで
あまりカモは頼んだことがなかった。
つみれも入っていたのか。
厚く切った脂身のついた肉は、半生。
ねぎもうまい。
鴨抜きで呑んでいると前に一人の三十恰好のちょっと、
オタク風めがねのお兄ちゃんが座った。
座るなり、大盛り!。
そう、ここは大盛りはない。
この時点で、ダメである。
量がほしければ、もう一枚頼むのである。
お姐さんに、大盛りはないといわれ、普通に。
私は、ヌキで呑みながら、もう一本もらおうか、ちょいと思案。
今日はやめておくか、せいろを一枚、頼む。
前に座ったお兄ちゃんよりも私が頼んだのは
後だったが、同時にきた。
私、箸先にわさびを付けそばを一箸つまむ。そば猪口は軽く左手で持って、
そばの先、3〜4cmだけつけて、すする。
またまた、前のお兄ちゃん。
いわゆる、犬食いというやつ。
左手が、どこかにあって、添えていない。
顔をそば猪口に近づけて、すする。
そばに限らず、身体はまっすぐにして食べるものであろう。
そば猪口は持たなくてもよいが、添えた方がバランスがよい。
親の教育ということもあろう。
野暮以前。
なんだか見ていられずに、早々に手繰り終えて、
お姐さんに、お勘定。
勘定をして、ありがとうございますぅ〜の声に
送られて、出る。
途中まではよかったのだが、、、
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