引き続き、森下の[山利喜]。
なにを頼もうか、考えていると、
最初に頼んだレモンサワーがきた。
さて。
頼むのは、、、
「煮込み玉子付きに、ガーリックトースト」。
ここではこれを頼まなければ、きた意味がない。
それから、と。
まぐろぬた。
うまそうである。
焼きとんは、、、
レバは決まりで、なんこつ。
ここは各二本ずつがきまり。塩で。
お通しは、ちょっと見えずらいかもしれぬが、
小鯵をさらに一口に切った南蛮漬け。
こんなものも、うまい。
なにがというと、まず火の通り方。
骨までしっかり柔らかく、それでいて、カリッとし
よい食感。そして、味付けもちょうどよい塩梅。
こういうちょいとしたお通しにも細かく
気が配られているのが、ここをただの焼きとん
大衆酒場に留まらせていない所以であろう。
目の前の煮込みの大鍋。
ぐつぐつと煮えている。
モツの多くは、いわゆるマルチョウではなかろうか。
私はこれは、脂がたっぷり出るのがポイントとみている。
右側、鍋の持ち手に紐のようなもの結び付けられている
のがおわかりになろうか。
これ、いわゆるブーケガルニだと思われる。
ローリエなどのハーブ類が入っていたと思われる。
ここのご主人はフレンチの修行をされた方で
このつゆにはポートワインなども入っている。
ぬたがきた。
ぬた、というのは好物の一つである。
自分でもよく作る。
ここでぬたを食べるのは初めてではなかろうか。
注目すべきは、赤い味噌の色。
商売人の作るぬたの多くは、白味噌を使った
からし酢味噌である。
ひょっとするとこの赤い色は、江戸味噌、では
なかろうか。
味は甘めでからしも入っているか。
江戸味噌というのは今はごくわずかしか
作られていない東京伝統の味噌。
浅草の[万久]というところで手に入る。
いわゆる白味噌と赤い八丁味噌の中間のような味噌で
甘いが独特のこくがある。
駒形[どぜう]ではどぜうの下味付けに使われている。
まあ、わからぬが。
まぐろもうまい。
しっかりした食感の中トロ。よいものではなかろうか。
そして、真打の登場。
焼きとんやで煮込みというのは、どこにでもあって、
前座的なポジションかもしれぬが、ここのものは
間違いなくトリを取るものであろう。
目の前なので盛り付けも見ていた。
素焼の平たい器をガスで熱し、そこに煮えたモツをのせ、
玉子、そしてつゆをまわしかけ、ねぎをのせる。
それで、ずっと熱いままで食べられる。
先に書いたように、独自のレシピで濃厚なつゆと脂。
そのつゆを十分に吸った、ゆで玉子。
そして、このつゆをガーリックトーストを
つけて食べる。
フランスパンでバジルとにんにくの
オリーブオイルでカリッと焼かれている。
このにんにくとバジルの塩梅も絶妙。
この完成度の高さ。
やはり、それぞれのものにかなり細かく
神経が使われていると思うのである。
間違いなく、押しも押されぬ大衆酒場・森下[山利喜]の
大看板。
メインディッシュ、スペシャリテである。
焼きとんもきた。
レバとなんこつ。
溶きがらしが添えられている。
これもここの特徴である。
意外に他では見ないのではなかろうか。
そこそこ辛めだが、辛すぎない。
これもよい。
うまかった。
レモンサワー二杯。
ご馳走様でした。
勘定をして、出る。
ここの開業は関東大震災後の大正14年。
なんと創業92年。
現ご主人は三代目だが、三代目になってからも
すでに30年以上にはなるのであろう。
フレンチ仕込みの煮込みの味もこなれ、
深川大衆酒場の味になっている。
それがここの底力。
そして、多くの料理に細やかに神経が行き届いている。
やはり居酒屋としては別格であろう。