浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



小松菜にびたし〜江戸・東京野菜のこと。

dancyotei2015-10-21

10月19日(月)夜

帰り道、なにを食べようか、例によって考える。

小松菜の煮びたしにしよう。

小松菜というのは、今は全国区の野菜だと思うが、
もともとは、江戸・東京原産の菜っ葉である。

これは意外に知らない人もあるのかもしれない。

享保4年(1719年)、鷹狩好きの八代将軍吉宗が、例によって
鷹狩に出掛けた先が、武州南葛飾郡小松川村で、

『接待役を務めた香取神社の神主が、この地で取れた青菜を
彩りにあしらった餅のすまし汁を供したところ、いたく気に入り、
「この青菜は何という名前か」「特に名はございません」
「それでは“小松菜”と呼ぶが良い」となったとされている。』
(JA東京中央資料より)

小松川村とは、江戸川区小松川。今のこの神社のある町名は
江戸川区中央4丁目。新小岩駅から平和橋通りを少し行った
左の方である。

小松菜は実際には小松川だけでなく、江戸開府以前から、
武蔵国周辺で栽培されていた菜っ葉だそうな。

私にとっては、小松菜は故郷の野菜である。

小さい頃、今の品川区大井町あたりで先祖代々生まれ育った
父方の祖父母が同居していたのだが、
よくこの小松菜を濃いしょうゆ味で煮込んだ
煮びたしが食膳にのぼっていた。

我が家では雑煮の青みも、小松菜を使う。
東京では最もなじみの深い菜っ葉であろう。

そんなことで、小松菜の煮びたしは、
冬が近づくと食べたくなるおかず、で、ある。

京都の地の伝統野菜、京野菜はブランドになり
お洒落な食材として認知され、よい値段で売られてもいる。
金沢の加賀野菜などもしかりであろう。

これに対して、小松菜のような江戸・東京の地の野菜というのは、
ほとんど知られていないのではなかろうか。
かくいう私自身も小松菜以外には、ほとんど知らない。

はて、小松菜以外には、、、なにがあったっけ?。

そう。白い独活(うど)。
山独活ではなく、白くて細長いもの。
多摩地区で、畑に深い穴を掘って、日光を遮断した
ところで栽培されている。

うん。
これはよく知っている。東京のスーパーにも出回っている。
独活は、好物。
酢味噌で、うまい。

千住(千寿)ねぎ。
いわゆる普通の白ねぎだが、今でも北千住には専用の市場があり、
都心の老舗料理やや、老舗蕎麦やにおろしている。
江戸前料理には欠かせないものである。

あとは?。
う〜ん、、、。
そうだ!。

名前だけで、今は当地では作られていないが、谷中生姜。
これも大好き。
夏場は、週に1〜2回は食べている。

その他、名前だけ、知識として知っているのが、
亀戸小かぶ、滝野川牛蒡(ごぼう)。

そうそう。
忘れてはいけない。私は練馬区の大泉で小中学校を
すごしたのであった。
そう、社会科の副教材「私たちの練馬」で習った、練馬大根。
たくあん用にたくさん作られていたと、教えられた。

だが、これもその頃にはもう既に作られておらず、
食べたことも見たこともない。

はてさて、東京の地の野菜、どんなものか。

この件、ちょっと調べてみたら、いろいろなことがわかった。
ちょっと興味深いので書いてみる。

なんと、東京の農協、JA東京中央では、、

そもそも現代の東京に農協があるというのもまり知られていなかろう。
特に23区に住んでいれば、ほとんど存在感はないかもしれない。
私が育った練馬区の大泉では、大泉農協というのが
確かにあったし、大泉には畑も少なからずまだあり、
小学校のクラスに二人は農家の子供がいた。

ともあれ、先に資料を引いた、JA東京中央では、小松菜や
独活といった今でも継続して作られて売られているものだけではなく、
既に絶えてしまった、江戸・東京野菜の復活活動をしているのである。

こんな活動、あまり報道もされていないのではなかろうか。
少なくとも私は、不勉強なことではあるが、まったく知らなかった。


江戸・東京野菜マップ(JA東京中央)



「平成27年9月末時点で江戸東京野菜として承認されている42品目」(同)

中心的に活動されている江戸東京・伝統野菜研究会、大竹道茂氏
(JA東京の関係者でもあられるよう。)
というような方もいらっしゃる。

それぞれ復活させているものはまだ農家数軒で、農家の庭先販売、
あるいはJAの直売所などで売られているだけのようで、
一般には流通はしていないという。

荒川区三河島三河島菜と枝豆。
墨田区の寺島ナス。
新宿区の早稲田ミョウガ内藤新宿の内藤トウガラシとカボチャ、
などなど。

これら、ただその土地の名前がついているだけでなくて、オリジナルの種、
固有種、固定種(?)である、というのがポイントなのであろう。

東京において、今さら地産地消というのは、
ナンセンスであると思うが、東京が江戸から続いている
いちローカル都市であることの証明でもある。

そして、私たちの先祖の食卓に頻繁にのぼっていた
野菜である。少なくとも東京にルーツのある者は
知っておくべきであろう。
(そんなわけで、私もひい爺さんまでさかのぼれば
荏原郡大井村の百姓である。)

といったことで、小松菜と油揚げの煮びたし


本当は浅蜊むき身がベストの故郷の味。
今日は手近にある、油揚げと。

油揚げは二枚。
小松菜は一把買ったのだが、思いがけず一把の量が
少なく、油揚げの中に小松菜が隠れている、
という状態になってしまった。

微かに苦味のある小松菜に酒としょうゆだけで、
辛く煮た煮びたし
懐かしく、うまいもんである。