浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)
断腸亭料理日記本店
 

鶏と大根の鍋

12月2日(火)夜

そろそろ、そんな時期であろう。

なにかというと、鶏と大根の鍋、で、ある。

夏の頃からであったか、ついこの間まで大根は
随分高かったような気がするのだが、
このところ店頭では一本¥100なんという値段も
見かけるようになった。

そして、めっきり寒くなった。
簡単であるし、やろうか。

これは鶏肉と大根だけの鍋で、味付けもしょうゆをかけるだけと、
まったくシンプル。

だが、うまい。

私は冬になると毎年なん度もやっているが、池波レシピ
で、ある。

池波正太郎先生の三大人気シリーズ
鬼平」「剣客」「梅安」のうちの「梅安」に
登場する。

針医者で裏の稼業が金で殺しを請け負う仕事人である梅安。

旧知の萱野(すがの)の亀右衛門という元香具師の元締めが
品川台町にある梅安宅に訪ねてきて、この鍋をはさんで話をする。

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 「ま一つ、こんなものでもよければ、いっしょに箸を入れながら、

 話し合いましょう」

 畳に部厚い桜材の板を置き、その上の焜炉(こんろ)に

 土鍋が懸かっている。

 ぶつ切りにした大根と油揚げの細切り。それに鶏の皮と脂身を、

 これも細切りにし、薄目の出汁をたっぷり張った鍋で煮ながら食べる。

池波正太郎著 「仕掛人・藤枝梅安 梅安針供養〜あかつきの闇」講談社文庫から


梅安針供養 仕掛人・藤枝梅安(四) (講談社文庫)

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帰り道に、大根と、作品の通りだと鶏皮と油揚げだが、
今日は鶏皮でも手羽先でもなく、やっぱり安い手羽元を買って、
帰宅。

大根というのは、大きく切ったものは煮るのに時間がかかり、
実際には煮たそばから食べるという鍋料理としては、
不向きではある。

池波先生の大根の鍋には浅利むき身のものもあり、
こちらの大根は千六本(千切り)で、これであれば
煮えたそばから食べられる。

それで、大きく切った大根はある程度下茹ででもしておく必要が
この鍋の場合には出てくる。

そこで、またまた圧力鍋の登場になる。
(今日は水煮、大丈夫であろう。)

大根は1〜2cmの厚めだが、銀杏切り(1/4)。

この鍋は、大根を味わうというものなので、厚く切らなければならない。

大根一本の半分ほどを切って、圧力鍋へ。

手羽元も1パック全部を入れ、水をヒタヒタよりも少し多いくらい張る。

これも作品では水ではなく「薄目の出汁」になっている。

この「出汁」というのはむずかしいのだが、
昆布や鰹のダシ、というのではないのであろう。
旨味としてのダシは鶏皮から出る。

この出汁は、つゆというくらいの意味ではなかろうか。

つまり、薄く色の付くくらいしょうゆを入れたつゆ
ではないかと思うのである。

薄く色の付くくらいならば、どうせ後からしょうゆをかけて食べるので、
むしろ水の方がよいだろうと、私は水にしている。

ともあれ。ふたをして点火。

強火で圧をあげて上がったところで、弱火で5分。
あとは火を止めて、放置。

これだけで準備は完了。

その間に、この日記の更新やら作業を終えて、3〜40分後。

ふたを開ける。

むろん煮えている。

これをつゆごと土鍋に分ける。

作品の「焜炉(コンロ)」というのは七輪といってよろしかろう。
(桜板を畳の上に敷いてこの上に七輪を置いてやっている、
ということである。)

七輪はともかく、ほんとうは炭を熾して、火鉢でやりたいところであるが、
ウイークデーにはそんなゆとりはない。

カセットコンロである。

お膳の上にセットし、小皿、しょうゆ、箸。
ビールとグラスを用意。

カセットコンロに点火しもう一度、煮たてる。



見た通り、書いた通り、本当に、手羽元と大根だけ。

ビールを抜いて、大根と手羽元を小皿に取り、
しょうゆをたらして、食べる。

これがまた、うまい。

手羽元からも、むろんだしが出ている。

つゆもまた、うまい。

大根というものは不思議なものである。

生のおろし、味噌汁の千六本、おでん、甘辛く煮たぶり大根、
ふろふき、、、。

皆、それぞれ味が違う。

鶏と大根の鍋、これも大根のうまい食い方、の一つであろう。