浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鶏と大根の鍋

11月16日(火)夜



だいぶ、寒くなった。
今日なども一日曇りで、あった。


オフィスからの帰り道、牛込神楽坂の駅に向かいながら、
なにを食べようか、考える。


鍋か?


それも、簡単に。


と、なると、鶏と大根の鍋


これは池波レシピ、だが、なにより簡単でうまいのが、よい。


鍋といえば、一般には、寄せ鍋、などといって、
いろんなものを入れるが、池波先生の鍋は、
とにかくシンプル。
主となるものと、野菜は一品。


この方が、それぞれの味に集中できる。


江戸の味、と、いってよいのかどうか
わからぬが、庶民の味、であることは
間違いなかろう。


中味が二品というのは、
なにより、気持ちがよいし、
潔(いさぎ)よいではないか。
池波先生のいう『江戸前の酒の肴』らしいもの、
と、いってよかろう。


鶏と大根の鍋の基本は、大根を食べるもの。
その出汁が鶏。
出汁が最も出るのは、鶏皮。
鶏皮だけ買う、という手もあるが、
皮だけ、というのは、どこのスーパーにも
売っているものではない。
手羽先、などを一緒に煮てもよい。
骨付きで、皮もあり、出汁は出る。


100円コンビニに寄って大根を半分。
すると、ちっちゃなものだが、鶏の手羽元があった。
これでいいか。


歩きながら、またまた、考える。
寒くなると、火鉢、で、ある。


先週あたりから、今年用の炭、6kg三袋を買ってきて、
寒い日には、火鉢に火を入れている。


火鉢で、鉄瓶、そして、燗酒、なのであるが、
これに鍋、と、なると、通常の丸い火鉢では、
両方はできない。


そこで、長火鉢、の、出番となるわけである。


長火鉢には銅壺(どうこ)と、いって、
鍋ができて、同時にお燗もつく、というスグレモノ
のアタッチメントがついている。
鍋とお燗を同時にしたくて、長火鉢を入手したのである。
しかし、実のところ、長火鉢というのは、木製のため、
温かさは陶器のものに及ばない、のである。


また、銅壺の中に水を入れ、熱くし、これでお燗がつくのだが、
これはこれで、準備に時間がかかる。
ウイークデーの夜に、長火鉢を用意するのは、
ちょいと現実的ではない。


火鉢の方は陶器を使い、鉄瓶でお燗つけで、
鍋の方は、若干情緒には欠けるが、
カセットコンロにしようか。


そんなことを考えながら、帰宅。


帰宅すると、すぐに、丹前に着替える。
これももう、この頃は、決まり、で、ある。


そして、火熾(おこ)し炭を三個ばかり入れ、
ガスレンジにかける。


同時に、大根の皮をむく。


むけたら一口に切る。


土鍋を取出し、水を張り、切った大根と
鶏の手羽元を入れて、ガスにかけ、火をつける。


煮立ったら、弱火にし、煮込む。


炭は熾ってきたら、火鉢に据え、鉄瓶をかけておく。


後は、鉄瓶が熱くなり、
大根が煮えるのを待つだけ。


とはいっても、多少は時間がかかるので、
その間に、日記書き。


書いているうちに、大根も煮え、
鉄瓶も熱くなった。


カセットコンロを用意し、鍋を据える。
箸、取り皿、しょうゆ、菊正宗の酒瓶を
卓袱台に用意。


一合徳利に酒を移し、鉄瓶に突っ込む。


菊正宗でもちょっといいもの、なので、
ぬる燗がよかろう。


鍋。





大根を取って、しょうゆだけをかけて、





食べる。


これだけのものであるが、
これほど大根というものが、うまかったのか、
というのがよくわかる、食べ方、で、ある。


鍋も温かい。
火鉢も温かい。






酒もうまい。



大根を取っては食べ、手羽元も食べる。


食べ終わると、出汁が出たつゆも、
しょうゆをたらし、全部飲み干す。


うまかった、うまかった。


温まった、温まった。