浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

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吉例顔見世大歌舞伎・通し狂言 仮名手本忠臣蔵 その4

dancyotei2013-11-10

さてさて。


まだまだ「忠臣蔵」は続く。


腹切り、城明け渡しの四段目が終わって、もう一幕。
昼の部、最後。



これは「道行(みちゆき)」。


まあ、踊りの幕。


先月の「義経千本桜」でもあった。


義経千本桜」は静御前と狐忠信の道行。


忠臣蔵」はおかる勘平の道行。


前にも書いたが、おかる勘平の話は、
この「仮名手本忠臣蔵」のもう一つの主要なストーリー。


この後、夜の部でお話は進む。


この「道行」にも一応、お話がある。


勘平も塩谷判官の家来で、おかるは奥方の腰元。


二人は恋仲。逢引をしていて、主君判官の大事に
立ち会えなかった。


勘平はこの罪を恥じて切腹をしようとするのだが、
おかるに止められて、二人は鎌倉を(駆け)落ち、
上方、おかるの実家である、京都の山崎へ向かう。


この前段のお話は、人形浄瑠璃ではちゃんとあるのだが、


今の歌舞伎ではまったくなにもなくこの幕になる。


まあ、皆が知っている前提なのであろう。


幕が開くと、桜の花が上からつるされ、
背景は菜の花の盛りで、遠く富士山が見える。


場所は戸塚あたりで夜のはずなのだが、
舞台は明るい真っ昼間。


まあ、不思議といえば、不思議。
お約束の幕、と、いうこと。


一しきり、一応お話がある踊りが終わると、
道化役の鷺坂坂内という師直の家来と、花四天(はなよてん)
という、派手な格好をした捕り手が登場し、


お約束の立ち回りがあって、勘平は彼らを追い払い幕。


義太夫ではなく江戸の清元がバックで、全編、お約束。


この道行の幕は他の芝居でもなん度か観ている。
はっきりいって、踊りというのは、私はまったくわからない。
以前は興味もない、くらいであった。


このため、まあ、有体にいえば、ウトウトする幕
ではあったのだが、さすがの私も慣れてきた、のであろう。


ウトウトもせず、緊張もせずに、気楽に観られ
たのしめる幕になった。


 
  

天保4年 江戸 河原崎座 「仮名手本忠臣蔵」『道行旅路の花聟』
おかる 三代目尾上菊五郎 早の勘平 五代目市川海老蔵


これで昼の部終了。


入れ替え。


夜の部は同じ一等席だが、花道の直近。





先に書いた、七三のちょい手前。
たのしみである。


夜の部は、五段目、六段目の続きの幕、おかる勘平の話
から始まる。


五段目『山崎街道鉄砲渡しの場』同『二つ玉の場』。
六段目『与市兵衛内勘平腹切の場』と続く。


寛平は、先の昼の部最後、『道行』で出てきた。


彼は京都山崎のおかるの実家に身を寄せて、猟師の生活をしている。


京都山崎というと、サントリーウイスキー山崎を
私などは思い出してしまう。
新幹線に乗って京都駅を出て大阪に向かう途中、右の
山側に見えるサントリーの山崎工場。あのあたり。


江戸の頃は山崎街道と呼ばれていたようで
京都から大阪を通らずに中国地方へ向かう、西国街道
京都から一つ目の宿場として栄えたという。


舞台は街道沿いの農山村といった趣。


鉄砲を持って蓑笠(みのかさ)の猟師姿の勘平。
雨が降っている。


勘平は菊五郎音羽屋。


ここの寛平は音羽屋代々の芸のよう。


勘平は同僚であった塩谷浪士の千崎弥五郎に
偶然にこの山崎街道で出会う。


勘平は駆け落ちをした前非を悔いて、仇討の仲間に
入れてもらえるように金を用意するので、由良之助への
とりなしを頼み、住まいを教え、別れる。


これが『山崎街道鉄砲渡しの場』。


引き続き、『二つ玉の場』。


同じ場所で夜。


おかるの父、与市兵衛。


おかるは夫、勘平を元の侍に戻したいと考え、
父、母と相談の上、京都の祇園町に身を沈める決心をする。


与市兵衛は祇園町で話をまとめ、おかるの身代金の半金、
十両を懐に山崎街道まで戻ってくる。


稲藁を掛けた稲掛けの影で休んでいると、なに者かが
後ろから与市兵衛の懐に手を入れその五十両が入った
縞の財布を奪い無残にも刺し殺す。


こやつは斧定九郎という者。
四段目に登場した由良之助ともう一人の家老、斧九太夫の息子。
身持ちがわるく父九太夫にも勘当され、今は追いはぎをするまでに
身を落としている。





仮名手本忠臣蔵」『五段目』文久2年 江戸中村座 画三代目豊国
斧定九郎 五代目坂東彦三郎 百姓与市兵衛 初代市川米五郎




この斧定九郎が、落語「中村仲蔵」で扱われている
初代仲蔵が工夫をしたもの。





(先日、四段目判官切腹の工夫をしたエピソードを落語「中村仲蔵
と書きましたがあれは別の落語「淀五郎」に登場するものでした。
お詫びして訂正いたします。)