浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



帝国ホテル・パークサイドダイナー

dancyotei2013-06-25


6月23日(日)夜

さて。

日曜日、夜。

今日は、帝国ホテルの[パークサイドダイナー]へ。

帝国ホテルは今年2月、日生劇場で歌舞伎を観た後、
[ラ
ブラスリー]
シャリアピンステーキを食べた。

なぜ帝国ホテルなのか、というと、内儀(かみ)さんの希望。

2月に[ラ ブラスリー]へ行ったので、今回は
もう少しカジュアルな[パークサイドダイナー]。

ここは予約はできない。

内儀さんは出ているので、現地待ち合わせ、18:30。

ここでは、なにを食べるのか。
むろん、ハンバーグステーキ、で、ある。

前回も書いたが帝国ホテルというのは、日本の『洋食』の
歴史の中では重要な地位を占めている。

[ラ ブラスリー]で食べたシャリアピンステーキは、
戦前にここで生まれたメニューであるが、ハンバーグは戦後。
それ以前からあったメニューなのだが、メジャーになったのは、
戦後であろう。

その元祖がこの帝国ホテル。
いや、もっというと、故村上シェフの仕事といってよかろう。

ハンバーグというのは、今でも日本では子供に人気のメニューであろうし、
私なども、ハンバーグを食べて育ち、五〇になる今でも好きな
メニューの一つではある。

どうなのであろうか。
ハンバーグステーキというものが大人から子供まで
好まれているメニューである、という国は、世界中で
他にあるのであろうか。

ん?。
そもそも、ハンバーグって、なに料理であろうか?。

帝国ホテルのこの[パークサイドダイナー]のページによれば
1930年にフランスから持ち帰ったメニューという。

先日のパリで食べた、タルタルステーキ

料理とすれば、このあたりが起源なのであろう。

これを焼いたものが、日本でいうハンバーグというもの。

近いものにアメリカ人の国民食ともいえる、ハンバーガーという
サンドイッチがあるが、あれは、パテと呼ばれ薄く、基本は
混ぜ物なしの、ビーフ100%。
やはり違うものといってよかろう。

玉ねぎなどの混ぜ物が入りソースで食べる料理も
Salisbury steakなどと呼ばれ、欧米各国にあるにはあるようだが、
やはり日本ほどメジャーなメニューではない。

なぜ、日本でこれだけメジャーになったのか。

それが取りも直さず、帝国ホテル11代総料理長村上信夫氏の
仕事であったということである。

村上料理長は、1957年にメインダイニングの総料理長になり、
1960年からNHKの『今日の料理』に講師として出演するようになる。

ここでたくさんのメニューを日本の主婦達に紹介したのであろうが、
その中に、このハンバーグステーキがあった。
そして、挽肉を材料に安くできるハンバーグは日本中の家庭に広まった。

やはり歴史としては、洋食やや、レストランのメニューから
というよりは、家庭に先に、あるいは、少なくとも同時に
日本中に広まっていったのであろう。

確かに、東京の老舗洋食やではハンバーグは、他のメニューとは
ちょっと存在感が違っていたり、ないところもある。
例えば、銀座の資生堂パーラーには存在しない。
ビーフシチューは多いが、少なくとも、ハンバーグを
看板にしているところはみあたらなかろう。
ハンバーグを看板にしているところがあれば、それは、
戦後のことで、この帝国ホテルのメニューから、だと思われる。

一人の料理人、あるいは、一軒のホテルが
これほど国民の食へ影響を与えた例というのは、
珍しいのではあるまいか。

故村上シェフと帝国ホテルがなければ、ハンバーグという
メニューは我が国に存在しなかったのかもしれない。

さて。

6時前、元浅草の家を出る。
都議選の投票を旧小島小学校ですませ、仲御徒町まで歩く。
仲御徒町から日比谷線に乗って、日比谷まで。

地下鉄を降りると、雨。
昼間は晴れており、降りそうな気配もなかったので
傘を持ってこなかった。やはり梅雨、で、ある。
コンビニでビニール傘を買って、帝国ホテルへ向かう。

日比谷シャンテの前、日生劇場と宝塚劇場の裏がさら地になって、工事中。
今は都心部は代わりばんこで、どこかしら再開発をしている。
ここ、なんだったのであろうか。思い出せない。

列になっていたのだが、内儀さんが先に着いて、
待っていたので、私が着くと、すぐに座ることができた。

座って、ビールをもらって、ハンバーグステーキを頼むと、
20分ほど時間がかかりますので、オードブルかスープはいかがですか?
といわれた。

オードブルプレートをもらおうか。



手前が蟹ののったポテトサラダ、左が魚介類のマリネ、
奥がツナサラダ。

やはり、予告通り、20分程度はかかったか。
ハンバーグステーキ。



持ってきた女性の、ナイフを入れるときに、
脂が飛び出ますのでお気を付け下さい、という
注意とともに出された。

アップ。



この注意は、必ずいうことになっているのであろう。
脂はタップリ出たが、さすがに、飛び散りはしなかった。

肉汁たっぷり、ジューシーでうまい、などというTVの食番組のような
コメントになるのであろうが、これはたいした誉め言葉ではない。

ただの肉汁たっぷりのハンバーグを作るのは簡単である。
私も作ったことはあるが、生地に脂、例えばラードなどを
たっぷり入れると、肉汁たっぷりなものが出来上がる。

このハンバーグのポイントは味ももちろんだが、
食感ではなかろうか。
妙な表現かもしれぬが、とてもデリケート、繊細な食感。
堅いわけではないが、とてもしっかりしており、ポロポロ
崩れたりはしない、しかしなめらか。

デミグラスソースは赤ワインの風味の立った上品なもの。

これが日本全国、津々浦々へハンバーグを広めた、
帝国ホテルの、元祖ハンバーグステーキ。
その名に恥じぬものであろう。

うまかった。
ご馳走様でした。


帝国ホテル