浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



合羽橋・太助寿司

dancyotei2006-08-24

8月21日(月)夜


さて、メキシコから帰り、
夏休みも終わり、仕事の日々が戻ってきた。
ほんとうは、昨日、行こうかと思っていたのだが、
時差がとれず、へんな時間、PM2:00〜PM8:00、に寝てしまい、
行きそびれてしまった。


やっぱり、日本へ帰ってくると、まずは、生魚(なまざかな)が
食いたい。このことである。


7時過ぎ、出先から、そのまま向かう。
稲荷町で銀座線を降りて、歩く。


入ってみると、先客が少し。
最近はもう、あたりまえ、のような感じになってきたが、
またまた、このページを読んでくださっている方が来ていた。
ご夫婦で、筆者とは40代前半の、同世代。
やはり、読者の方は、どうしても同世代以上の方が多いようである。
若い方、というのは、少ないものである。
20代はともかく、30代という方も少ないようである。
まあ、太助寿司に来れる30代、20代というのもなかなか、ない
かも知れない。
(同世代でも子供がいては、難しかろうが。)


しかし、太助寿司はともかく、この日記を通して筆者が
伝えたい、なにものか、は、ほんとうは、より若い方に対して
のものもある。なかなか難しいものである。


たとえば、「大人の男」になろう、ということ。
池波正太郎先生のいう、「男の作法」である。
たとえば、鮨屋での、大人の男の振舞い方。


スノッブ(俗物)ではなく、ダンディズム。
金ならあるぞ、好きなものを好きなように食わせろ!、ではなく、
あるいは、通ぶって、鮨屋の符丁
(おあいそ、むらさき、あがりなどなど)を並べるのでもなく、
いかに格好よく、頼み、食い、呑み、話し、
勘定をし、店を出るのか。


その昔、池波先生の世代までは、大人の男(ことに、東京の)には
美学があり、していいこと、してはいけないことがあった。
そうしたことが、いつの頃か、日本人の男の中で、途切れてしまっている。
池波先生などの、大正生まれ、までなのであろうか。
筆者の父親世代、昭和一桁、だと戦争があり、もう、そんな余裕は
なかったようだし、その後、疎開世代、さらに団塊世代、になると
はなはだ、心許ない、と、言わざるを得ない。
(むろん、そうでな方もいらっしゃるが。)


筆者らの世代は昭和30年代(私は、30年代末)から40年代、
もはや戦後ではない、という時代に生まれ、高度経済成長とともに成長し、
社会人になり、「ジャパン・アズ・No.1」の時代からバブル、
バブル崩壊、、、。そんな時代に育ち、社会人として暮らしてきた。
白い飯を生まれた時から食い、今ほどは豊かではないが、
それでも、少年時代、物がない、と、いうことは知らない。
成長後、ジャパン・アズ・No.1と、バブルを経験していることもあり、
欧米人はむろん怖くもないし、当時は若く、金はなかったが、
ブランドモノや、一流品、一流店といわれるものも
いつかは、着てみたい、食べてみたい、行ってみたい、
という、感覚を持って育ってきた。


そして、(筆者の場合は子供がいないこともあり、)
ある程度、自由になる金もでき、それなりに、いろいろな経験もし、
ほんとうにいいもの、見かけ倒しのものもわかり、
自分なりに基準もできてきた。
そのなかで、モノだけではなく、ほんとうに豊かであること、は
むろんのこと、心であり、世に出ては、男として、恥ずかしからぬ作法を
身に付けた大人になりたい、いや、ならなくてはならない。
ここに、たどり着くわけである。
そうすると、やはり、日本が戦争に負ける前の
最も豊かに駆け上がった時代の、大正生まれ世代、池波先生の頃と
もしかすると、ある種、共通するものがあるのかもしれぬ。


「大人の男として、恥ずかしからぬ振る舞いを
あなたも、たとえば鮨屋で、したいと思いませんか?
日本にも、そんな男の美学が、あったんですよ!」
そんな、自分達が今まで目指し、これからも追いかけるであろうことを、
私は、若い諸君にも、伝えたいのであるよ。
そこの、団塊ジュニアの、あなた!!あなたです!
是非、池波正太郎を読んでほしい。
鬼平犯科帳」や「剣客商売」を、そして「男の作法」を。


男の作法 (新潮文庫)


モノや金だけではない、より豊かな人生が送れると思うのである。
(ついでに、落語も聞いてほしい。立川談志家元は
『落語とは人間の業(ごう)の肯定である』と言ったが、
お笑い、という側面だけではなく、そこには江戸・東京の成熟した
大人の文化が語られてもいるのである。)


例によって、ゴタクが長くなってしまった。
太助寿司であった。
(太助寿司も身銭を切って、いろいろな鮨屋を回り、
恥ずかしい思いや、悔しい思いを何度もしながら、
たどり着いた、うまい鮨屋なのである。)


ともあれ、太助寿司。今日は、ダイジェストで。


お通し。
まて貝つけ焼き、うにの豆腐、じゅんさい


つまみ。
鯛(東京湾)、あまみがある。
白いか、中トロ(壱岐)、たこ、赤貝、子持ち昆布


蒸し物。
百合根まんじゅう。
かに肉が載せられ、わさびが添えられている。
うまい。


握り。


あぶった秋刀魚(根室)。
みる貝(ほんみる)(富津)、あまい。
馬糞うに(利尻)。
半生にあぶった生車海老(駿河湾)。
しんいか下足、甘だれ付き。
新子。さっぱり。



大粒の子小柱。プリプリ。



穴子
親方が「夏だから、きゅうりがうまいよ」と、
かっぱ巻き
確かに。




今日も、うまかった。




地図