浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭落語案内 その63 金原亭馬生 柳田格之進

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引き続き、十代目金原亭馬生師「柳田格之進」。


「あー、大切な友達を失くしてしまった」と、
万兵衛は慌てて、人を出し、柳田を探す。

だが、ようとして、柳田の行方は知れない。

季節は冬、暮れになる。

商家は煤払い、大掃除。
万屋も煤払い。
すると、離れの額の裏から、五十両の財布が見つかった。

万兵衛は、月見の夜、手水(ちょうず)に立った時に自ら
額の裏へ置いたのを思い出す。

煤払いは、すぐにやめ、再び柳田を探す。
だが、やはり見つかるものではない。

年が明ける。

元日から雪になり、二日は雪景色。
主人の万兵衛と番頭の徳兵衛は手分けをして年始回り。

徳兵衛は山手方面。
湯島の切通しを降りてくると、下から駕籠から降り、
坂を登ってくる身形(みなり)のよい武士がいた。

武士は雪の坂を登る駕籠かきを気遣い、駕籠を降りて
歩いていたのである。

武士の方から徳兵衛に声を掛けてきた。
これがなんと、柳田格之進であった。

徳兵衛はむろん驚く。
これで、自分と万兵衛の首がなくなる、と。

柳田は湯島天神境内の料理やへ徳兵衛を誘う。
元の彦根藩に帰参がかなったという。

徳兵衛は五十両の財布が出てきたことを柳田に話す。

柳田は、めでたいな、あの折の、約束を忘れていないな、と。

明朝、その方と万兵衛の首をもらいに行く、
よろしくな、と、徳兵衛を帰す。

徳兵衛は万屋へ帰り、万兵衛に話す。

万兵衛は柳田の帰参を喜ぶ。
首はあげましょう、と。

翌朝、雪の明日の日本晴れ。
目に痛いような白い雪を踏んで柳田が現れる。

新年の挨拶。
世話になったが、お蔭で帰参が叶った、喜んでくれ、
と柳田。
万兵衛は柳田に祝いを述べる。

徳兵衛から聞いたな、今朝はそれをもらいにきた。

はい。柳田様に申し上げます。
私はもう老い先短く、かまいませんが、この徳兵衛、
十一の年から天塩にかけて育てて、これだけの商売人に
いたしました。先行きもあります。どうぞ私だけで、徳兵衛は
助けていただきとうございます、と万兵衛。

徳兵衛は、柳田様、それは違うんです、ご主人様、なにを
言ってるんです、ご主人様はよせと言ったのに私が勝手にやったこと、
わたくしが全部わるいんです。あたくしだけ首を討って、、

万兵衛は、なにを言ってるんだ、柳田様、私が一人切られれば、、

黙れ!、
だまれ、、、だまれ、、、、、、、と柳田。

赤貧の浪々の身の中、あの五十両をどうして拵えたと思う。
娘を売った金なんだ。

主家に帰参が叶い、すぐに金を借りて吉原へ行き、身請けをした。
だが、娘は泥沼へ入ったことを恥じ、誰とも会おうとはしない。
この父親に顔も見せぬ。食事もほとんどせぬ。
日毎やせ衰え、その後ろ姿はまるで老婆のようだ。
その姿に慰める言葉があるか。あるなら教えろ。あるなら教えろ。

娘に、お前達二人の首を並べてわしが頭を下げる。
それしかない。

両人とも切る。

申し訳ございません。手前どもだけ勝手なことを申しました。
どうぞお切りください、と万兵衛。

だぁー、

っと切り落としたのは、万兵衛、徳兵衛の首ではなく、
床の間に置いてございました、碁盤。

白と黒の石が、凍てついた畳の上に、ぱーっと散った。

どうしても、その方(ほう)をわしは切れぬ!。


柳田の堪忍袋という一席でございました。


これでお仕舞。
枕も入れて、50分弱。

いかがであったろうか。
私はよい噺であると思っている。

なにがよいのか。
季節感である。

春に始まり、夏の暑い盛り柳田は万兵衛と碁会所で出会う。

そして十五夜。五十両の一件が起こり、
柳田は娘を吉原へ売ることになる。

暮れの煤払い。
十両は出てくる。

雪の正月。
湯島の切通しで帰参が叶った柳田と徳兵衛が出会う。

柳田は万兵衛、徳兵衛の首をもらいに万屋へ行くが
切れず、碁盤を切る。
凍てついた畳に白黒の碁石が散る。

かなりの名作ではなかろうか。

映像が見えてくるし、なによりも肌感覚に伝わってくる。
落語、人情噺で、このようなものは珍しかろう。

最後の「凍てついた畳」など、もはや私も忘れている
遥か子供の頃の体験か。素足の裏に貼りつくような畳である。

 

つづく