二番目は踊り、所作事の幕。
上下と別れており、上は「越後獅子」。
下が玉三郎先生の「傾城」。
越後獅子、あるいは角兵衛獅子という。
主として春、子供が獅子の面をつけて踊る、大道芸といって
よいのであろう。
越後といっているくらいで、越後月潟村(現新潟市南区)を本拠に
親方が子供を連れて芸をさせてまわっていたもの。
笛に太鼓、それに踊る子供2〜3人の組み合わせ。
落語などにも出てくるが、江戸では春の風物詩であった。
明治頃までは東京でも盛んに見られたようだが、
子供を使うことで、教育を受けさせない、あるいは虐待、
人買いの噂などあって、警察などの取り締まり対象にもなり
昭和初期には衰退していったようである。
なんとなく悲しい歴史、で、ある。
江戸東京でかなり一般的で、それこそ皆が知っている大道芸で
あったのに、私などもほとんど観たこともない。
それには、こういう歴史があって、地元新潟では、むしろ
歴史から消したい芸能であったともいう。
さもありなん。
歌舞伎芝居の中の踊りにも、江戸期から取り入れられていたもの。
私は芝居でも見るのは初めて。
五世中村富十郎七回忌追善狂言と銘打たれ、
演じるのは富十郎子息の鷹之資。
富十郎は2011年に81歳で他界しているが、
人間国宝までなった人。
踊りの名手でかの「京鹿子娘道成寺」は初代富十郎が初演して
富十郎家、家の芸ともいう。
そういえば、滅多に役者を褒めない池波先生が
絶賛、ご贔屓であった。
晩年は舞台に立たれなかったのか、
富十郎というのは私は観た記憶がない。
今日の、角兵衛獅子を演じる子息鷹之資は17歳。
亡くなった富十郎と年がかなり離れているのに気が付く。
そう。
富十郎は66歳の時に、33歳の奥さんをもらって、
一男一女をもうけているのである。(うらやましい。)
式三番叟ノ内 三番叟 角兵衛獅子 初代国貞画
1828年(文政11年) 江戸 中村座 二代目中村芝翫
ともあれ。
鷹之資というのは17歳にしても小柄で、
子供が演じた角兵衛獅子にはぴったり。
庇護する名代(なだい)、大看板がいるのかいないのか、
わからぬが、名流とはいえ、父親のいない若い役者は
なかなかたいへんなことであろう。
さて。
お待ちかね、玉三郎の「傾城」。
傾城というのは、けいせい、と読み、城を傾けるという意味だが
遊女、まあ、江戸ではほぼ吉原の花魁のことを指す。
吉原の四季をテーマにした花魁の踊り。
私なんぞがいうのもあまり説得力がないが
玉三郎という役者はほんとうにうまい。
他の女形の踊りと比べても、まず、違う種類のものを
観ているよう。
なにが違うといって、歌舞伎の踊りの場合、
他の人であれば、その役者というものが、どこかから
見えてくるように感じられる。
しかし、玉三郎の踊り(芝居も然りだと思うが)は、
ここで踊っているのが玉三郎という踊り手でもなく、
どこか天からか舞い降りてきたようななに者かが、
遊女の姿を借りて踊っているような、なにか超越している存在に
感じられるのである。
三番目。
「松浦の太鼓」。
忠臣蔵の外伝作品。
安政の頃の芝居に源流があるようだが、
明治15年 (1882年)に初代中村歌六に当て書きされ
その子、初代中村吉右衛門以来、当代吉右衛門、
同幸四郎などに伝えられているよう。
それで、今回も染五郎が松浦候を演じている。
登場人物は、肥前平戸藩主松浦鎮信、松浦候。
四十七士のうちの一人、大高源吾。
俳人、宝井其角のほぼ三人。
これ、忠臣蔵関係では、大河ドラマなどでもよく取り上げられる
代表的なエピソードの一つであろう。
私なども好きな話し、で、ある。
ご存知の方も多いのではなかろうか。
ただ本当は、松浦候ではなく、旗本土屋主税。
これは史実でもあるらしい。
本所吉良邸の隣がこの土屋主税の屋敷。
土屋主税は、俳句を嗜み、其角の弟子。
四十七士の大高源吾も其角の弟子。
それで、土屋主税は浪士の討ち入りを影ながら助けた、
とまあ、そういう話しである。
(松浦候を土屋主税に書き換えた芝居も別にあるようであるし
TVドラマでは土屋主税にするのが一般的であろう。)
大高源吾が愛之助。
この芝居の主人公はどちらかといえば、こちらである。
愛之助の芝居はなん回か観ているが、
今回はよかった。
討ち入りの前日。
大事を明かせない辛さを秘めて、其角や松浦候に対する。
むろん現代劇ではないが、明治の作品であるからか、
時代時代しておらず、比較的台詞もわかりやすい。
こういうものは愛之助にはハードルが低いのかもしれない。
其角が「年の瀬や 水の流れも 人の身も」という発句を源吾に出すと
「明日待たるる その宝船」と源吾は返す。
これが明日が討ち入りです、という隠したメッセージ。
屋敷が隣なので、討ち入りが始まり、皆に、ああそういうことであったのか、
というのがわかる、という仕掛。
塀越しに本懐を遂げたこともわかって、めでたしめでたし。
肩の張らない、正月らしいよい芝居であろう。
完