浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



日本橋・蕎麦・やぶ久 その3

今日も昨日のつづき。


日本橋界隈、市中見回り。
一石橋あたりから、西河岸、そして
日本橋花柳界を描いた、泉鏡花の『日本橋』のことを
書いてきた。





先日の神田明神下の花柳界、講武所から、
今日の日本橋花柳界となんとなく、花街の話が
続いている。


まあ、江戸はともかく、明治以降、東京の下町、
繁華街の歴史を振り返ってみると、花柳界
三業地というものが、今では想像もつかないが、
いたるところにあった、ということがわかってくる。


なんでこんなことにを調べて書いているか。


表に出てこない事柄であるが、抜きには考えられない、
東京の街の歴史として知っておきたいもの、だからである。


好き嫌いは別にして、近所の湯島天神下にしても、
誰かが教えてくれるわけでもなく、ここは、
なんであったのか、知らないと、ぼやぁ〜んとした、
街の中で穴があいている、ところ、として
感じていたのである。


だが、一方で、こんなこともある。


前から、薄々感じていたことではあるのだが、
これだけ三業地がありながら、東京人、特に下町生まれの者は、
こうした、いわゆる、芸者遊びというのもは、あまり、
しなかったのではないか、と、いうこと。


なんとなれば、落語には、芸者の噺は、
皆無ではないが、膨大にある吉原の噺と比べて、
圧倒的に、少ない。


また、池波先生は、実際、こんなことも言っている。




「あのころはね、ぼくら兜町の連中は、芸者遊びは軽蔑したんですよ。


芸者は全部カネが主体の遊びになるわけね。お女郎屋は、カネは全部、


内所(ないしょ)に払うんで、カネ抜きの感じになっちゃうんだよ。


あとは内所とお女郎の関係になるんだから。芸者遊びは札ビラを


きらなきゃ遊べない。ああいうところは、東京のもんは遊びに


行くんじゃないって。事実、そういう気しましたね。」


江戸の味を食べたくなって (新潮文庫)
『江戸の味が食べたくなって』(新潮文庫




(内所とは、店の内(うち)、というような意味で、
特に女郎屋で店、主人のことを指した言葉。
女郎屋の場合は店に払うだけでよかったが
芸者遊びは、座敷で祝儀も払わなければ遊べない、
ということなのか、と、思われるが、厳密には
私もよくわからない。いわゆる芸者を呼ぶ費用、
花代(はなだい)も直接芸者に払ったのか、、。
いずれにしても、芸者の場合はなんらか直接金のやり取りを
したのであろう。)筆者注




これは、同じく東京生まれの、山口瞳との対談での
池波先生の言葉である。池波先生は、小学校を出ると、
株屋の小僧をはじめ、10代の頃は株である程度儲け、
そうとうに“遊んでいた”。「あのころ」、というのは
その頃のこと。年代的には、昭和10年代から戦争が始まるまで
である。


じゃあ、東京で芸者遊びは誰がしていたのか。
田舎から出てきた“成り上がり者”ということになろうか。
(この対談でもこのあたりで、二人は盛り上がっていた。)



日本橋の西河岸、一石橋と日本橋の間の南河岸、の
西河岸稲荷から、話題が飛んでしまった。


その、西河岸稲荷から、日本橋方向へ歩く。
江戸の頃は、なかったが、今は一石橋と日本橋
間にも、一本小さな橋がある。
その先、右側は、飴の榮太樓のビル。
我々の子供の頃はもう既に、飴などは、珍しいもの
ではなかったが、それでも、あの、缶に入った赤と、
鼈甲(べっこう)色の飴は、よくなにかのみやげにもらっていた。


ちなみに榮太樓は安政四年(1854年)、ペリー来航は
安政元年、の創業で、その頃からここにあったようである。


そして、左側、日本橋の袂には国分の本社ビル。
「ここは日本橋1−1−1」と、書いてある。


国分の本社がここにあるのは、やはり、
魚河岸がここにあったことと無縁ではなかろう。


今、K&K国分、一般には、コンビーフ、が思い浮かぶ
かも知れぬが、全国のスーパー、コンビニ等に酒類、食品を卸す、
国内食品卸の大手。
国分は江戸の頃から、この場所で既に商いをしていた。
江戸の頃は、醤油醸造と酒の問屋であったようである。


中央通りに出て、右に曲がる。


数軒先に、御徒町うさぎやの中央通り店があり、
その手前が、扇子などを扱う、永頼堂美術店。
永頼堂も、江戸から続く老舗。
(この時間は既に閉店)


永代通りを渡り、右。
路地を左に入り、やぶ久、到着。
(どうでもよいが、この路地、立ち喰いも含めて、
そばやが3軒も並んでいる。)


6時半、であるが、一階、二階、三階と、
三つも宴会が入っているようで、一杯。


腰の低いご主人は、7時までで、三階なんですが、、。
と、申し訳なさそうに、いう。


私は、なんら問題はない。
三階に上がる。


座り、エビスの瓶をもらう。





お通しは、ここはいつも昆布巻きであるが
今日のは湯葉で巻いたものであろうか。


さて。


一息ついて、そばは、どうしようか。
冷やしのぶっかけ、のようなものもある。


なかで、桜海老かき揚げ、、
どこかで、聞いたような、、


気もするが、うまそうである。


呑みながら、待って、、
きた。






かき揚げ以外にも、アスパラ、おろしも、のっている。


やはり、問題なく、うまい。


満足、満足。


階下(した)へおりて、勘定。


すみませんでした、と盛んに詫びるご主人。


とんでもない、おいしかったです、と。


ご馳走様でした。






やぶ久