浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭2019夏・モルディブ その4

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引き続き、モルディブ

朝飯を食べて、ダイブセンターへ。

潜っていない期間が一年以上なので、リフレッシュダイビング。
丁寧にするところもあるが、比較的簡単に終了。

私自身は、25年ほど潜っていて、160本ほど。
なん年か潜っていない頃もあった。
ここ数年は夏だけのリゾートダイバーだが毎年続けて潜っている。
あまり不安はない。

まあ、私自身、元来うまい方ではないと思う。
不安がなくなったのは、やっと最近かもしれない。
まずは、浮かばずに潜れる。
耳抜きができる。
マスククリア、マスクに入った水を抜ける。
そして、中性浮力といって、浮きも沈みもしない状態を取れる。
水中で、真っ直ぐ泳げる。

これら基本中の基本だと思うが、いつも特に意識しなくとも
不安なくできなければいけない。さもなければ、危険なスポーツ
なのである。
それがやっとここ数年ということである。

そのまま、ボートダイブへ。

ポイントへは20分ほど。

DHIGU THILA

発音はドゥヒグ・ティラでよいのか。
ティラはなに語であろうか、リーフのこと。

海上にはほぼ出ていない独立したサンゴ礁

潜るとすぐに、大量の小魚の群れ。

さすがにモルディブ、魚影が濃い。

リーフの平なところまで降りる。

赤い小魚はキンギョハナダイか。

独立しているリーフのためか大きなものもいる。

イソマグロか。

クマノミとイソギンチャク。

このクマノミはノーマルなクマノミ

なかなか真横からきれいに撮るのはむずかしいのだが、撮れた。

名前はタテジマキンチャクダイか。

お気付きであろうか、サンゴがほぼない。

昨年は、モルディブでも南部で、サンゴは場所によるがもう少しあった。

だが、このあたりは、こんな感じ。
以前はびっしりあった、枝サンゴやテーブルサンゴ
まったく見られなくなってしまった。

最近もニュースになっていたがグレートバリアリーフ、沖縄その他、
世界中のサンゴ礁が、海水温の上昇で壊滅的な打撃を受けている
のである。

モルディブでも南部の方が、海流などの関係で海水温が比較的
上がりにくく、比較的残っていると聞いた。

サンゴがあるということは、見た目に美しいということだけでは
もちろんなく、魚など他の生き物へ生活環境を提供している。

それでもこれだけの小魚たちがいる。
逆にいうと、サンゴが生きていればもっともっと豊かな
生態系を作っていた、ということになるのかもしれぬ。

ちょっときれいに撮れた。

イソギンチャクとクマノミ
このクマノミは、ハマクマノミというよう。
黒、白、黄色で白い背びれがツノのようになっているのは、ツノダシ。
それから、上の方にいる白いラインが頭の後ろに入っているのは、
コーラレ・バタフライ・フィッシュというチョウチョウウオ
たくさんいる黒い小魚は、なんというのか、不明。

こんなところで、一本目終了。

ランチボックスが出た。

ゆで玉子をはさんだ小さなサンドイッチ。
串に刺したハム、フルーツやら。
ちょっとお洒落でうまい。

と、この日は食べられたのだが、翌日以降は食べる余裕なし。

小一時間、次のポイントへ移動しながら休憩。

二本目は、リゾートすぐそばのポイント。

このダイブセンターの名物かもしれぬ。
ブルーホール。

島のリーフの外側にできた、穴。
底の部分までで20m~30mほど。

入ったところで数匹のヘラヤガラとハタタテの群れ。

この細長いのはヘラヤガラ
これはなにもモルディブでなくとも日本近海にもいる。

これがブルーホールの入り口。

ここにもヘラヤガラ

穴の中を覗くと、密集した小魚。

穴に突入。

入ったすぐ下の横穴。

やはり大量の小魚と、赤い魚。
これはアカマツカサか。

その奥に、巨大な伊勢海老。

 

つづく

 

 

断腸亭2019夏・モルディブ その3

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引き続き、今年のモルディブ

部屋の説明をしてもらいそのまま、ダイビングの相談のため、機材を持って
ダイブセンターへ連れて行ってもらう。

ラストダイブから1年以上たっているので、リフレッシュダイブ。
これは明朝9時から。その後、そのままボートで通常のファンダイブと
いうことになった。
ガイドは小さくて細いアジア系の女性。(後で聞くと、この方、中国、
それも香港や台湾ではなく、メインランドチャイナの人。メインランド
チャイナから客できているダイバーにはまったく出会ったことがないので、
かなりレアな人であろう。)

機材をダイビングセンターへ置いて、部屋に戻る。

ウエルカムの白ワインを一杯呑んで、やすみ。

モルディブのリゾートは現地時間よりも1時間先に進めているところが
多いと思うが、ここは2時間進めている。
夕食の時刻は7時半から8時から。

レストランの予約は一応すべてしてくれてある。
とはいっても、この時期、若干お客が減っているときで日替わりで
閉めているとのことで、自ずと行くところは決まってくるようである。

今日は、バロロ・グリル(BAROLO GRILL)。

レストランは一か所にかたまっている。
水上コテージから、歩いても10分程度。
部屋に付いている自転車もある。
ただ、ヨーロッパ式なのか、ブレーキがペダルを反対側にまわす形式。
馴れないので歩くことにした。

バロロ・グリルはイタリアン。

やっぱり、ビール。タイガー。

パン。

付いているのは、オリーブオイル。黒いのはバルサミコのよう。

メニューのスターター、パスタorメイン、デザートから選ぶ。

アボカドののった魚のタルタル。

アップ。

メニューにWahoo fish とあったがこれは和風のことか?。
聞いていないのでわからぬが。イクラがのっているので、
そんなことかもしれない。

生の白身を叩いて、酢で和えたもの。
酢は柑橘、、、、レモンか。

なかなかうまいが、ちょっと水っぽい。
私の、日本人の?、好みとすれば、酢を入れるのであれば、
ただ和えるのではなく、先に多少塩をして、水を抜いた
方がよいか。

「Cured reef fish carpacio」。

リーフフィッシュの薫製のカルパッチョ

ちょっと塩味が強い多少堅めの薫製。
イタリアンにある手法なのか。
魚がなにかわからぬが、聞いてもわからぬかもしれぬが、
なかなかうまい。
酒の肴である。

Pork Milanese ポーク・ミラネーゼ。

上にのっている葉っぱは、春菊のよう。
これはこのリゾートのレストランで多用されていた。
香りはさほど強くはない。

ポークミラネーゼはご存知の通り、叩いたロースを揚げ焼きに
したもの。
味は塩のみか。軽くてうまい。

パスタ。
タリアッテレのボローニャソース。

ノーマルなボローニャソース。
ちょっと変わっているのは、パルメザンチーズを香ばしく
ローストしてあるものがまぶしてある。

これは別皿扱いの付け合わせ。
「Truffle mashed potato with Asiago」
トリュフのマッシュポテトとアシアーゴ。
Asiagoはイタリア北部の地方の名前のようだが、これはそこ名産チーズの
ことのよう。ただ、チーズはわかるほど感じなかったが。
マッシュポテトがクリーミーでうまい。

デザート。ピスタチオのアイス。

イタリアンというのは世界中どこで食べてもまず、外れない。

この日はここまで。

8月30日(金)

翌朝。

朝食は、8時から。

リフレッシュダイビングは9時からなので、8時には
朝食会場へ向かう。

コテージ前の海、ビーチからすぐの浅い砂地に大量の小魚の群れ。

魚は10cm前後であろうか。
この後もいつもここに群れているのが見られた。
食べにくるらしい、子供の鮫も見かける。
モルディブの海は豊かであるということか。

朝食レストランからインフィニティープールでその前が海。

朝食。

ダイビング前の朝食は気持ちがわるくなるのであまり食べられない。

ここはバッフェと朝食用のアラカルトがあるが、バッフェにあった、
ビーフマッサマンカレー、生ハム、サラミ、ピクルス。

マッサマンカレーはココナッツの強いタイのカレー。
これはダイビング前の朝食べるには、ちょっとくどかった。

 

つづく

 

 

断腸亭2019夏・モルディブ その2

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引き続き、今年のモルディブ

8月30日(金)

マレに夜遅く着き、空港そばのフルフレ・アイランド・ホテルで
一泊。荒れ模様の翌朝。

朝飯は付いていて、以前は同じホテルだがかなり粗悪なものであったが、
今回はちゃんとしたバッフェになっていた。
モルディブカレーを食べてみた。

魚のカレーなのであるが、以前のモルディブカレーといえば、もっと
シャバシャバのものであったように思うが、バターチキン程度のこってり
したもの。乳脂肪、ギーが多く入っているのであろう。

この国はめざましく発展している。豊かになっている。
空港島と首都の島のマレも来るたびに変わっている。
空港島とマレの島は、渡し船で渡るしかなったが、昨年、
中国の援助で島を結ぶ橋ができていた。

一人当たりのGDPは、南アジアでNo.1。(wiki)
インドよりも高くなっている。これは驚ろくべきことであろう。
サンゴ礁だけの小さな小さな島の集まりが、で、ある。

今回、空港に迎えにきていた、日本の旅行代理店の現地スタッフは
モルディビアンの若い女性であった。日本語も喋れる。
彼女はモルディブの観光系の学校で日本語を学び、交換留学で
短期間だが日本に来たことがあるという。

モルディブイスラム教の国でそれも戒律の厳しいスンニ派
以前は外でモルディビアンの女性を見ることすらほぼなかった
ほどである。目覚ましい変化である。
明るい未来を思い描けることは幸せなこと。うらやましいことである。
ここに初めてきたのは、25年前。
長閑で純朴であった人々を懐かしく思うのは観光客の勝手な
思いである。
きっと、もっともっと、変わっていくのであろう。

空港まで送ってもらって、ドメスティックのエアラインに乗って、
バー・アトール、ダラバンドゥ(Dharavandhoo)空港へ。

エアラインはマンタ(Manta)エア。
まだ新しい国内線専門のエアラインであろう。機体も真新しい。
モルディブは国際線の航空会社はまだ持っていない。
国内線も少し前まではモルディビアンエアというのが一社しか
なかったがマンタエアともう一社新しいのができている。
Mantaはあの巨大なエイのマンタのことである。

プロペラの双発機。機体にもマンタのイラスト。

(仏・伊のATR社のATR 72というよう。)

雨の中、離陸。

雨でも、上空から見るモルディブのリーフは美しい。

インド洋の真珠などというが、まさにそうであろう。

目的地までは、130km、30~40分ほど。すぐである。

地図を出しておこう。

着陸。

小さな船着き場から、リゾートの高速ボートに乗り換え、20分ほど。

雨風と、高波。そうとうに、揺れる。
明日のダイビングはおそらく、無理であろう。
旅行代理店のモルディビアンのお姉さんに、台風か?と聞いたが、
ちょっと強い、雨風だと、頑なに言っていた。
スマホで見た雲の衛星画像は、インド洋南西からモルディブ付近には
丸い大きな雨雲があり、どう見ても尋常ではなかったが。

これ以上遠いと、間違いなく、船酔いをしたであろう。

アミラフシ着。

アミラフシ、Amilla fushiというのは島の名前で、
リゾートの名前は、アミラ・リゾート&レジデンス
(Amilla Resort&Residences)
ということでよいのか。

レジデンスという名前が付いており、3ベッドルームもある
別荘のような建物もあり、全体がラグジュアリーなところ、ということに
なっている。

お客ごとの執事、バトラー制。レストラン、ダイビングなどの予約、様々な要望の
窓口、会計まですべてこの人がやる。日本人の女性が一人おり、その方が担当。

コテージ。

この写真は翌日の朝。水上コテージなのだが、よくある木造の
南の島風ではなく白い、機能的というのか、モダンなデザイン。
リゾートのコンセプトが「家」「我が家」のような、ということからか。

バトラーのおねえさんに、雨も降っているのでそのままバギーで
送ってもらい、部屋の案内。

部屋。

ちょっと暗くてわからないが、テーブルにウエルカムの白ワイン。
フルーツ、ちょっとチョコレート。

外は、テラス、ウッドデッキというのか、に、ビーチチェアがあり、
小さな部屋用プール、そして、そのまま海に降りられる。

建物内全体がちょっと不思議でおもしろい配置になっている。
真ん中にトイレがあり、リビング、ベッドルーム、バスルームが
仕切りがなくまわりに配置されている。
なんだかぐるぐる回ってしまう。

ベッドと奥が洗面台とバス、シャワールーム。

TVはベッドとリビングと両側にある。

ウェルカムのベッドメーク。

リゾート・コンセプト、Welcome Home。

シャワー。

水圧はちょっと弱め。

モルディブは水はすべて海水から電力を使って作られる貴重なもの。
25年前は、真水は時間制限があり海水シャワーが通常であったほど。

ミニバーはネスプレッソのコーヒー、紅茶。これは飲み放題。
これはどこもそうだが、またビールをはじめ、アルコールもあるが、
モルディブイスラムでもあり、酒はかなり高価なので気を付けなければ
いけない。

 

つづく

 

 

断腸亭2019夏・モルディブ その1

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8月28日(水)

さて。

一週間程度のお休みをいただいたが、今日から再開。

例年通り、南の島へダイビングへ行ってきた。
「落語案内」は中断し、モルディブの模様を書きたい。

2015年がフィリピンボラカイ島で、あったが、
その後は、毎年、モルディブ

ただ、毎年モルディブでもリゾートは別。

16年がジュメイラ、ヴィッタヴェリ(Vittaveli)

17年がフォーシーズンズのランダー・ギラーバル(Landaa Giraavaru)

去年がアウトリガー・コノッタ(Konotta)

同じ場所に行かないのは、もっといいところはないか、
というないもの探し、かもしれぬ。

モルディブというのは、インド、スリランカのすぐ南から、
縦に長く八百キロ以上であろうか、長く長く続くリーフから
できている島国。場所によって環境も違っている。

ダイビングというのは自然の海を見るものであるが、
完全に自然か、といえば、そうでもない。

あてどもなく勝手に潜るわけではなく、もちろん、現地のダイビング
サービス、ガイドに案内してもらうわけである。
サービス、ガイドによって、潜るポイントが見つけられ、
開発されている。このよしあしがよいダイビングが
できるかどうかのポイントになる。

モルディブにはユネスコの生物圏保存地域というのに指定
されている環礁(アトール・Atoll)がある。

この生物圏保存地域というのは、日本の知床などが指定されている
ユネスコ自然遺産とはまた別のもので、もう少し、広く、緩い
のかもしれない。

モルディブではこの生物圏保存地域というのに指定されて
積極的に保護活動がされているのはバー環礁(Baa Atoll)というところ。
マレからは国内線で30~40分ほど。
17年に行った、フォーシーズンズのランダー・ギラーバルが
このバー環礁にあってなかなか見ごたえのあるダイビングができた。

昨年のアウトリガーはモルディブでも南の方で遠く、リゾートも
少なく、どちらかといえば開発が進んでいない。
こういうところがよいのかと思って行ってみたのだが、先に書いたように、
海はよくてもよいポイントが探されていないとよいものは見られない。
なかなか難しのである。

それで今年は、またバー環礁へ戻り、アミラフシ(AMILLA FUSHI)と
いうリゾートにした。比較的新しく、また小規模のよう。
https://www.amilla.mv/

8月28日、朝、家を出て、AM成田からシンガポール航空
シンガポール経由。
モルディブは直行便はなく、スリランカコロンボ経由か
シンガポール経由、あるいはタイ経由もあるのか。
ここなん年か、このシンガポール経由である。

シンガポールまでは6時間ほど。

モルディブへ行くときには、なぜかこれに決めている。

シンガポールのビール、タイガー。

機内食

和食、的なもの。
箸も付いて、鶏の甘辛照り焼き的なものに、こんにゃくや
にんじんの煮物のようなもの。
玉子焼きにおひたしのようなもの。うどんがついていた。

成田、シンガポール便はほぼ日本人。
私は降りたことはないが、ランドマークのプールが屋上にあるホテル
などあり、近年は人気なのであろう。
盆休みは終わっているためか、多少の空席もあった。

シンガポールチャンギ(Changi)空港からモルディブマレ行きに
乗り換えるのだが、待ち時間は2時間ほど。
訪れられた方はご存知であろうが、チャンギ空港はかなり
大きく、広い。
免税店、ショップ、レストランも多数。成田よりもよほどでかい。
ここ三年続けてきているが、どんどんと店も増え、また、きれいに
お洒落に、なっている。
以前からだが、Wi-Fiもフリー。

クラフトビールのあるハンバーガーショップに入った。

値段は物価の高いシンガポールでさらに空港内で
まあ、安くはないが、うまいビールとハンバーガーである。

シンガポールからマレ(Male)までは四時間。

位置関係はほぼ真西。

もう一回機内食

また、鶏。
味は、いかにもシンガポールなのか、甘辛だが、
にんにくの利いたオイスターソースと甜麺醤
白いのは、マッシュポテト。

夜遅く、マレ着。

空港そばのフルフレ・アイランド・ホテル(Hulhule Island Hotel)。
空港に最も近いのか、いつもここである。

この晩は遅いのでそのまま就寝。

翌朝。
昨夜からだが、天気がわるい。

雨風、波もそうとうに高い。

ネットで、インド洋の衛星の雲の画像を見ると、なんだか
すごいことになっている。モルディブから南インドの西に
丸い大きな雨雲の塊。
これは台風、サイクロンではないのか?。
昨年も、アウトリガーへ行っている時に、インド洋は荒れ模様
であったが、どうしても自然相手のダイビング、天気には
勝てない。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その71 桂三木助 へっつい幽霊

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引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


なんだ、知ってやがんのかぁ?。
一円付けてもらったって、俺のへっついだぁ!。
いやならよせ!。

こーなると、あんまり強いのも善し悪しだなぁー。
じゃ、よーがすよ。あげますよー。

くれるか?ほんとーに?。
もらってもいーの?。
そうかー、すまねーなー。
じゃー折角のお前(おめえ)の心持だから、、、

こっちの心持じゃねーや、そっちの心持じゃねーか。

んな、男らしくねーや、愚痴をこぼすねぃ。
じゃ、もらうぜ、いいかい?!。
ひー、ふー、みー、よー、いつ、むう、なな、やー、ココノ、トウ、
十一、十二、十三、十四、十五と。
さ、お前(めえ)が十五枚、俺が十五枚。
ポーンと二っつ割りの縦ん棒で、気持ちがいいじゃねーか。

気持ちなんざぁちっともよくねぇ。
閻魔だって、これじゃー、いい顔しねーだろう。
半端でしょーがねーや。

半端かぁ~?。
正直なこと言うと、俺も半端なんだよ。
だったら、どうだい、お前も俺も嫌(きれ)いじゃねぇんだから
二人でどっちかへ、押っ付けっこしよーか。

フ、フ、フ~。
そいでもいいんですがね~。
道具があるんですか~?。

渡世人の家だぁ。道具のねえことねーやな。
なにがいいんだ?。
二っ粒(丁半博打のこと)?。
あれが一番いいねー。気持ちがよくって、さっぱりしてて。

(サイコロを取り出し、振ってみる仕草。)
どうだい、よく変わるだろ。
丁半賽(ちょうはんざい)に誂えたんだよ。
いいさいころだろ?。

(幽霊、見ていて恍惚とした表情。)
へ、へ~。久しぶりだなぁ。
ちょいと触らしてくださいな。
(幽霊、手を前に下げた格好のまま、さいころを振る仕草。)

よせよー。へんな恰好するなよー。
普通に、こう、振れよー。

そういかねぇんすよー。
手、上へ持ち上げるとね、幽霊仲間はじかれちまうんすからね。

幽霊なんてなもの、不自由なもんだなー。
壺皿(つぼざら)もあるんだよ。
二、三番入れてみようか。
(壺皿にさいころを入れて伏せる仕草。)
どうだい?、なぁー。
ほら。
よく変わるだろ?。
いいかい?!。
入るよ!。
さいころを入れて、壺皿を伏せる仕草。)
さ!。どっちでも、口ぃ切っとくれ!。

さっきも言う通り、あっしぁねえ、丁より他に張ったことのねえ
男ですからねぇ。じゃー、丁に口ぃ切らしてもらいましょう。

そうかい?。
いくらいくんだい?。

いくらいくったってぇー。百五十両いっちゃいましょう。

いっぺんにかぁ?、おい。
へーー、いい度胸だなー。

度胸がいいわけじゃねーけどね。ぐずぐずしてて夜が明けりゃ、
こっちゃ、消えてなくなっちゃう。
早えとこ勝負付けてもらわねえと。
じゃー、親方、駒ぁ合わせて下さいな。

そうか?!、じゃ、俺が百五十両、お前(めえ)が百五十両
いいかい?。
ぼんちゅうわた(盆中渡?)り。勝負!。
五六(ごろく)、半!。

あ!、、、あ、あ、あ、、、

おう、おう、よせよ。
幽霊ががっかりしたなぁ始めた見たよ。
あんまりいい恰好じゃないよー。
おぃ。丁方(ちょうかた)駒、落とすぜ!。

出やがったなー、五六とは。これが四ゾロに変わるんだけど。
あっしの大(でえ)好きな、、、
親方!、もう一遍入れて下さいな。

せっかくだけど、そいつぁ断ろうじゃねーか。
お前(おめえ)の方に銭がねーのはわかってんだもん。

へ、へ、へ。
親方ぁ、安心して下さい。
あっしも幽霊ですから、決して足は出しません。

これでお仕舞。

いかがであろうか。

いい下げだと思う。(もちろん幽霊は足がないので、足は出さない。)

この噺、筋に異論もあるようで、別バージョンもあるのだが
この三木助版で、よいのではないかと私は思っている。
ちなみに別バージョンも下げは同じである。

この噺、元はやはり上方種という。三代目三遊亭円馬という人が
移したよう。(「落語の鑑賞201」延広真治編)

この人はちょっとおもしろい。
明治15年(1882年)大阪の生まれ。父も落語家であったが
落語家になってから東京へ移り初代三遊亭圓左門下となり、明治42年
(1909年)、七代目朝寝坊むらくで真打。その後、喧嘩騒ぎを起こし
大阪に戻ったり、また、東京へ、と行ったり来たり。大阪弁、京都弁、
江戸弁を巧みに使い分けることができたという。昭和20年(1945年)
大阪で没。前座時代の八代目桂文楽を預かっていたとのこと。文楽師は
そうとうに傾倒していたと語っているようである。(wiki
三代目円馬、かなりの名人といってよいようである。

ともあれ。
この三代目円馬を含め「へっつい幽霊」の明治の速記は見つけられて
いない。それでこの噺の東京での初期の成り立ちについては今回は
不明で宿題とさせていただく。

そんなわけで、想像の域を出ないのだが、三木助版の冒頭部分、
最初にへっついを買う男が関西弁なのは、上方から移された名残が
残っているのか。

 

つづく

 


三木助師「へっつい幽霊」もう少しで終わりますが断腸亭料理日記
今号で、お休みをしばらくいただきます。
断腸亭

 

 

断腸亭落語案内 その70 桂三木助 へっつい幽霊

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引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


出たかい?、おい。
意地のわるい野郎だなー。俺の方に出やがりゃいいのに。
なんか言ってたかい?。
えー?、金返せ?。
幽霊の借金取りかい!?。
おもしろいもの出やがったなぁ。

ま、ま、いいや。
熊さんは、銀ちゃんを自分の家に連れてきて、寝る。

翌日、熊さんは早く起めに起きて、昼時分に帰ってくる。

お帰んなさい。どこ行ってたんです?。

熊さんは、銀ちゃんの家に行ってたという。
奉公人だけでも14~5人もいる、大店。

銀ちゃん、親不孝だなぁ~。

銀ちゃんのお父っつあん、旦那に会って、この話をする。
幽霊の金、三百円を使い込んでしまって、このままでは
命に関わります。

親なんてぇもなぁ、ありがてえもんだな。
お父っつあん、泣いてたぜ。
勘当した倅でも、さて、命にかかわるとなると黙っちゃいねぇや。
三百円出してくれたが、こういうわけだから、札じゃ困る、
金貨で、っていったら、あるとこは違うね。
ガチャンと金庫を開けるとね、十円金貨で三十枚。
三百円、ここへ預かってきた。
今夜、幽霊に会って、この銭、叩き返してやれ。

どーいたしまして。
幽霊なんてもなぁ、いっぺん会やぁたくさんですよぉ。
あんまり裏返したり、馴染みんなったりするもんじゃありませんよ。

(裏を返す、馴染みになるは、吉原用語。
 始めてその花魁に会うのを初回、二回目を裏を返す、
 三回目から馴染み、となり、夫(おっと)扱いとなる。)

じゃ、今夜俺が幽太(ゆうた、幽霊のこと)の野郎に返してやる。

へっついを銀ちゃんの家から熊さんの家の土間へ据える。
三百円を前に置いて、

さ、どっからでも出てこい!。
人の銭なんか預かってたっておもしろくもなんともねぇや。
どうせ返(けえ)すんなら、早く返(けえ)した方がいい。
出ろよ幽霊。出やがれー!、と夕方から怒鳴り始めた。

さすがに、幽霊も夕方からは出にくい。
そのうちに、夜もふけてきて、どこやらで打ち出だす鐘が
ゴーン。
土間に置いてあるへっついから、ちょろちょろ、っと火が出る。

まだ出やがらねえ、出やがれ幽霊ーーー!。

と、幽霊、出ることは出たんですがね、後ろで考えてる。
(手を前に出して、幽霊の仕草。
 後ろなので、熊さんからは見えない。)

まで出やがらねえ、じれってぇ畜生だな。
出ろよ幽霊ーーー!。

(幽霊、首をすくめて)
う、う、う、、、
お待ちどう様~。

(熊さん、後ろ上を振り返り。)
出てやがる。
間抜けなところに出てやがるなぁ。
前へまわれ、前へまわれ。
なんでえその、お待ちどう様ってなぁ。
うなぎ丼(どんぶり)を誂(あつら)えたんじゃねぇぞ。
うらめしいとかなんとかいって、出ろよー!。

えーそれが、うらめしくないもんすからね。

うらめしくねえのに、なんだって出るんだよ。

そりゃ、話をしなくちゃわかんねえんですがね。
と、幽霊、話始める。

幽霊の生前、娑婆(しゃば)での仕事は左官
左官は江戸弁ではシャカンとナマル。)

名前は長(丁)五郎といった。
左官というのは表向きで、裏へまわると博打打ち。

長五郎というくらいで、丁の目だけに張ることしていた。
ある日、丁の目ばかり八回も続き、目の前は山のようになる。
すると周りから、いくらか回してくれと友達が言ってくる。
これじゃ切りがないと、なんとか切り上げて帰る。
家へ帰っても、どこから聞いたのか、これも友達が借りにくる。
一人暮らしでもあり、大金を持ち歩くわけにもいかないので
商売もののへっついに百円金貨で三十枚、塗り込んだ。

あたっている時は、おそろしいもの、その日ふぐで一杯やったら
ふぐにもあたっちまった。
どうせ、極楽には行ける身体じゃない、地獄の沙汰も金次第。
閻魔の面にこの三百円をぶつけて、その隙に極楽へ行こうって、
三百円を出してもらおうと、出てくるんだけど、みんな目ぇ
まわしちまうか、逃げちまう。親方、いい度胸だ。どうもご苦労様!。
と、長五郎の幽霊。

そうかい、幽ちゃん。
話はわかったが、これはお前(おめえ)と俺の相談だよ。
これは、お前(おめえ)の銭に違(ちげえ)ねえかも知れねえが
俺のお蔭で娑婆へ出てきたんだ。そうだろ?。
手付かず三百両(円を両でいう習慣があったよう。)持ってこう
とは思わねえだろうな。

ほー。
いくらかはじこうってんですか?。
いくらほしいんです。

いくらったって、しゃーねーじゃねーか。
ポーンと二つ割りにしてよー、お前(おめえ)が百五十両
俺が百五十両の縦ん棒なんてぇところが、どうだい、相場じゃ
ねーか?!。

百五十両?、取っちゃうの?。
親方ぁ~そりゃぁ、ひどいよ~!。

ひどい~?
いやかい?、いやならよせ!。
じゃ、出るとこ出て、話を付けようじゃねーか!。

出るとこなんざぁ出られやしねーや、こっちゃぁー!。

なにを言ってやがんだい。
元はお前(おめえ)のへっついかぁ知れねーけどなー、
今は俺のへっついだぜ、おい!。
あのへっついから出たんだよ。
見ねえ、あのへっつい、肩ぁ壊れちゃって、傷物んなっちゃって。
あのへっついだって、安いへっついじゃないよ。

へ~ん、うまいこと言ってら~。
一円付けてもらったんじゃねーか。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その69 桂三木助 へっつい幽霊

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引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


熊さんは銀ちゃんに道具やからへっついを一円付けて
もらってもらう、という話をする。
銀ちゃんも噂は聞いている。
熊さんは幽霊は俺が引き受けるから、一緒にもらってこようと誘う。
一円は五十銭ずつ山分け。

こんちは。

おや、熊さん。ま、一服おやんなさい。

(ここのリズムも、芸術的である。絶妙な口調。)

へい、ありがとう。
大将。塀越しの話だからね、間違えてたら勘弁して下さいよ。
そこにあるへっついかなぁ。誰かに一円付けてもらってくれると
なんて、お内儀さんと今、話してやしませんでしたか?。

(パン、と膝を叩く。)
いい方に聞いていただいたなぁ。こりゃぁ、熊さん。
あなた方のご商売には随分強い方が、、。

ええ、強いも弱いもねぇやな。実はあっしがもらおうってんだ。

熊さんが?、え?。
けっ・こ・う、、だけど、、少ぉし近すぎるなぁ。
実はねぇ、このへっついに、、、

おー、とっと。
なんにも言わなくっても、わかってる。
お前さんの方だって、元の出ている代物(しろもん)だ。
そこへたとえ、一円でも付けよう、ってんだ。
なにかいわくがなきゃ、そんなことしっこねえ。
あっしも男だ。一円付けてもらったからにはねえ、鬼が出ようが
蛇(じゃ)が出ようと、お前さんとこにこれっぱかしも、苦情なんか
持ってきやしねえ。今日はあっしばかしじゃねーや。
銀ちゃんも一緒だ。くれますか?。
じゃ、その一円っての先ぃくれませんか。
正直なこというと、そいつが目当てだ。

五十銭玉で二枚もらって、熊さんと銀ちゃん、差し担いで
へっついを担いで、道具やを出る。

熊さんの方は身体もがっちりしているし、担ぎものにも慣れている。
若旦那の方はてぇと、身体はか細い、担ぎものにも慣れない。
まだ、通りの広いうちはよかったんですが、狭い路地い
入ってきますと、余計よたよたしています。
どぶ板いつまずいた、トントントンとのめる。
掃き溜めい、ドシーンとぶつけましたから、へっついの角が
ポロっとかける、と、途端に白いこのくらい
(手ぬぐいを丸めて塊を作り転がす。)
の塊がコロコロコロっと、銀ちゃんの足元に転がる。
驚いたのは、若旦那で、

熊さん!幽霊の玉子!。

幽霊の玉子なんざぁ、あんまり聞かねえなぁ。
そんなもの、出やがったかい。

このまま路地に置いておくと邪魔になる。
縄を切ってしまったので、へっついを場所が近かった
銀ちゃんの家に入れ、出てきた塊を持って二人熊さんの家へ。

さっきの白い塊の封を切ってみる。
すると、中から出てきたのは、十円金貨で三十枚。
三百円という金が出てきた。
(年代が不明だが今の価値で、三百万円くらいとしておこう。)

どうだい、こんなことだと思ったんだ、と熊さん。
これに気が残って出てくるんだ。

銀ちゃんは、
熊さん、仕事は山分け?!。

わかってる、わかってる。
わかってるから、今、がっかりしてるんだ。

と、半分の百五十円ずつ、分け、

熊さん、どうでもいいんですけど、五十銭は?。

しっかりしてるね。
百五十銭あるんだから、いいじゃねぇか。
やるよ、やらないとはいわねえよ。

銀ちゃんは、百五十円と五十銭持ってピーっと、吉原へ。
熊さんは博打へ。

銀ちゃん、明くる日の夕方までにきれーに、使ってしまって
一文無し。

おーや、おや、せめて五十銭だけでも残しときゃよかったな。
家い帰って、熊さんに借りよう。

と、熊さんはまだ帰ってない。

熊さんの方も、悪銭身に付かず。
やっぱり、きれーに取られて、一文無し。
元手がなきゃ、博打にもならない、銀ちゃんに借りよう。

お、帰ってやがる。
若旦那!
(戸を開ける仕草。)

熊さん、お金貸してください。

じゃ、俺の言うことねーじゃねーか。
みんな使っちゃったの?。
俺かい?俺もすっかり取られたんだ。
まーいいや。端(はな)っから、なかった銭だと思って
あきらめて寝よう。

熊さんはあきらめよく、布団にもぐずり込んで寝てしまう。

若旦那の方は、そこへいくとなんとなく寝にくい。
夕べの今頃は、みんなで踊りを踊ったりなにかして、
おもしろかった、、と考えているうちに、
どこやらでうち出だす鐘が、ゴーン。
土間に置いてありました、へっついに隅からちょろちょろ、
ちょろちょろっと、火が出たかと思うと、やせーた蒼い顔を
したのがスーッと銀ちゃんの枕元へ出まして、

金返せぇ~~~~

と言ったんだから、驚いたの驚かないのって、

キャー、ってぇと、そのまま目を回しちまった。
この声を聞くと、熊さんは表の戸を蹴破って飛び込んできた。

おー、銀ちゃん、若旦那!。

あ、熊さん。
あーた、嘘ばっかり。
幽霊引き受ける、引き受けるって、ちっとも引き受けやしない。
私の方に押っ付けっぱなし。

 

つづく