
引き続き、国立劇場の鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)。
菊五郎劇団なので、尾上菊五郎、昨年襲名した八代目
が主人公。
それもこのところ珍しいお初という腰元、召使、なので
女形を演じる。
やはり、襲名前、菊五郎家、音羽屋のお家芸である、
江戸世話物、粋で鯔背(いなせ)な立役(男)を演らねば
ならなかったのであろう。
もちろん、それだけではないが。
若い頃は、女形や、色若(いろわか)などというが、
二枚目の若侍などを演ることが多かった。ご本人も好き
だったのではなかろうか。
主たる登場人物は、中村時蔵演じる尾上という中老。
その尾上をいじめる、局(つぼね)の岩藤、これを
坂東彌十郎。
局と中老とどっちが偉いのか、わかりずらいのだが、
筋書によるとどうも局、つまり岩藤の方が尾上よりも
偉いよう。
そして、書いたように、尾上に仕える腰元の初が八代目
菊五郎。
つまり、男性も出てくるが主な登場人物はすべて女性
という芝居。
まず、これが特徴。やはり歌舞伎では珍しいと思われる。
善玉が尾上とお初。悪玉が岩藤。
その中で、主人公は八代目演じるお初になる。
昨日、現代的にはちょっとピンとこない、女性の世界の
いじめ、仇討ち、と書いたが、まあ、作品として、話しは
わからぬではないが、感情移入しずらい、と。
(もちろん、現代なら、そんなブラックなところ、とっとと
やめるべきなのだが。)
まあ、そんなことをいってしまうと、古典芝居など成立しない
のだが、まずとば口から、現代的には観客に入り込ませる
には大きなハードル。かくいう私は、ああ、そういうこと
なのね、と、軽く理解し、流したのだが、まあ、なかなか
難しい芝居である。
そして、さらまだ難しい点がある。
もう、この芝居、難解、といってもよいだろう。
なにかというと、過去、名優によって磨き上げられてきた芸、
形を踏まえている芝居である、ということ。
これも知らないと、この芝居は理解できないのである。
つまり尾上の芝居、これが六代目中村歌右衛門、だったらしい。
あー、この人、知らない。
ご存知の方はおられようか。
むろん、昭和から長く歌舞伎をご覧の方は周知の人、
であろうが。
私が歌舞伎を観始める随分前の、平成13年(2001年)に
亡くなっているので、舞台はまったく観たことがない。
昭和の名女形といってよいのだろう。もちろん人間国宝。
当然、女形としてたくさん当たり役があるのだが、これも
その一つであったよう。
とにかく「鏡山」というと尾上役、六代目歌右衛門の花道の
引っ込み、であったらしい。
「草履打」という場面。尾上は落ち度を岩藤に責められ、
悲嘆、口惜しさの中、花道から義太夫の語りに送られて
引っ込むのだが、これがべら棒に長く、素晴らしかった、
らしい。
この六代目歌右衛門の磨き上げた芸を尾上を演じる時蔵が
引き継いでいるのいうのか、が、まずこの芝居の勘どころ
ということになるよう。
イヤホンガイドで強調していたであろうか。聞き逃していた
か。筋書や、その後の新聞評で知ったのだが。
こういうことは知らなければ、どうにもならない。
この芝居、主役のお初以上に見どころは尾上であった。
ここがわかりずらい。
今回新国立で花道が短いのは残念なのだが、朝日新聞で
村上湛氏の評を読んでみると、時蔵は、六代目歌右衛門から
直に教えを受けた父萬壽を通して、しっかり受け継いでいる、
と。
なるほど、そうですか。
まったく、不勉強でありました。
さて。
幕間に、買っておいた[まい泉]の弁当。
カツサンドに、お稲荷さんとかんぴょう巻、煮物。
時蔵の尾上のことを書いたが、これに対して菊五郎の
お初というのがどうもあまりポイント、見せ場といのが
聞かれない。
確かに、観ていてもあまり引っ掛かりがなかった。
もちろん簡単な役ではなかろうが、役本来が、優等生で
サラッと無難にこなす役、ということ。ちょっと皮肉な
書き方をすると、今の八代目菊五郎らしい、か。
個人的な思いなのだが、この人の本領というのは、人間の
真に迫った姿、役ではないか、と。
さて。
ご存知坂東彌十郎が、もう一人の主要人物、局岩藤。
立役専門の役者が女形を演ずる。
こういうことがカタとしてあるようで、加役(かやく)、
というらしい。そして、それがいじめる側の敵役。
ちょっと不思議な存在でもあろう。
男のみが演じる歌舞伎らしい、形ともいえよう。
が、彌十郎、小憎らしい悪役をしながらもいい人感満載。
もちろんNHK大河の影響。あれから普通のドラマにも、
バラエティーなどにも出演るようになり、すっかり
いい人キャラ、いや、この人ほんとにいい人なので
あろう。そして、ちょっと抜けた三枚目寄り、か。
初見の芝居なのでどんな岩藤が正解だったのかわからない。
いい人がすっかり浸透してしまった彌十郎なので、もう一つ、
敵役がハマっていないような気がしてならなかったのだが。
どんなものであろうか。
さて。
「鏡山旧錦絵」このあたりまでなのだが、やはり
素人にはかなり難しい芝居であった。
まあ、もちろん、深く考えなければ、通しなので、
ストーリーだけはちゃんと入ってきて、それなりに
満足感は得られたのだが。
そして、大詰。
まあ、大団円だが、七代目菊五郎も頼朝として登場。
どうなのであろうか、足元もしっかりし、ちょっと長い
台詞の口跡もしっかりしていたように聞こえた。
ちょっと安心。
国立の初春歌舞伎、以上。
難しかった。そこがまあ、国立らしいといえば、国立らしい
芝居、で、あったのかもしれぬ。

玉柳亭 重春画 天保1年(1830年)大坂 岩ふじ
三代尾上菊五郎 鏡山故郷錦・桂川連理柵 緘合
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