浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



桜鍋・森下・みの家

4784号

6月1日(日)夜

さて。

今日の最高気温は24.8℃(13時50分)。
夏が近づいてくると、ここ、であろう。

森下の桜鍋[みの家]。

桜鍋というのは、もちろん、馬肉の鍋。
大正あたり、東京ではかなり流行した。
力を付ける、という意味で馬。蹴っ飛ばし
などとも言われていた。
吉原大門前の土手通りに今も二軒あるが、その頃は
軒を連ねていた。

毎度書いているが、鍋といえば、今はむろん冬のもの
なのだが、池波先生も書かれているが、以前は夏のもの
であった。
夏にうなぎを食べるというのも、このあたりからきているが、
食欲がなくなるので、元気を付けるために食べる、と。
暑い時には、熱いもの。
甘酒なども、実に夏飲むものであった。

ここは予約なし。
夕方、内儀さんとともに、出る。

森下は拙亭からだと大江戸線新御徒町で乗って、三つ目。

到着は16時すぎ。

向う側に、[モンブラン]が見える。
浅草で先日行ったハンバーグの店、である。

[みの家]。
やはりなかなか味のある店構えではないか。

このあたりなので、震災も戦災にも遭っているので
戦後以降の建物であろうが、緑青の吹いた看板に
金文字。二階も銅貼りなのであろう。
暖簾はこの季節なので、白の麻。
店の印は、桜に“なべ”。“な”は奈がもとの
変体仮名

入って下足札をもらい上がる。

座敷のお姐さんがこちらへどうぞ~、と。

左側の一番奥、大きなお酉様の熊手の下。

鍋やというのは、鍋以外結局余計なものは頼まない
ようになってきた。
鍋二人前とビール。玉子はいりますか、とお姐さん。
はい。

鍋と、ザク。

ザクはこの店の符丁といってよいだろうが、
その他の具材。

つゆを張った小ぶりの銅の鍋に肉と脂身。
それに味噌。例の江戸甘になにか他の味噌も
合わせてあるよう。

他の具材もねぎに麩、白滝。
白滝は太くもなく、細くもないノーマル。
毎度、白滝は細いのがよいと書いているが、
桜鍋には細いものよりもこのくらいでよいかも
しれない。

ねぎは太さの揃った立派なもの。
前に、ここの板場で藁縄でくくられたねぎ束を見かけた
ことがあるが、おそらく、浅草[葱善]の千寿葱。
そばや、こうした鍋やなど、東京の老舗料理やでは多く
[葱善]のものが使われている。東京料理で使われる
野菜はというのは、もちろん、関西程の幅の広さ、奥の
深さはないかもしれぬが、やはりねぎだけは共通して
大切な存在である。この太さでしっかりしたもの
でなければ、東京の料理や料理は成立しなかろう。

桜肉にはすぐに火が通り、堅くなるので、色が変わったら
すぐに食べなければいけない。
それで、他の具材もすぐに入れる。

この状態で見ていたら、お姐さんがきて、
味噌を溶いていった。
それはそうか、早く溶いた方がよいだろう。

色が変わってきたものから、どんどん食べる。

味噌味は甘めだが、甘すぎず、形容しがたい
とてもよい塩梅。
割り下は、透明なものと色の付いたものと
二種類置いてあるが、白滝やら麩やらにも味は
よく染み込ませたいので色の付いたものを
足してヒタヒタにしながら煮る。

肉が少なくなってきた。
もう一皿、追加。
肉は、ロース。
ついでに白滝も。

こんな感じ。

あまり見栄えはよくないが、これがうまい、
のである。

肉は最後のご飯のために残さないといけない。

ご飯一人前とお新香をもらう。

お新香にはべったら漬けが入っているのが、
うれしい。
べったら漬けは大根の米麹漬けでちょっと甘くパリパリ
した歯応えが愉しい。暮れに市なども開かれ本来は冬のもの。
やはり江戸、東京の伝統的漬物といってよいのであろう。

飯をよそった茶碗に、残した肉と、玉子をぶっかける。

もうこのために、ここにくるといってもよいほど、
この一膳がうまい。

さらさらと、掻っ込む。

温かいお茶が出る。

うまかった、うまかった。

ここは座敷で勘定。
12,260円也。

ご馳走様でした。

 


桜なべみの家

江東区森下2丁目19番9号
03-3631-8298

 

 

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