浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



歌舞伎座 八代目 尾上菊五郎襲名披露 團菊祭五月大歌舞伎 その3

引き続き、歌舞伎座の八代目菊五郎襲名披露興行。

一幕目の「義経腰越状」五斗三番叟が終わって、休憩。
次が、口上。ちなみに昼は口上はない。

次の休憩という選択肢もあるが、腹も減ったし、
弁当を食べてしまおう。

銀座三越で買った[弁松]総本店の弁当。

前にも書いたが、、この歌舞伎座の晴海通りをはさんで目の前に
木挽町[瓣松]というのがあったが、コロナ中であったか残念ながら
閉店してしまった。
旧字の瓣を書くが、日本橋の本店の暖簾分けだったのであろう。
以前はどちらかわからぬが、歌舞伎座に入っていたと聞く。
いわば、歌舞伎見物の正しい幕の内弁当といってよいだろう。
幕の内弁当の幕は芝居の幕(間)のことで、芝居見物の弁当で
あった。[弁松]の弁当が、幕の内弁当の元祖といってよいのか。

が、これ、違っていた。江戸後期の百科事典「守貞漫稿」この
時代の基本文献として使われているが、ここに記述がある。
やはり当時、芝居茶屋というものが席の手配から飲食など観客の
世話をしていたわけだが、ここが作ったものが幕の内弁当と呼ばれる
ものになっていったよう。まあ、当然であろう。
[弁松]は日本橋魚河岸の飯やが元で、当時の歌舞伎芝居町は
木挽町芳町人形町)、天保以降浅草猿若町。まあ[弁松]は
無関係で、明治に入り新富座がなくなり歌舞伎座になった
後のことかもしれぬ。

ともあれ。
開けると、二段の折で、

ご飯は、たこが入ったたこ飯。
いつもあるわけではないが、たこ飯があると、
選んでしまう。
たこは強くはないがほんのりとしただし感。
ご飯のしょうゆ味も薄め。

おかずは、左上から、白いのが豆きんとん、玉子焼き、
右上がかじきの照り焼き、左へ行って、蒲鉾、たけのこ、
左下、つとぶ、蓮根、いんげん、その右が、ごぼう
椎茸、その下が丸い里芋。右のトレー入りのものが、
ちょっと辛い生姜。
生姜以外すべて、濃い甘辛。
以前に比べると、時代に合わせて薄くなったような
気がするが、今でも十二分に濃い。

2/3、食べたところで、幕開きの太鼓がなり始めてしまった。

食べるのはこの次の休憩の方がよかった。

が、ここでやめてもしょうがない。急いで食べ終わる。

と、いうことで、拍子木が鳴って、またまた祝いの
引幕が開く。

歌舞伎というのは、基本、左から右、下手(観客から
向かって左手)から上手に向かって担当の若い衆(大道具
担当?)が人力で引っ張っぱる。それで引幕という。
(ちなみに、下から上に上がるのは緞帳(どんちょう)と
いう。寄席は緞帳。以前は引幕は、公認の歌舞伎のみしか
使えず、歌舞伎以外はすべて緞帳。緞帳芝居という言い方は
蔑んだ言葉であった。
歌舞伎を演じる場合、引幕はご存知の黒・柿・萌葱(もえぎ)
色の歌舞伎カラーの定式幕(じょうしきまく)以外使っては
いけない。例外は中村座中村座の色を使う。また今回の
ような祝い幕を使う襲名披露は例外。逆に歌舞伎以外の劇場
ではこの色使いの幕を使ってはいけないというのがルール。)

席が花道下手前なので、今日はその若い衆一人の幕を開ける
人力動作がよく見える。引幕、かなりでかい。
舞台幅と同じだと思われるので、今の歌舞伎座は幅91尺、
約27.573m、だそう。ちなみに高さは21尺、6.363m。
で、面積は175.45㎡。この幕の布の重さがどのくらいか
まったく私にはわからぬが、数十kg?。
それを一気に舞台を走って引き開けるのである。
観客皆が固唾をのんで集中して観ている前で、
つまずきでもしたら、えらいことである。

特にこの幕は襲名の面々がズラッと前に居並んでいる。
若い衆は、緊張などしないのであろうか。
まあ、むろん、プロの仕事であろうが。

開いた!。
舞台中央に、右七代目菊五郎、左八代目菊五郎。裃姿で
平伏している。満場の拍手。オトワヤ~~~の声が飛ぶ。

そう、今回、七代目は隠居名のようなものは名乗らず、
そのまま菊五郎。つまり、二人の菊五郎ができたのである。
なんでこんなことになったのか。八代目のインタビューで
あったか、過去の菊五郎は皆、亡くなるまで菊五郎を名乗った
ので、俺もそうする!、ということらしい。いかにも、
カブキ者の七代目らしい。

裃姿はむろん二人だけでなく、全員。
二人の菊五郎の下手が、七代目丑之助改め六代目菊之助、11歳。

他に居並んでいるのは、前列上手側から梅玉團十郎松緑
三人がいて、その左、楽善、玉三郎
後列はおそらく、音羽屋一門のお弟子の幹部。

七代目が頭をあげて、口上の口を切る。

もちろん、一言一句覚えているわけではないが、基本形通り。
「松竹株式会社様、歌舞伎界各位様、ご贔屓様のお薦め、
お許しを受け、この度、倅(せがれ)菊之助が八代目として
菊五郎を襲名させていただく、運びと、相成りましてぇ~
ございます。(大拍手、大歓声、おとわや~~~~!)
中略、隅から隅まで、ずずずい~~~~~~~と、希(こい
ねが)い上~~げ奉りまする~~。」(と、また平伏)

まあ、こんな感じ、で、あったろうか。

とにかく、いいもんである。この口調。大好きである。
なんというのか、この独特の如何にも時代的なイントネーション。
おわかりになろうか。
昔は、いろんなところで聞いたような気がするが、今の世の中、
こうした歌舞伎の襲名披露でしか聞けない。
(もちろん、落語などでは、こんな大袈裟で、大仰な
イントネーションは使わないだろう。)

歌舞伎界の大、大、大名跡なので、どれだけ大仰な
イントネーションで発声しても、足らぬくらい。

七代目もさぞ晴れ晴れしかろう。

健康不安もあったが、実に口跡明瞭、張りも十二分。
きっと大丈夫そう。安心、安心。

そして、本人は後で、順に、前列の面々が発声する。
一番右の梅玉、次がその左、團十郎であったか。

團十郎、ちょっと長めに話した。うちの内儀さんは
長すぎる、と言っていたが、これ、いいのである。
團十郎は身内でもない。二人は同い年、小さな頃から、
もちろんよく知った仲。ちょっとプライベートな思い出を
はさみ、話す。笑いも取って。
落語家の披露など本人以外はボケたり、突っ込んだり、
くさしたり、もっとおもしろ可笑しくやるが、
締めるところは本人、身内が締めるので、むしろ必要な
ことであろう。で、次が、松緑、楽善、玉三郎
最後に、新菊五郎、新菊之助菊五郎は型通り。
菊之助は、まだ声変わり前。ボーイソプラノとも形容
できそうなかん高いが、やはりよく通る声で立派に口上終了。


口上、もう少しつづく

 

 

 

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