4691号
鍋がきて、お姐さんがガスコンロに点火していって
くれる。
こちらは、蓮根のキンピラのお通しをつまみ、
ビールを呑みながら待つ。
鮟鱇の身をはじめ、ほとんどのものに火が既に
通っているので、まあ、温まれば基本食べられる。
だいぶ煮えてきた。
三つ葉などはむろん火は通っていないが、すぐ、ではある。
あんこう鍋というと、本場は今は常磐、水戸だったり、
大洗、あのあたりなのであろう。
私は食べたことはないが、肝を溶かし込んだ味噌味
と聞く。いかにもうまそう、ではある。
が、ここのものは、まったく違うといってよいだろう。
鮟鱇の身は白身。
鮟鱇には火は通っているが、味は付いていない。
あん肝も、鮨やなどで出される一般的な蒸したもので
濃い味は付いていない。
これらをちょっと甘いしょうゆ味のつゆで煮る。
まあ、特段、鮟鱇に特化した調理法でもなかろう。
しょうゆ味は、東京でごく一般的な煮物の味付け。
また、逆に鮟鱇自体、例えば、明治期まで頃であれば、
江戸・東京で皆がたくさん食べていた魚であったとも
考えにくい。(ただ、江戸期から獲れていたようではある。
相模湾などもそうだが、江戸・東京湾は、意外に
深いところがあり、鮟鱇もずっと住んではいるよう。)
ともあれ。
ここのあんこう鍋は、こういうもの、なのである。
ただ、やっぱりあんこうは、うまい。
やはり身は、ふぐに近いのではなかろうか。
骨に近いところの身は、コラーゲンが多く、プリプリ。
ふぐの方が、もう少しプリプリ感が強いか。
そして、皮。
ふぐならば、皮は細く切って酢のものなどにし、
鍋には入れないと思うが、あんこうは入れる。
これが、また、うまい。コラーゲンたっぷり。
それでいて、柔らかい。
内儀さんの頼んだから揚げもきた。
ふぐのから揚げもうまいが、やはり、あんこうも
近かろう。
しっかりしたプリプリ食感の白身は、から揚げに
向いているのであろう。
ここで、追加。
なにかといえば、白滝。
先に書いた通り、ここの白滝は細い特別誂え。
私の持論だが、白滝は細いに越したことはない。
細い方が圧倒的にうまい。
食感もよいし、なにより味が早く染みる。
すき焼きでも、水炊きでも、できれば鍋はみんな
このくらいの細さにしたいくらいである。
お姐さんが鍋に入れてくれた。
かなりの量。なんだか、白滝鍋になってしまった。
ただ、これがうまい。
煮詰めながら、煮る。
こんなものだが、細いので、やはり味が染みるのは
すぐ、で、ある。
あらかた片付けて、おじや。
鍋のあとつゆに飯を入れるのはどこにでもあるが。
雑炊という言い方もあるが、ここはおじや、と、
言っている。
おじやと雑炊、と比べると、私はおじやの方が、
馴染みがある。雑炊という言葉は、私の家では、
小さい頃から使っていなかった。
おじや、雑炊、おかゆ。和食の料理人的には、定義が
しっかりあるようだが、家庭ではそこまでの明確な
ものではないはずである。もしかすると、地域的なもの?。
東京など各地の人々が混在しているので、より定かでは
ないのだろうが。
ともあれ、一人前とお新香を頼む。
飯を入れて、つゆを足して、玉子を落とす。
客は絶対に触ってはいけない。お姐さんにこっぴどく
叱られる。軽く混ぜるだけ。
これを煮詰めて、青ねぎを散らして、出来上がり。
よい感じの煮詰まり具合。
茶碗へ。
あんこうの出汁も出ている。
煮詰まっているので濃い。
食べ切って、立つ。
うまかった、うまかった。
ここの勘定は座敷ではなく、下の帳場。
これも店によって決まっているのがおもしろい。
入れ込みだと、帳場かと思うと、そうでもない。
駒形[どぜう]は入れ込みだが、席で勘定である。
下足札が勘定の目印。これを帳場に出す。
15,070円也。
玄関。
菊正の薦被(こもかぶ)り。神棚と下足番の小父さん。
この天井、やはり見てほしい。
ちょっとよくわからぬかもしれぬが、これ、
昔の菊正宗の樽などに施された意匠、なのである。
真ん中に正宗で、背景に菊があしらわれている。
ある種の、タイアップ広告だったのであろう。
ともあれ、うまかった、
ご馳走様でした。
いせ源
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