浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



帝国ホテル・ラ・ブラスリー

4333号

5月2日(火)夜

さて、今日は、帝国ホテル。
目当ては、シャリアピン・ステーキ。

牛肉を柔らかくするためにみじん切りの玉ねぎに
漬け込んで焼いたもの。
今はあまり見なくなったが、少し前まで日本の
洋食の定番メニューであったと思われる。
町の洋食店でもよくみかけた。これが帝国ホテル発祥。

今も、帝国ホテルのレストラン[ラ・ブラスリー]で
食べられる。

自作したこともある。

かなり手が込んでいて、時間もかかる。

シャリアピンは人の名前。
生まれたのは戦前、昭和9年(1934年)。
当時来日し帝国ホテルに宿泊していたロシア人声楽家
フョードル・シャリアピン氏が歯がわるく、柔らかい
ステーキが食べたいというので、考えられたもの。
その後、レストランのメニューに載るようになった。

さて。
帝国ホテルとは、なんであったか。
ちょっと開業の頃を覗いてみた。
意外に知られていないのではなかろうか

開業は明治23年(1890年)。
外相井上馨の指示で計画され訪日外国要人の
宿泊施設として、渋沢栄一大倉喜八郎らによって
かの鹿鳴館の隣に建てられた。当初はレンガ造り三階建て。
場所は今と同じ(タワー側のよう)である。

そう、文明開化の象徴、不平等条約改正のための
デモンストレーションの場、欧米の猿真似とも揶揄された
あの鹿鳴館はここにあったのである。
当初の帝国ホテルは鹿鳴館とワンセット。
民間だが、国肝入り、国策の外国要人向けホテルという
使命をもって考えられたのである。。
ただ、帝国ホテル開業以前の明治20年、条約改正失敗で
井上は失脚。それとともに欧米賓客との舞踏会を催した
鹿鳴館時代は終わり、その後鹿鳴館華族会館
名を変えている。
開業時に、既に帝国ホテルは帝国ホテルとして歩き始める
ことになっていたといってよいのかもしれぬ。

明治27、8年(1894、5年)に日清戦争

明治30年(1897年)の地図があった。(「東京一目」)

現在は内幸町一丁目だが、当時は内山下町。
東側に外濠、日比谷濠方向にもまだ濠は続いていた。
南には新橋ステーションも見える。

向かいは今は日比谷公園だが、計画中でまだできていない。
開園は明治36年1903年)。
明治に入ってすぐから、ここは陸軍の練兵場で、明治天皇
列席の観兵式などもここで行われた。
が、年を経て中心部にあってはよろしくないというので、
明治21年1888年)に練兵場は青山に移転している。
この時は、いわば空き地であったよう。

今、明治村にある、数々の歴史の舞台となったフランク・
ロイド・ライト設計で著名な二代目の建物(本館)に
なるのは、大正12年(1923年)。
シャリアピン・ステーキが生まれたのはライト設計の
本館の頃ということになる。

そんなことで、帝国ホテルのレストラン[ラ・ブラスリー]。
webから予約する。19時から。

内儀(かみ)さんと銀座線で銀座まで行って、歩く。
[ラ・ブラセリー]は帝国ホテルタワー側の地下。

店に着いて、名乗る。
奥の壁際。

ビールをもらい、前菜はまず、これも帝国ホテル伝統の
にしんの酢漬け。
いわゆるホテルバキンングの発祥は帝国ホテル。
戦後、昭和33年(1958年)、北欧のスモーガスボードという
好きなものを取って食べるスタイルを始めた。
これを任されたのが、かの村上シェフ(当時新館料理長)。
それ以前からにしんの酢漬けはあったのかもしれぬが
この北欧スタイルのバイキングには欠かせぬものであった。
やはりここの名物といってよいだろう。

それから、なぜか前にもここで食べたことがあるが、
エスカルゴ。
この二つは二人でシャア。
そして、シャリアピン・ステーキ。

サービスは流石の帝国ホテル。
にこやかで、ジェントル、そしてホスピタリティー
あふれている。
東京No1、いや、日本一。

にしんからきた。
半分に分けて出してくれるよう、頼んだ。

同時に出されるのは黒パンとサワークリーム
にしんの酢漬けというとなんだか生ぐさそうだが、
むろんそんなことはなく、さっぱりとうまい。

エスカルゴ。

日本人が思う、オーソドックスなフレンチであろう。
こうしてメニューにあるところも珍しいのでは
なかろうか。パセリのガーリックバターで焼いたもの。
定番だが、うまいもの、で、ある。

そして、これが帝国ホテル伝統のシャリアピン・ステーキ。

これはもちろん一人前ずつ。

付け合わせは、クリーミーなマッシュポテトに
にんじん、いんげん。これもベーシック。

切ったところを撮り忘れてしまったが、けっこう薄い。
1cm弱ではなかろうか。
片面に格子状に切れ込みが入ってもいる。

味は、意外にシンプル。
玉ねぎとちょっとにんにく。
そして、この肉、そこそこ脂がある。
もしかして、黒毛和牛ではなかろうか。
サーロイン?、いや、フィレか、、ランプのよう。
ともあれ、かなり柔らかい。
脂もあるが、この厚みで玉ねぎが緩和し
くどくはない。

うまかった。
さすがに大満足。

やはり、帝国ホテル、今年で開業から133年。
ホテルの大老舗だが、我が国の洋食、フランス料理史の
中心といってなんら問題はなかろう。

会計は二人で、23,700円也。

ご馳走様でした。

 


帝国ホテル・ラ・ブラスリー

 

 

 

※お願い
メッセージ、コメントはFacebook へ節度を持ってお願いいたします。
匿名でのメールはお断りいたします。
また、プロフィール非公開の場合、バックグラウンドなど簡単な自己紹介を
お願いいたしております。なき場合のコメントはできません。