浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



初芝居 歌舞伎座新開場十周年 壽 初春大歌舞伎 第三部 十六夜清心 その1

4249号

1月2日(火)夜

さて、正月二日。
初芝居、で、ある。
歌舞伎座で、それも初日。

一年ぶり。昨年は結局、初芝居以来行かずじまいに
終わってしまった。

地元浅草の平成中村座もあったのだが、あまり興味を
魅かれなかった。

昨年の初芝居は国立で歌舞伎座自体も、三年ぶり、
になるのか。
歌舞伎自体が、なんだか遠くなっていたのかもしれぬ。

歌舞伎座は三回公演の第三部「十六夜清心(いざよいせいしん)」。
通し狂言と銘打っている。
これが行こうと思った理由。
毎度書いているが、できる限り、芝居は通しで観たい、
というのが持論。

見取り狂言などというが、名作の名場面だけを抜き出して
上演することがほとんどの歌舞伎座
なん度もなん度も観ている芝居であれば、これでも
よいのだが、全部を観ていない初見の芝居でこれを
観ても、ほんとうの理解は得られないから。

また「十六夜清心」が私の好きな黙阿弥先生の作であると
いうこと。これも是非とも観なければいけないであろうという
理由である。ちなみに、私は初見。

さて。

17時45分開演なので、15時半前に着物に着替えて、マフラー、
トンビのコートを着込んで内儀(かみ)さんと出かける。
足元は、いつも通り、白足袋に雪駄
銀座線で稲荷町から銀座。
三越の地下で弁当を買う。
歌舞伎座前の木挽町[瓣松]は残念ながらコロナ禍に閉店して
しまった。

京都大徳寺の[さいき家

というところのさば寿司。
特に決めてきたわけではない。
たまたま見かけて、買った。

歌舞伎座到着、チケットを引き出して入場。
プログラムとイヤホンガイドを入手。
今、歌舞伎座酒類は売っておらず、飲酒自体が禁止。
お茶だけ買う。
席は、2列9番、10番。
着席。

前から2列目で花道から上手側3、4番目。

久しぶりの歌舞伎座の定式幕。

花道には下から上がるスッポンという穴が開いている
のだが、そのすぐ横。七三(しちさん)というが、まさに
その足元といってよい。
前すぎる、近すぎるか。

柝(き)が入って、幕が開く。

演目と配役を書き出しておく。

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第三部
河竹黙阿弥
花街模様薊色縫
  通し狂言 十六夜清心(いざよいせいしん)
浄瑠璃「梅柳中宵月」

序 幕 稲瀬川百本杭の場
    同 川中白魚船の場
    百本杭川下の場

二幕目 初瀬小路白蓮妾宅の場

大 詰 雪の下白蓮本宅の場

極楽寺所化清心後に鬼薊の清吉 幸四郎
扇屋抱え十六夜後におさよ 七之助
恋塚求女 壱太郎
下男杢助実は寺沢塔十郎 亀鶴
佐五兵衛後に道心者西心 錦吾
船頭三次 男女蔵
白蓮女房お藤 高麗蔵
俳諧師白蓮実は大寺正兵衛 梅玉

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初演は幕末、安政6年(1859年)江戸市村座。初演時の
名題(タイトル)を「小袖曽我薊色縫(こそでそが
あざみのいろぬい)」というよう。

この年、横浜開港、コレラの流行、また政治的には井伊大老
による安政の大獄の嵐が吹き荒れている。

その中で当たりを取ったという。
やはり、思うのはこんな頃でも芝居が作られ演じられ、
お客はこぞって観にきたのである。
江戸庶民の日常というのは、そういうものであった
ということである。たくましい。

また、背景に、前に書いた、天保から一揆や打ち壊しが全国で
頻発し、幕府の統治機能不全が明らかになった“悪党の世紀”

いう殺伐とした世相、人気(じんき)がこの作品、いや、
広く幕末の黙阿弥作品を生み出した、と理解すべきと考える。

ご多聞に漏れず実話ベースの物語である。
そして、黙阿弥先生お得意の泥棒を扱った白波(しらなみ)物。
実話は、安政初期の幕府御金蔵破り、寛永寺の僧侶と
吉原の花魁との心中。
さらに、時代としてはもう少し前の文化の頃だが実在の泥棒、
鬼坊主清吉というのがモデル。

この作品、どのくらい有名かというと超ではないが“そこそこ”、
であったのであろう。現代まで芝居の上演も戦後で2~3年に
1回程度でそこそこ多い方であろう。
落語でも坊主の恋の話しの例として枕などでも語られていた。
それで、私は観たことはなかったが「十六夜清心」という
名前だけは知っていた。

さて。
十六夜(いざよい)というのは女性の名前。吉原の花魁。
清心というのが寛永寺の僧。この二人の恋。
この二人の名前を並べて、十六夜清心となっている
のである。

落語、歌舞伎がお好きな方は、おわかりであると思うが、
女性の名前と男性の名前を女性男性の順に並べるのは、
こうした恋愛のお話の通称、タイトルではお決まりになっている。

例えば「お若伊之助」、「お花半七」(宮戸川)、「お初徳三郎」、
「お初徳兵衛」(曽根崎心中)、「お富与三郎」(与話情浮名横櫛、
源氏店)などなど。

で、この芝居、恋の話しかと思うとそれは最初だけ。
心中から、悪党の世紀流のとんでもない方向へ向かっていく。

 

国周 慶応元年(1865年) 江戸 見立白浪八景 永代橋の夕照
鬼あざみ清七 市川小団次 十六夜清心?

 

 

 

 

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