浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野・とんかつ・とん八亭~東京とんかつ小史

4099号

6月1日(水)第一食

さて、上野のとんかつ[とん八亭]、で、ある。

もうなん年目かよくわからぬが、今年も
ミシュラン、ピブグルマン。

私はちょいと久しぶり。

とんかつは、半月前に[ぽんた本家

で食べていた。

上野浅草というところは、とんかつにはまったく困らない。
ミシュランだけでも三軒。(この二軒に寿町の[すぎ田]。)

こんなところはそうはあるまい。
むろん、これ以外にも、名店老舗はまだある。

少し前であれば、もっとあった。
上野は[ぽんた本家]に[蓬莱屋][井泉本店]を
加えて上野とんかつ御三家などともいわれている。
いや、これはもはや過去形か。
[とん八亭]も入れるべきであろう。

なぜ、こんなに集まっているのか。
むろん、これは歴史的なものであろう。

上野というのはとんかつ発祥の地などともいうが、
これは正確ではないと思っている。

毎度書いているが、とんかつというのは、明治末頃から
大正にかけて以前からあった、洋食やの豚のカツレツが、
大衆メニューとして人気になり、これだけを
扱う店が、東京に生まれた。
これが、洋食やからの豚カツレツの独立である。

おそらく同時多発的に、東京各地でとんかつやが
生まれたのだと思う。例えば、新宿の[王ろじ]は
大正10年の創業。

この数が多かったのが、上野浅草であった。
こういうことであろう。
で、なぜ、上野浅草であったのか。このことである。

この時期、東京で栄えていた街であったから。
ということだと思うのだが、これだけでは、
まだ核心には至っていない。

当時の東京の盛り場にはまだ他にもある。

例えば、銀座。
意外に知られていないと思うが、銀座は江戸期には
商業地ではなく、どちらかといえば、静かな職人の
街(町)であった。
それが、明治になり、煉瓦街になり一躍発展した。
新聞社などが集まり、大物政治家も通う新橋芸者町は東京一。
既に、お洒落で、ハイカラ、高級な街になっていた。
しかし、銀座にはこの頃創業のとんかつやの老舗は
ほぼない。今でも、銀座にはとんかつや自体が、そう多くは
ない。[資生堂パーラー][煉瓦亭]など、洋食やの
老舗はあるのに。

ここからは、私の考察だが、とんかつ独立当初は
[蓬莱屋]が屋台であったように、そう高価なものでは
なかったと考える。明治末既に高級な街になっていた
銀座にはとんかつやは生まれなかったのでは、なかろうか。
あるいはできても続かなかったのか。

これに対して、浅草は江戸も既に盛り場、明治に入り
興行街として再開発もされ、大賑わい。吉原、浅草芸者町、
その他六区から千束の非合法歓楽街。かなりの猥雑さ。
すき焼き、天ぷらの老舗も今も数多い。
そして(今は少し減ったが)とんかつやも多数できた。
銀座に対して浅草の客層はより幅広かったのではなかろうか。
貧乏人から、お金持ちまで。
一方、上野はどうか。江戸期は広小路が寛永寺門前町としての
盛り場だが、隣接する御徒町は静かな武家屋敷で盛り場の規模は
限定的であったと考える。それが明治以降は、少し前にみたが
御徒町(と湯島天神下)の武家屋敷もなくなり、同時に上野駅
開業によって東北日本への玄関口になり、人がより集まる
盛り場に拡大転換した。下谷湯島の芸者町もできたが、新興で
割安。北関東、東北の人々、雑多で様々な人々が出はいりする街。
上級な街ではなかろう。当時安いとんかつやが多数生まれたのは、
なんとなく、うなずけるように思うのである。

そんな、名にし負う上野とんかつの
“新たな”老舗[とん八亭]。

14時半閉店で14時すぎに入る。

カウンターはほぼ満席でテーブル席にあきがある程度。
流石の人気。

お!。
ここはとんかつのみであったが、かにコロッケ、
えびフライというのが出ている。

ミシュランによればここのご主人は、三代目だが
「ヨーロッパで西洋料理を学んだ」とのこと。
あまりにザックリな表現。なんであろうか、
西洋料理って?。

ともかくも、フレンチだかイタリアンだか、
それ以外なのか、わからぬが修行された
のであろう。

かにコロッケ、えびフライは満を持しての登場?。
ともかくも、このご主人であれば、半端なものは
出さなかろう。
是非食べねば、ではあるのだが、今日は久しぶりなので、
やっぱりロースの定食を食べねば。定食で1,900円也。

いつも通り、多少の時間があって、きた。

ロースカツに、味噌汁、お新香。
ご飯はここは丼。

アップ。

写真を取っているうちに、火がまわった?。
かもしれぬが、ぶ厚い肉の今日の切り口はピンク、
よりは白に近いか。

塩をミルで挽いてカツの脇の皿に取り、一切れ
食べる。
十二分に柔らかく、肉はうまみにあふれている。

キャベツにはソースをかける。

味噌汁は、豚汁?。
いや、豆腐の味噌汁だが、かなりの濃厚でうまい。

ここのロースには、多少の脂身も残してある。
ここ部分には、辛子。

やっぱり、うまかった。
ご馳走様です。

えびとコロッケ、も近々食べにこねば。

 

03-3831-4209
台東区上野4-3-4

 

 

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