浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草・弁天山美家古寿司 その1

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3962号

10月30日(土)第一食

さて。
浅草、弁天山[美家古寿司]で、ある。

ここも開けたら、きたい、いや、こなければ
いけないと思っていたところ。

最近、鮨やといえば、ここ一本槍。

近所ということももちろんあるが、
私にとっては必要十分、で、ある。

慶応2年(1866年)創業。

にぎり鮨そのものは、それよりも40年ほど前の
文政20年台前半に、江戸で生まれたと考えられる。
そこから瞬く間に広まった。

翌慶応3年には大政奉還、ご存知の通り戊辰戦争
明治となったわけである。

東京でも慶応以前に創業がさかのぼれる鮨やは
数少ない。ここはその一つ。

同じ江戸生まれの、背開きで蒸すうなぎ蒲焼は
慶応以前創業の老舗は、浅草だけでもなん軒かある。
鮨やは少ないのは、なぜであろうか。
客単価の違いではなかろうか。
考えるに、うなぎ蒲焼は、天然しかなかった時代、
現代の感覚と同等あるいは、以上であったのでは
なかろうか。
それに対して、にぎりの鮨やは、高級なところも
あったようだが、基本、屋台もあるくらいで
ちょいとつまむ、ファストフードであった。
現代のにぎり鮨は高級な食い物だが、随分と
違っていたはずである。
いわば薄利。儲けも違っていたと思われる。
そんなことで、長く暖簾を続けるのには、
ハードルが高かったのではなかろうか。
(これは、蕎麦やも同じと考えてよいのでは、
なかろうか。東京のそばやも江戸創業は
数えるほどである。)

現代においてにぎり鮨は、東京はもとより、
日本中、いや、世界中に広まっている。
進化し、今も変化し続けている。
どれも鮨なのであろうが、私はやっぱり、
江戸・東京で生まれたにぎりの鮨には、
味にしても、技術、スタイル(様式)においても、
優劣、うまいまずいではない、東京のものが
最も落ち着く。まあ、自分でも赤酢の酢飯で
にぎったりするくらいだから、当然なのだが。

それはもちろん、単なる食い物ではなく
江戸・東京生まれの固有の文化であるから。
私の育った故郷の食であるから。
これは、誰にも否定はできまい。
東京の人間が己の文化を大事にしなくて、
どうするのか。そうは思われまいか?!。

[弁天山美家古寿司]であった。
今回は、数日前にTELで予約を入れておいた。
18時なので、15分ほど前に出て、タクシーで向かう。
馬道、伝法院通りの信号で降りて向かう。
入ると、もう既にカウンター、テーブルともに満席。

挨拶をして、カウンターの奥側、
若親方の前に掛ける。

6月以来。

瓶ビールを頼む。

お通しは、ほっきの紐、甘酢かけ。

にぎりの前に、つまみ。

なにがよかろう。
鰹、かな。
若親方に、あるかどうか聞いて頼む。

初夏の初鰹もよいが、今の戻り鰹もよい。
鰹の場合、にぎりよりも私は好きである。

きた。

生姜じょうゆと、辛子じょうゆ。
すだち。

鰹ほど、スーパーで買ったものとプロが
出してくれるものとの差が激しい魚もなかろう。
鮮度と拵え方の違いであることはもちろんである。
鰹の足が速いということ。
みずみずしく、よい脂。

もう一品、たこ、と思ったが、ない、とのこと。
前回もなかった、か。
代わりに、煮いか。

甘いたれ付き。
きれい、で、ある。
自分でゆでると、皮がむけてしまう。

この煮いかは、ここはするめいか。
火を通したいかは、同じ江戸前を標榜するところでは
やりいかを出すところもある。やりいかは火を通しても
より柔らかいのである。
なぜするめいかなのか。確か、聞いてみたことがあると
思うが、そういうものだから、というこたえで
あったか。

さて、ここで、にぎり。

まずは、さっぱりしたものから。
平目昆布〆、生のいか。

にぎり鮨を頼む順は、一応、白身・いかのさっぱり系。
次に光物。まぐろなど、赤身、脂の強いもの。
貝類。火を通した海老、穴子など。巻物、玉子。
こんな順に私はしている。

平目昆布〆。

にきりが塗られている。
種の切り方は、厚めであろう。
口入れると、昆布の香りとうまみを濃厚に
感じる。

生のいか。

もちろん、すみいか。
ぷちっとした食感とあまさ。
もう、新いかとはいえぬ大きさ。

今年は、うちは、新いかを食べられませんでした、
と、若親方。

 

つづく

 


弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

 

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