浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



燗酒とがんもどき~適燗のすすめ

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11月9日(月)第二食

がんもどきの方は、ちと手数がかかる、
と申しまするのは、入るものがございます。
へぇ。
蓮にごぼうに紫蘇の実なんてぇーものが入りまして、
蓮の方は皮をむきまして、四つに切りまして、
トントントンとすぐに使えばよろしいんでございますが、
ごぼうの方は、皮が厚く、厚くむいては、いけないんで
包丁でなぜるようにして、むくんでございまして、
すぐ使うとアクがあって、いけないんでございまして、
いったんはアク出しをいたしますが、
紫蘇の実もある時分にはよろしいんでございますが、
ない時分には塩漬けになったものがございまして、
そのまま使うと塩っ辛くていけないから、いったんは
この塩出しをいたしますが、あんまり塩出しをいたしますと
味がわるくなると、、、油がよけいに、、

なにを言ってるんだ!。
誰ががんもどきの製造法をきいてるんだ!。
豆腐やが来るのか来ないのか。!

へい。お生憎様です。

~~~~

いきなりだが、これ、なんだかお分かりになろうか。

落語「寝床」。
それも八代目桂文楽師の、一節。

「がんもどきの製造法」。

「寝床」という噺は、ドラえもんジャイアン
リサイタルの元ネタ。
義太夫に凝った大店の旦那が、まずい義太夫
店子や店の者に無理矢理聞かせるという噺。
当初、皆が断ったというくだりで、豆腐やは
厚揚げと、がんもどきの注文を急にたくさん受け、
で、がんもどきというのは、、
で、先の台詞になる。

「寝床」という噺は、戦後の三名人、志ん生文楽
圓生と三人とも演った、珍しい噺だが、
この「がんもどきの製造法」のくだりが入るのは
文楽師のみ。
オリジナルではなく、あったものらしいが、師の
この噺の中では、1~2を争うほどの傑作台詞
ではあろう。


今夜、なにを食べようか。
あまり今日は、食欲もない。

元浅草4丁目、菊屋橋町の豆腐や[小松屋]の
前を自転車で通りかかった。

豆腐!、、もいいか。
湯豆腐、か。

自転車をとめて、店に入る。

と、ショーケースに、、がんもどき。
大、中、小とある。
がんもどきを煮たのは、よいぞ。

小は直径3cmほど、初めて見た。
ここは、近所で一番近いところにある豆腐やさん。
そこそこよく覗くが、新製品か。

ご主人がすぐに出てきて、なんにしましょう?。
がんもどき、、、
中を三つ。

でかい、がんもどきも好きだが、
大はでかすぎる。切ることになってしまう。
中といってもそこそこ大きい。

よし。
今日は、これで燗酒だ。

帰宅。
がんもどきを煮る。

酒、しょうゆ、水。
これだけで煮る。
出汁は入れない。がんもどき自身から
出汁が出る。

ちょっとくたっとする感じが好きである。
つゆは、そこまで濃くなくてもよい。

10分ほど煮て、30分以上置く。
置いている間に、つゆが染み、くたっと、
してくる。

火熾しに炭を入れ、ガスにかける。
熱くなったら火鉢にいける。

このまま鉄瓶を掛けてもよいのだが、沸騰するには
時間が掛かるので、あらかじめガスで熱くして
火鉢へ。

一合徳利に酒を入れ、鉄瓶に突っ込む。

酒はもちろん、常備の菊正宗。
東京のしょうゆ味には、辛口が最も合っている。
また、私は燗をすることが多いので、それも生モト
(酉、とりへんに元。)系の菊正の得意技。

別段、温度は計らぬが、熱くもない、ぬるくもない
上燗、適燗。

燗酒=熱燗、と思っている人が最近は多いが、
熱燗は日本酒にはあまり勧められない呑み方である。
ご愛読の諸兄は聞き飽きているかもしれぬが、
やっぱり、繰り返し書いておきたい。

湯気が出るほど温めると、日本酒の味は落ちる。
それでも、どうしても熱燗がよい、というのであれば
止めないが、熱燗は断じて燗酒のデフォルトではない。
燗酒といえば、無意識に熱燗というのは、やめようでは
ないか。

燗酒といえば、熱くもぬるくもない、上燗。
適燗。45℃~55℃。熱燗はその上の55℃~60℃。
(菊正宗)

少なくとも、上燗、適燗という温度があることぐらいは
知っていてほしい。居酒屋もなにも言わなければ上燗、
適燗を勧めてほしい。
#熱燗はやめてくれ

そんなことで、燗がついて、がんもどきと、
昨日の小松菜と浅利むき身の煮びたし

[小松屋]のがんもどきには、黒胡麻とにんじんが
入っている。黒胡麻のプチプチとした食感がたのしい。

がんもどきの煮たの、うまいもんである。