浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草・とんかつ・ゆたか

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10月13日(火)第一食

引き続き「東京とんかつ会議」より。

選ばれている、浅草のとんかつや、
[とお山]に続いて、二軒目。

今日は、とんかつ[ゆたか]。

平仮名で“ゆたか”だが、看板の“た”は
変体仮名

これを使っている。
この字は当の旧字、當をくずしたもの。
浅草には老舗が多いが、変体仮名を使っているところも
多い。

場所は洋食の[ぱいち]の隣。

雷門通りから北へ一本目。「食通街」と呼ばれている
東西の横丁、[ぱいち]の角をさらに北へ入ったところ。
裏路地といってよい。

初めて、である。
実のところ、不勉強ながらここは存在も知らなかった。
食通街は、週に一度とはいわないが、月になん度も
通っているのに。

創業は戦後すぐという。
建物は、数寄屋造りが自慢のよう。

店に着いたのは13時半前。
自動ドアを開けて入ると、ちょっと背の高い
若旦那風のお兄さんが迎える。

二階もあって凝った部屋らしい。

一階、奥のテーブルに案内される。

先客は二組で静か。
さすがに落ち着いた店内。

これは、ビール、かな。

掛けると壁の貼り紙に目が留まった。
松茸土瓶蒸し。

秋になって、この文字を見ると、どうしても一回は
頼みたくなる。

実のところ、今年は某店でひどいものにぶつかって
しまっていた。こういうものなので、どんなところでも
1500円超。その割に松茸は申し訳ほども入っていない。
そのうえ土瓶は弦が不安定で真っ直ぐ持てない。
バイトのお嬢さんは土瓶の“瓶”が読めない、、。
もはや笑ってしまった。

口直し、しなければ。

お兄さんを呼んで、ビール中瓶とロース(1,637円)
の定食。土瓶蒸しも。

20分ほどかかりますが、いかがいたしましょう?。

いいですよ。

とんかつの方が先になってしまいますが。

かまいません。

土瓶蒸しを食す方が優先であろう。

ビールがきた。
スーパードライ
お通しのようなものはなし。

やはり、とんかつが先にきた。
ご飯と味噌汁も聞かれたが、面倒なので
置いていってもらった。

「とんかつ会議」で、益博先生は包丁が四か所しか
入っていない。東京でここだけではないか、食べずらい、
と書かれている。
これ、改善している。(この本は2017年の出版)

アップ。

よい色。
やっぱり、最初は塩で。

柔らかい。
そして、うま味も濃い。
このくらいになると、やはり確実に水準以上。
脂身もちゃんとあるが多すぎない。
厚みは、厚からず、薄からず。
老舗らしくバランス系、というところか。
ちなみに、ここは、グレードはなく、ロースとヒレのみ。

ご飯と味噌汁は置いておいて、ビールを呑みながら
ゆっくり食べていると、土瓶蒸しがきた。

開けると、こんな感じ。

ここは、宴会用のコース料理もあり、いわゆる割烹料理も
できるよう。
松茸も、存在感があるほど入っている。
頭付きの海老、銀杏、蒲鉾、など。

松茸は香りはもちろんだが、このシャクシャクとした
食感がうれしい。
また、出汁もはらわたにしみるようで、うまい。

先に土瓶蒸しとビールを片付け、残っているかつで
ご飯と味噌汁。

先生の指摘ではとんかつの裏側の衣に油が残っていると
していた。食べているうちに、衣が柔らかく
なってきたが、油の残りはあまり感じなかった。

お新香は、どうもキャベツの千切りのぬか漬けのよう。
水にさらしてあるのであろう、十分にうまい。

味噌汁は豆腐と三つ葉。色はノーマルであるが、ちょっと赤だし
のような風味でうまい。

やはり益博先生は、お新香、味噌汁は工夫はあるが、
とんかつとご飯のレベルに達していないとしていたが、
私なぞには、うまかった。
ご飯は多少冷めさせてしまったが、堅めにうまく
炊かれていた。
ともあれ、それだけ、かつとご飯のレベルが高い
という益博先生の評価なのであろう。

とんかつと、土瓶蒸し、私には十二分に満足。

ご馳走様でした。
おいしかった。

 


とんかつ・ゆたか

台東区浅草1-15-9
03(3841)7433