浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



かじバタと船頭飯

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4月19日(日)第二食

さて、なにを食べようか。

たまには池波レシピでも、と考えて、思い付いたのは
船頭飯

作品は『梅安』(七)梅安冬時雨、師走の闇。

『梅安』も『鬼平』『剣客』同様、執筆途中で、先生は
亡くなられているので未完であるが『梅安冬時雨』は
その最終巻になっている。

白子屋を討った後の梅安を狙う仕掛人達との物語。
なかなか煮詰まった展開である。

梅安にとっては味方である香具師の元締め音羽
半右衛門を訪れた初冬。

半右衛門は梅安を炬燵へ誘う。

打合せを終え、「腹ぐあいは、どうですかね?」
と聞き、出されるのが船頭飯。

“飯”といっているが、蕪を煮くずした味噌汁のこと。
まあ、これで飯を喰う、または、ここに飯を入れる。
そんなニュアンスなのであろう。

蕪というのは、すぐに煮くずれるが、意図して煮くずす。
あの、ぐずっとした食感が堪らない。
うまいものである。

おそらく、いや、間違いなく、先生の好物で
あったと思うのだが、こういうお世辞にも上品ではなく、
庶民的、さらには、日常の端っこにある“趣味的”といってよい
ような食い物を作品に登場させるのが先生の真骨頂
で、あろう。

作品中には『船頭飯』は「九州の方」などと書かれているが
池波先生なので、この蕪は、関西の大きな蕪ではなく、
東京の小蕪でよいように思う。

さて船頭飯なよいのだが、これだけでは芸がない。
もう一つ、これも先生の好物、そろそろ店頭に並び始めた
鮎でも焼いてはどうか。
むろん養殖ものだが、ちょいとよいではないか。

吉池をのぞいてみる。
自転車に乗っている時にはマスクをしないが、
スーパーなどもそうだが、店に入る時には、マスクをして
手袋をすることにしている。

対面の売り場に、鮎?。あるが、あれま、一匹。
今日は、河岸が休み?、仕入れる量も今は少ないのか。
お兄ちゃんに念のため聞いても、すみません、これだけ
なんです、とのこと。
残念。

はて、こうなると、困った。
塩焼きにするような魚は鰺でも鰯でもたくさんあるが、、
やはり、ぴんとこない、か。

ん!。
かじきの切り身。
ケープタウン産、一枚300円程度の解凍もの。
いつもある。
もちろん、かじきのバタ焼き。
かじバタでよいではないか。
私はこれ、洋食の大立者、と、思っている。

地下で小蕪も購入。「柏こかぶ」と書かれている。
昔は金町であるが、今は常磐線の先、柏、ということか、
おもしろい。

作る。

味噌汁は、一応鰹削り節で出汁を取る。

かじきはしょうゆに漬けておく。

上からペーパータオルをかけて、三時間。

三時間はちょっと漬かりすぎかもしれぬが、私の口には
このくらいがよい。

小蕪は、皮をむいて、早く煮崩れるように
取った鰹出汁で、圧力鍋。加圧5分で30分放置。

開けると、あれ?。煮崩れない。
そうなのである。圧をかけると、全体に均等にかかり
むろん柔らかいのだが、へこむが、崩れないのであった。

味噌を溶き、葉っぱも刻んで入れる。
味噌はノーマルな信州味噌。

かじきは三時間後、しょうゆを切って、両面小麦粉。
バターでこんがり焼く。

付け合わせは、作り置きのポテサラ。ケッパーものせる。

表面にまぶした小麦粉が、ちょっとはがれてしまった。
ちょっとまぶす量が少なく、ムラになったのが原因か。
やはり、カリっとした表面が最上であるが、まあ、味は
上々。

かじバタ、うまいもんである。
かじきではなくとも、広く魚介のバタ焼き。
バタ焼きという呼び名もよいではないか。

東京の洋食やでも、ないところも多いと思うのだが、
魚介のバタ焼き、滅んでほしくない料理である。

船頭飯。

冷凍飯をレンジ加熱して入れた。
蕪は柔らかく、箸で押せば簡単にくずれるのだが、
あえてくずさないで盛り付けた。
まあ、見栄えである。

船頭飯、などというだけあって、まったく
ザッカケナイ食い物、で、ある。
B級グルメ、なんという言葉もあるが、
そんなものでもない。
まったく単純。

だがもちろん、これがうまい。