引き続き、志ん生師「らくだ」。
大家のところに酒と肴の要求。いやなら死人(しびと)にかんかんのうを
踊らせる、という脅し。ふざけるな。見てえもんだ。婆さんと二人で
退屈してる、と、大家。
屑や、帰ってくる。
丁の目の半次にいうと「そういったんだな。よし、わかった。
向こうを向け。」
らくだの死骸を屑やに背負わせる。
上方では、らくだのほっぺたが、屑やのほっぺたにくっつく、という
演出もある。
屑「食い付きゃぁしないでしょうね」
半「食い付きゃしねえ、くたばってるんだ。
さ、さ、行け!
ここか?
俺が開けたら、すっと入ってけ。
おう!、大家ってのはお前(めえ)か?!
らくだの死骸担ぎ込んできたからな、
今、かんかんのう踊らせてやるから、よく見てろ。」
大「ひゃぁ、、、婆さん、持ってきたよ。
冗談、いっちゃいけない。お前。
持って帰っとくれ。持って帰っとくれ。
酒と煮しめ、わかったよ。」
半「せっかくきたんだから、ちょいと躍らせろ」
大「やめてくれ、持ってっとくれ」
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志ん生の録音を二つ聞いたが、どちらも踊らせていない。
円生、談志は踊らせている。
円生版。
半「どこだ」
屑「ここ」
半「この家か。」
表の戸を開ける。
大家の家なので、いきなり座敷ではなく戸を開けると台所の土間で
さらに仕切りの障子があるという細かい設定。
半「竃(へっつい・かまどのこと)の脇に立てかけろ。
突っ張ってるから、ダイジョブだ。
立てかけとけ、っていってるんだよ。
俺がな、この仕切りの障子を開けるから、それを合図に、
かんかんのう歌え」
屑「冗談いっちゃぁ、いけませんよ。そんなの私歌えませんよ。」
半「歌えません、って!」
屑「だって、知らないんですよ」
半「この野郎。歌わねえと、蹴殺すぞ!」
屑「う、う、う、、、歌います」
半「よし。
いいか。開けるとたんに歌うんだ」
開ける。
半「そら!歌え!」
屑「かんかんのぉ~~~、きゅー(の)れ(ん)す、、」
大「あ!、、いけない、お婆さん、ホントに持ってきたよ。
待ちな、てんだよ、逃げるんじゃないよ。」
屑「かんかんのぉ~~~、、、」
大「歌うなよ、屑や。
お婆さん、逃げるんなら、俺も一緒に逃げるよ、不人情だな。
あ、わ、あ、あげます、あげます、今すぐにお届けをするから、
どうぞ、どうぞ、お引き取りを」
談志家元は円生版といってよいか。
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二人、戻ってくる。
半「死骸、土間へおっ放り出しとけ。
もう一軒行ってくれ。」
また「釜のふたがあきません」「行け!」の一件(ひとくだり)またあって。
半「表の、八百屋行ってくれ」の指令。
早桶(棺桶)替わりの菜漬けの樽借りてこい。
「あいたら返してやるから、って」。
「貸すの貸さねえのいったら、、」「かんかんのうですか?」
「わかってきたじゃねぇか」。
八百屋にきてみると、やっぱりここでもらくだは酷かった。
金など払ったことがない。なんでもかんでも、持ってっちゃう。
樽はやれるわけがない。
屑「と、めんどくさいことになる」
八「なんだい、めんどくせえって」
屑「死骸のやり場がないから、担ぎ込んできて、かんかんのう
踊らするって」
八「なにぉ~!、踊らせろぃ!」
屑「今、大家さんとこで、踊らせてきた」
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「こう、お座敷が増えたんじゃやりきれねえ」
「どっかでやってきたのか?」
「今、大家さんとこで」
と演るのが、一般的。
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そりゃ、たまらねえ、と、樽と、縄、差し担いにするための
竹の棒も貸してくれる。
借りて屑や、戻る。
と、ご苦労だったな、と丁の目の半次。
お前(め)えの留守にお蔭で、月番から香典と大家から、
酒と煮しめが届いている。
仕事に行く前に、死人背負って身体が穢れているから、一杯
ひっかけていけ、といわれるが、屑やは、お酒は勘弁してくれと、
断る。呑めないわけじゃないが、仕事にならなくなるから。
呑め、呑めないのやっぱり押し問答があって、やっぱり
脅されて、一杯呑む。
屑や、いい呑みっぷりで一気に呑む。
あんまりいい呑みっぷりなので「なんだ、呑めるんじゃねえか。
一杯、ってのはねえ。一膳飯もよくねえ。もう一杯呑め。」
また押し問答するが、もう一杯呑む。
「駆け付け三杯、っていうだろう。
もう一杯だけ呑め。」
「なん度もいわせるなよ。」、と、脅され、屑や、呑む。
呑んでいるうちに、段々、酔ってくる。
もちろん、段々酔ってくるように演じるのである。
これは談志家元が定評がある。
円生師、志ん生師とくらべても確かに談志師の方が
ここは上手い。
つづく