浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



須田努著「三遊亭円朝と民衆世界」その15

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引き続き「怪談牡丹灯籠」
「お露と新三郎」。
やはり、抜群の名作で傑作。詳細に書いている。

新三郎の家。お盆の13日。
「夜もよほどふけまして」カラーン、コローンと下駄の音がする。

二人の女が歩いている。先に歩いているのは牡丹の灯篭を下げた
30ぐらいの女。後から歩いているのは17~8。

ん!?
死んだお露によく似ている。
不思議なこともあるもんだ。

あれ、萩原様ではありませんか!?。
あ、あなたはお米さん。

お米、お露の二人であった。
お米がいうのには、山本志丈から新三郎は死んだと聞いていた。
新三郎には二人は死んだと志丈はいった、と。
お嬢様をおとしれれるため、妾のお国の差し金で両方に嘘をついていた
んですね、と。

とにかく、というので、二人を招き入れる。

お嬢様はあなた様に恋焦がれています。
お情けを頂戴したいのですが、という。

“お情けを頂戴する”というのは、なかなかよい表現ではないか。

二人は、泊まって夜のあけないうちに帰っていく。

それからというもの、毎晩、雨の日も風の日も二人は
訪ねてきて、夜のあけない前には帰っていく。

7日間。

ある晩、白翁堂勇斎(はくおうどうゆうさい)が夜遅く、
長屋に帰ってきた。

白翁堂勇斎というのは孝助の話にも出てきたが、人相見の名人。
新三郎の孫店(母屋にくっついた長屋)に住んでいる。
父と懇意で、父亡き後は、新三郎の親代わりということになっている。

新三郎の家から女の声がする。堅い男だと思っていたが、、。

戸の隙間から覗いてみると、若い女が新三郎の膝にもたれかかって、
仲睦まじく、新三郎と語らい合っている。

よく見ると、女は骨と皮ばかり。
まさしくこの世の人ではない。
裾から先は、なんだかぼやけている。

白翁堂勇斎、頭から水を浴びせられたよう、ゾッといたしまして、
家に帰ってやすむがまんじりともせず、夜が明けるのを待ちかねて
新三郎を訪ねる。

白翁堂は新三郎の人相を見る。
と、新三郎の顔に死相がはっきり出ている。

私は見てしまったが、昨夜の女は、ありゃ、お前さん、
この世のものではない。幽霊だ。

幽霊と契りを結べば、その者は必ず死ぬ、と。

そんなはずはない、と新三郎。
そんなことをいうのなら、訪ねてみなさい、というので
新三郎は、お露の住んでいるというところを訪ねてみるが、
わからない。あきらめて、一先ず帰ろうと、帰り道。
新幡随院という寺を通る。その墓場を通ると近道になる。
入っていくと、本堂の裏に、まだ新しい墓がある。そこに
毎晩、お米が下げてくる、牡丹の灯篭が雨ざらしになっている。
もしやと思い、庫裏で聞いてみると、やはり牛込軽子坂
飯島様というお旗本のお嬢さんのものだと。
やっぱり、、、。

急いで帰って、白翁堂にいう。
ほれ、いわないことじゃない。
易で、幽霊をなんとかすることはできないが、新幡随院の
良石和尚は私の古い知り合いだ、というので、詳しく手紙に
事情を書いてもらい、新三郎は良石和尚を訪ねる。

良石和尚が新三郎の顔を見ると、なるほど、死ぬ、と。

その女は、三世も四世も前からお前さんに恋焦がれている。
憎いといって出る幽霊ではなく、恋しくて出る幽霊。
これをなんとかするのはたいへんだ。
他ならぬ白翁堂の頼みでもあるので、なんとかしてあげたい。
当寺の寺宝、金無垢の海音如来の像、これを肌に付けて
おきなさい。(丈が四寸二分、15cmほど、金の価値としても
たいへんなもの。)人に見られぬよう用心をしなさい。
それから、特別なお経を教えてもらい、これを唱えろと。
暮れ方から戸締りをして、出てはならぬ。
お札を書いてあげるから、表裏の入口、小さい窓までもすべてに
このお札を貼るように。

急いで帰って、白翁堂に手伝ってもらい、お札を貼ってすっかり
準備をする。開運如来の像も身に付け、夕方からいわれた通り、
閉じ籠ってお経を唱えている。

八つ。今の時刻で午前二時頃。
寛永寺で打ち出す鐘が、陰に籠って、ぼーーーーーーん。

いつものように、駒下駄の音が、カラ~ンコロン、カラ~ンコロン。
きたな。

ピタッと足を止めて、お米が
お嬢様、お札が貼ってあっては入れません。萩原様はお心変わりで
ございます。お諦め下さい。
だが、お露は、聞かない。

お露が美しいだけに、怖さが増す、、、、、

ヒュ~~~、ドロドロ、、、、、

(いや、怖いの怖くないのといったら、尋常ではない。)

その2「お札はがし」
白翁堂同様、新三郎の孫店に住んでいる伴蔵(ともぞう)、おみねの夫婦者。
年は伴蔵、40、おみね、37。おみねは萩原新三郎の家の煮炊き、
掃除、洗濯など。伴蔵は畑を作り、庭や表の掃除をして細々と
暮らしている。おみねは働き者だが、伴蔵は怠け者。

お米、お露は、貼られているお札を伴蔵にはがしてくれと
頼む。伴蔵は最初は断るが、おみねから、幽霊と知って、
百両もらえばはがしてやる、といえと、そそのかされる。
幽霊のお米にいうと、なんとか都合をする、と。その上、
新三郎が身に付けている海音如来の像も取ってくれと頼む。
翌日、新三郎を湯に入れることを口実に、海音如来の像を分捕り、
これは箱へ入れて庭に埋めて隠す。晩、幽霊のお米はどうしたのか、
百両を持ってくる。金を確かめて、伴蔵はお札をはがす。
幽霊は、小窓から入っていく。

翌朝、伴蔵と白翁堂が新三郎の家の中を見る。
新三郎は顔が土気色になり苦悶の表情で死んでおり、細い手の
ような骨が首に巻きつき、足らしい骨が散らばっている。

新幡随院の良石和尚に白翁堂は詫び方々、新三郎が死んだことを
報告に行く。
和尚は、そばに悪い奴がついているという。また、像も盗まれたが
来年の8月頃には確かに出てくるから心配しなくてもよい、という。

和尚の言葉でお露の墓に並べて新三郎を葬る。

 

 

 

つづく

 

 


須田努著「三遊亭円朝と民衆世界」より