浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



玉子を落とした赤だし味噌汁

dancyotei2018-06-20


6月15日(土)朝


土曜日、朝飯。


赤だしの味噌汁が飲みたくなった。


拙亭近所におにぎり専門店というのか、小さな店だが、おにぎりだけを
注文によってにぎって売っているところがある。


以前からあるのだが、今週、昼間家にいる用事があって、
時間もないので、初めて買ってみた。


おにぎりというのは、もちろんコンビニに売っているし、
こういう店が成立するのかと思っていると、意外に続いて
繁盛しているよう。


まあ、世の中には、コンビニ以外のおにぎり専門店
というのは、少なからずあって、成り立っている。
値段は、コンビニよりもむろん、少し高い。


米というのか、ご飯もうまいものを使っていたり
それなりにこだわっている、のであろう。
その店も、魚沼産コシヒカリであったか、有名ブランド米を
使っている。


私自身、堅めが好きで炊き方はちょっと気になるが、
銘柄米というものにあまりこだわりはない。
注意して食べれば、違いがわかるのであろうが、
あまりそこに思いが向かわないのが正直のところ
なのである。(なぜであろうか。)


その店でおにぎりを買うと、自家製の味噌汁を
容器に入れてつけてくれるた。
これがうまかったのである。


豆腐の味噌汁なのであるが、これが赤だし。
料亭の、とまでいわぬが、ちょっと只者ではない
味だったのである。


味噌汁というものはご飯を食べる日本人の食事とは
切っても切れないものである。


私自身は、子供の頃の味噌汁は、母親が長野県の諏訪の
出身であったせいか、信州味噌であった。
これには東京出身の父は、ぬるさには文句を言っていたが、
味噌そのものには特になにも言っていなかった。


今でも日常味噌汁を作るとすると、信州味噌になる。


それが、成人をし自分で料理をするようになり、
かつ、名古屋に単身赴任をしている数年があり、
この時に、八丁味噌を本格的に知って、味噌汁やら味噌煮込みうどんやら
を作ってみるようになった。


八丁味噌というのは、徳川家康の出生の地、岡崎のもの。
八丁というのは岡崎市の地名なので、ここで作ったものだけが
八丁味噌と名乗れるわけである。


まあ、いうところの豆味噌。
信州味噌にしても仙台味噌にしても、西京味噌にしても、
普通の味噌は、大豆に米麹を入れて発酵させた、米味噌である。
豆味噌というのは大豆(と大豆麹)、塩のみで発酵させたもの。
豆味噌は、名古屋圏の味で、岡崎の八丁味噌以外にも、
愛知、三重、岐阜では豆味噌を多く造っている。
これらは、先の理由で八丁味噌ではなく赤味噌と呼ぶ。


赤味噌だけでも、味噌汁を作ることはできる。
ただ、赤味噌は米麹が入らないので、アミノ酸=旨みが
米味噌よりも少ないのである。


この場合私は鰹削り節などの出汁を濃く取るように
している。


赤味噌のみでも赤だし味噌汁といってもよい
のであろうが、普通は、旨みを補うために、赤味噌
米味噌を加えて味噌汁にする。


名古屋圏の家庭でも、赤味噌のみで味噌汁にするのではなく
米味噌を加えて、いわゆる合わせ味噌にして、使うことの方が
多いようである。


また、赤味噌だけだと、独特の苦みも感じやすい。
米味噌を加えるとこれが緩和される。


さて、赤だし味噌汁。


具はなにがよかろう。


今日思いついたのは、玉子。
生卵を落としたもの。
池波作品、剣客商売で大治郎が果し合いの前に飲んでいそう。


飯を炊いて、これだけで朝飯にしようということである。
米は研いで、炊飯器のスイッチを入れておく。


出汁はやはり鰹削り節で濃く取る。


炊きあがる頃、出汁を濾して、五分に切ったねぎを入れ
火を通す。
このあたりで炊きあがり、蒸らし。


ねぎに火が通ったら、火を止めて、味噌を投入。
赤味噌と信州味噌を半々。
お玉でとって、よく溶く。


点火し全卵、生、一個を落とし、半熟程度まで。
OK。


飯を盛り付け、味噌汁もお椀に取る。
漬物は、この前の京都の奈良漬があるので、それと
酒悦の福神漬



玉子というのは、なぜであろうか、赤味噌八丁味噌
よく合う。名古屋の味噌煮込みうどんにも玉子は必須で、
それも半熟くらいがよい。これは卵黄が合うのである。
卵黄だけの味噌漬けというのがあるが、これは米味噌でもよいが
赤味噌の方がよりうまい。


また赤だし味噌汁も、うまい。
やはり、合わせる割合は1:1程度でよいのではなかろうか。


もちろん、炊き立ての白い飯にも抜群に合う。


このうまさを、文字にしようと考えたのだが、
なんとも言葉にしがたい。
もちろん、皆さん飲んだことがあって、そんなにうまいのか、と
不思議に思われるかも知れぬが、特別なこともない、ご存知の
あの味ではある。赤だし味噌汁意外のなにものではない味。


赤味噌の微かな苦味と風味があり、濃く取った鰹出汁の味の
出汁感。


うまみとしては米味噌オンリーの方が強いはずなのだが
赤味噌の味が入ることで違う味になりかつ、よりうまく感じる。
これはなぜであろうか。


和食の懐石、割烹までいかなくともそこそこちゃんとしたところで
出てくるのがこの味で、なにかちょっとありがたく“これがうまい”と
舌と頭に刷り込まれているからであろうか。