浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草・弁天山美家古寿司 その2

dancyotei2018-06-18


引き続き、浅草弁天山[美家古寿司]。


最初に頼んだ、光物といか。
いか、小肌、鯵、きす。


これ、皆さまがどんな環境でご覧になっていただいているのか
わからないのだが、PCの普通のブラウザで開いた大きさで
原寸大くらいになるような解像度でアップロードしている。


にぎり鮨を写真の撮ったものを見る場合、できるだけ大きくしたいが、
原寸以上に大きくしても、不思議なことに、うまそうには見えない
のである。


にぎり一つの大きさは種も含めて長さが6〜7cm程度。
今の東京のそこそこ以上の鮨やの標準的な大きさであろう。
そして、ここに限らぬがすべてにニキリしょうゆを塗ってある。


ニキリというのは、しょうゆを酒(またはみりん)で割って、
煮立ててアルコールを飛ばしたもの。(これを煮切るという。)
鮨やの符丁ではあるが、一般の言葉に置き換えられないので、
そのままニキリと書いた。
ニキリを塗って出すというのは、昔からの江戸前
やり方である。


ここは創業が慶応二年といって、東京でも数少ない
江戸時代からの暖簾の鮨や。
仕事をした種をにぎる江戸前鮨を標榜している。


小肌はもちろん酢〆。
なかなか、うまい。
もっと強く〆るところもあるが、強くもなく
浅くもない〆具合。
小肌の鮨というのは、最も江戸前鮨らしいものでは
なかろうか。この皮目が端正で美しい。
江戸前を代表する粋なにぎりであると思っている。
小肌を大事にしている店は、江戸前を大事にしているところ
と、いってよいだろう。
ちょっと大袈裟だが、江戸前鮨の魂といってよいのではなかろうか。


きす。これも酢〆。
きすといえば、天ぷらだが、江戸前では酢で〆てにぎる。
東京の鮨やでもにぎりにするところは、そう多くは
なかろう。さかのぼると同じ系統になると
思われるが、このところ少しご無沙汰の新橋[しみづ]
などにもある。


鯵もきちんと〆たもの。
今、鯵を〆るところはほぼないのではなかろうか。
[しみづ]でも生をにぎっていたと思う。
日本橋の[吉野鮨]はその中間の酢洗いといって、
いちど酢で洗ったものをにぎっていた。
きちんと〆たものをにぎるのは、弁天山[美家古寿司]の
まさにポリシーといってよろしかろう。
もちろん、〆たものもうまい。


水揚げ直後の扱い、その後の流通も丁寧に管理され
極上の鮮度の生で鮨やに入る今の世の中、酢で〆る
必要はない。生でうまい鯵のにぎりになる。
つまりこれは別のものなのである。
そう、両方置いてもよいはずである。


いか。
種類はなにかと聞くと、甲いかといっていた。
味は、確かにそうである。
プチっとした歯応えにあまみのある身。
普通、東京では甲いかのことをスミイカといっている。
そして、この春から夏は、産卵期のため東京の鮨やでは
使わない。
あえて、甲いかといっているのは、ちょっと意味がありそう。
(産卵期でも食べられるもの?)カウンターでもないので
詳しくは聞かなかったが。


小肌、酢〆の鯵、同じくきす。
この顔ぶれの魅力度は私にはかなり高い。
青魚というのは安いものである。だが、元来私は大好きであるし
それをちゃんとした江戸前仕事でこしらえ、にぎっている。
味もうまいし、にぎりの姿がまた美しい。


次、白身で、平目昆布〆、シマアジ
それから、たこ、赤身ヅケ、生とり貝。
とり貝は内儀(かみ)さんの希望。


ヅケは赤身が切れたとのことで、中トロのヅケ。



シマアジと生とり貝は、いわゆる仕事をした
種ではなかろう。(もちろん、ゼロではなかろうが、いわゆる
江戸前仕事とはいわないもの。)
シマアジ江戸前では、どうであろうか、
獲れていなかったのではなかろうか。
貝類も、茹でたものあるいは、最低でも酢洗いしたものの
はずである。


もちろんシマアジも生とり貝もうまいのであるが、
なんだか普通の鮨やである。


平目昆布〆。
ここなん年か、富山だったり金沢だったり、北陸に
よく行くようになって、気が付いたことだが、
北陸はこの昆布〆を江戸前以上に多用する。
いわゆる白身以外でも、カジキだったり、鰤なども
昆布や蕪などと一緒に漬ける食べ方がある。
文字通り保存食といった方がよいのかもしれぬ。
昆布ではさんで置くことで水分が抜け、昆布のうまみが
加えられる。
北陸は昆布自体を料理に多用するが昆布〆の本当の
うまさが、北陸で昆布〆を食べてわかるようになってきた。


中トロヅケ。
ヅケというのは幕末の天保年間に江戸で始められた
食べ方。日持ちもするし、うまくなる。


中トロはとっても贅沢。
まさに堪えられぬうまさ、で、ある。
こういうのを乙(オツ)というのであろう。


サクにしたものの表面を霜降り(湯をかけて急冷)
先のニキリに漬ける。霜降りにするわけは、漬かりすぎないことと
見た目だと思われる。生のままの表面だと漬けていると
どす黒くなり、あまり食欲をそそる色にはならない。


ポイントはこの塩梅であろう。
ニキリの味の濃さと漬ける時間。
濃すぎず、薄すぎず、まぐろのあまみを引き出している。


たこ。
甘いたれを塗る場合もあるが、ニキリ。
この店のように、江戸前仕事を看板にする鮨やでは、
食べるべきものである。


江戸前仕事でもたこには茹でたものと煮たものがある。
煮たものは桜煮。両方揃えているところもある。
どちらにしても、やわらかく、うまみが濃い。
これは茹でたもの。
そもそも、ご存知のように海老もそうだがたこは茹でた(蒸した)
状態で流通している。さすがにある程度以上のところであれば
こういうものを出すところはないと思うが、江戸前仕事を
標榜していれば、なおさら。
うまい。








つづく





弁天山美家古





台東区浅草2-1-16
03-3844-0034