浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



やりいか

dancyotei2017-09-05

夏休みのモルディブを書いている間に
食べたものをちょっとだけ。

まずは、8月28日

御徒町の吉池で見つけた、生のやりいか。

いかは最近、函館などでするめいかの極端な不漁などが報道されているが
それ以外のいかも全般的に高めではなかろうか。

やりいかは茹でて、甘いたれをかけて食べる、
江戸前鮨や式。
内儀(かみ)さんも好きで最近、これにはまっている。

ただ、生のやりいかもいつもあるというわけでもなく、
値段も安くない。

1パック、小さなもの4〜5杯か、300〜400円。
2パック買ってしまおう。

やりいかというのはどんないかなのか。
あまり今まで意識していなかった。

東京の江戸前鮨やでは今は、いかといえば、生のすみいか、
と決まっている。
ちょうど夏の終わりの今は、生まれてしばらくたった
小さなすみいかが、新いかという名前で、鮨やに並ぶ。
とても柔らかく、香りもよく格別なものである
それで私も、魚やですみいかを見つけると食指が動く。

すみいかは今はさすがに流通はしていないと思うが、
昔から東京湾にいたし今もわずかかもしれぬが、いる。
文字通り、江戸前のいかといってよいのであろう。

ただ、東京の江戸前鮨でも、いかを生で食べるようになったのは
明治になってからという。

それ以前は、火を通した煮いか。

江戸末、文化文政のにぎり鮨が生まれた頃には既にあった。

これがやりいか。
今も、出す鮨やもあるが、印籠(いんろう)といって
酢飯をボイルしたやりいかの胴に詰めたもの。
こんなものが当時の鮨を描いた浮世絵にも出てくる。

ほとんどのいかが、火を通すと堅くなるのに対して
なぜか、やりいかは柔らかい。
これがやりいかのポイントである。
また、鮨やの符丁でツメといっている甘いたれとの相性も
抜群によい。

今はわからぬが、すみいか同様、やりいかも、
以前は江戸湾にもいたのであろう。

どうしても鮨やでいかといえば、生のもの、特に東京では
すみいかで、火を通したやりいかは、地味であるし、
置かない鮨やも多いが、私は、贔屓をしたい。

生のやりいかがあれば、茹でて甘いたれをかけるだけ、
かなり簡単である。
そんなことで、このところ甘いたれをかけて食べる
茹でたやりいかに執心しているのである。

やりいかは、すみいか同様、一年しか生きない。
夏前に産卵するので今は、まだ小さい。
大きくなった冬が旬で春には子持ちになり、これも珍重される。

ともあれ。
やりいかは、洗って下足を引っ張り、はらわたから引き抜く。

下足の目玉から上を切って、下足としてスタンバイ。

あとは茹でるだけ、なのであるが、今日はこの茹で汁で
甘いたれ、いうところのツメを作ろう。

拙亭には煮穴子の煮汁を煮詰めたタレは常備しているので
これでもよいのだが、以前の鮨やでは、穴子穴子
やりいかはやりいか、蛤は蛤と、そのものの煮汁を味付けし、
煮詰めてたれとして使い分けていたという。
これをやってみようということ。

煮詰めやすいように、テフロンのフライパンに水を張って
やりいかを入れ、煮立てる。

火が通ったら、いかは上げる。

茹で汁に酒、砂糖、しょうゆを入れて、煮詰める。

プロでは味醂を入れるのもあるようである。
ただ、穴子を煮る場合、味醂を入れると堅くなる。
それで入れないのがセオリーであると思われる。
その場合は煮あがって、煮詰める時に味醂を入れるのがよいのか。

さて。
煮詰めれば、基本トロトロのたれになるのだが、
これが意外にむずかしい。
いつも、計量はしていないので、毎回勘だけ。
砂糖が少ないと、なかなかトロトロにならないし、多すぎても
煮汁の旨みを消してしまう。
また、しょうゆの量も問題。バランスなのであるが、
多すぎても塩味が強すぎて、うまくない。

味見をしながら、灰汁をすくいながら、煮詰める。

やはりプロでは一日かけてゆっくり煮詰めるというのもある。
これが本当なのかもしれぬ。

だが、そんな時間はないので、私の場合、穴子の場合でも強火で
一気に煮立てて水分を飛ばしている。まあ、風味が飛んでしまいがちという
ことがあるかもしれぬ。

この煮詰める時に、表面積の広いフライパンだと早いのである。
その上、テフロンであればベトベトのタレを洗うのにも
有利である。

20分くらいかかったか。
煮詰まった。

皿にのせて、たれをかける。

たれ。
甘いたれ、にはなっている。

ただ、煮穴子であれば比較的風味が強いのでまだよいのかもしれぬが
今回のやりいか、やりいからしい風味が飛んでいるような、、、。
これであれば、わざわざやりいかの煮汁で作らなくても
穴子のものを使ったものでよかったかも。

確かに、よい鮨やのツメの味、まあ、香り、には、
独特の、ツーンと鼻をつくうまそうなものがある。

だがまあ、御の字。

やりいか自体はうまいし、巨匠ではなし、
よしとしよう。