浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野藪蕎麦

5月29日(月)夜


さて。


月曜日。


五反田のオフィスからの帰り道、
例によってなにを食べようか考える。


蕎麦で一杯。
鴨せいろがよいな。


帰り道ならば、上野の[薮]。


御徒町から歩くよりも上野まで行った方が
近かろう。


山手線を上野で降りて広小路口に出てくる。
中央通りを渡って、丸井の向かって右の、
通りに入る。
真っ直ぐ。


7時半前。
列というほどではないがウイークデーの夜も
最近は待っている人があることもあるが
今日はそんなこともない。


自動ドアを開けて入る。
今夜は比較的すいている。


窓側の二人掛けのテーブルへ。


鴨せいろは決まりだが、その前に、、。


あ!


そうである。


菊正のみぞれ酒。


ここには菊正宗をシャーベット状に凍らせたものがある。
この時季にはよいかもしれぬ。


それから、軽いもの、、、
板わさ。


蕎麦も頼んでしまおう。


この家は客の呑む速さに合わせて
蕎麦を出す、なんという芸当はできない。
基本、できた順、成り行きで出てくる。


もしずらしたいのなら自分てタイミングを
計って頼まねばならない。


鴨せいろは酒の肴になる。
従って同時でよい。


鴨せいろも。
ここは一人客が多い。
ほとんと男。
年配のサラリーマン。
私のテーブルの隣は、脛の出たズボンに
ちょっと色の入った丸眼鏡、毛糸の キャップ。
私と同年輩か、ちょい下か。
なんの仕事をしているのやら。
お新香で酒を呑んでいる。


蕎麦は食べ終わったのか。
わからぬが、蕎麦やは居酒屋ではない。
そもそも蕎麦やでお新香もそうであるし、長々呑むのは
あまり粋ではなかろう。


池波先生の『男の作法』ではないが
東京の蕎麦や、鮨やなど男がいく食い物やには
大人の男が守るべきスタイルやルールがあった。
まあ、粋、ということてある。


歌舞伎『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべ いりやのあぜみち)』

通称『直侍(なおざむらい)』


そのそば屋の場。
菊五郎家、音羽屋代々のお家芸だが、直侍の菊五郎だけが蕎麦やで
粋に、粋に、これ以上ないくらい粋に振る舞い、他の登場人物は、
徹底的に野暮に見える演出になっている。
蕎麦やというのは東京の男にとって特別な場所であったわけである。
そしてそういう男の美学も東京には確かにあった、のである。


ともあれ。


女性のお一人様も今日は、二人。
30代か。
増えている。


菊正宗のみぞれ酒と板わさ。




黒塗りの升とみぞれ酒は片口に。
波の花も添えられている。


升に移して呑む、というのか、食べる。
多少とけないと口に入れづらい。


ほとんどを升に移してしまったのだが
これはちょいと失敗。


升の方が保温性が高く、なかなかとけない。
箸でつまむよう。
陶器の片口の方がとけやすかった。


鴨せいろも出来上がり。


蕎麦が伸びるので先に。


ここの鴨せいろは焼いた鴨肉だけて
よく入っているつくねはなし。


ただ、鴨の味はよく出でいてうまい。


私は天ぷら蕎麦の蕎麦抜き、すなわち天ぬきでよく呑むが
鴨も鴨ぬきという食い方もあってよい酒の肴になる。


鴨肉と蕎麦つゆの甘辛はこれ以上ない
というくらいの好相性、である。
香りが合っているのかも知れない。


シャーベットもだいふゆるくなってきた。


鴨のつゆは辛口の菊正が進むこと夥(おひただ)しい。


シャーベットも片付いた。


よし。



ご馳走様でした。



うまかった。



勘定をして、出る。






台東区上野6-9-16
03-3831-4728