浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



新橋と新橋駅前ビル・ビーフン東 その3

3月23日(木)昼

引き続き、新橋。

昨日は、新橋のことから闇市のことにちょっと触れた。

新橋駅前の両側、駅前ビル2棟とニュー新橋ビルは
どちらも闇市に系譜を持っているようなので、
ちょっと考えてみている。

昨日も書いたが、今はもう既にほぼ消えつつあるが、
有楽町の交通会館(地下)とこの新橋の三つのビルには
共通する“におい”がある。

これがおそらく昭和38年生まれの私がほぼ知らない、
闇市の“におい”の痕跡、なのであろう。
(文字通り、実際に“にお”ったりしていることもあるが。)

やはり、少しこわい。
今の、歌舞伎町の裏だったり、のこわさ、ともまた、
多少違ったこわさのように思う。

(例が適切かどうかわからぬが、香港の九龍城は古いか。
同じく香港の「チョンキンマンション(重慶大厦)」
のような、、。(インド、アラブ、アフリカ系の難民やら、
種々雑多な人々が住み、商売をしているカオスのような
マンション。)
アメ横だと、アメ横ビルか?。
多国籍という意味では、あそこもかなりのものである。
まあ、戦後すぐの闇市というのは、ちょっと違っていようか。)

そもそも、どんな人が闇市にいたのか。
どんなものをどんな風に商売をしていたのか。
お客はどんな人だったのか。
関係する、ヤクザ、的屋、アングラ世界とどう関わっていたのか。
地元の政治家なども関係していたのか。
あるいは進駐軍などはどんな風に関わっていたのか。

そして、今、その痕跡は、かの三つのビル(とアメ横?)などにしか
残っていないように見えるが、その後の東京の街への影響。
または、それ以前の東京の街との関係はあるのか。
煎じ詰めると、東京の街の歴史の中で闇市はどんな風に
位置付けられるのか。

闇市というのは、映画やドラマなどでこの当時を描く場合は、
決まって出てくる。しかし、どれも断片的で全体像は
わからない。

今回わかったのだが、ニュー新橋ビルは建て替えの計画が
具体化しているようである。
2023年竣工とのことでまだ先であるが、30階建てとかなりの
規模のビルになることが決定していることではあるよう。

こうして闇市は痕跡もなくなっていく、のか。
もはや、忘れ去ってしまってよいものなのか。
よいような気もするが、なんとなく、引っ掛かっている
のも事実なのである。

さて、そんな痕跡の新橋駅前ビル1号館の2階に
ビーフン東]はある。
開店は昭和41年。
このビルと同じ。
闇市に関係あるのかは不明だが、どうも違うよう。)

1階正面から入って、階段かエスカレーターを上がって、
ビルの左奥。
昼、エスカレーターで上がると、上がったところにある
稲庭うどんの店([七蔵])が、おそろしい行列。
知らない店であったが、有名店のよう。
ここのオープンは昭和55年で、新しくはないが、
ビルのオープン当初からではない。
このビル、さすがに入れ替わりはあるのか。

[東]にたどり着き、入る。
テーブルもカウンターもほぼ満席。

一人、といって一つだけ空いていたカウンター席に
掛ける。

中はほぼ飾りっ気はなく、食堂といった趣。
このあたりがこの店の特徴かもしれない。

看板は台湾料理で夜はいろいろあるが、
昼はビーフンと粽(ちまき、パーツァン)のみ。

ビーフンは、汁か焼いたもの。
具違いで、並(肉と野菜)、五目、蟹玉。
大きさが、一人前、小盛、大盛の三種。

寒いので汁ビーフンの五目で並。
パーツァイも付けてもらう。

すぐくる。

ビーフン。

これ、かなりうまいのではなかろうか。

以前に一度だけだが、きた時には、焼きビーフンであったが
それ以上であろう。
スープがうまい。

五目の具はのっけてあるだけ、のようではあるが、
濃いめで、なんだかいろいろ入っていそうな複雑な味。
これもうまい。
白菜、たけのこ、味のついたうずらの玉子、椎茸、
豚ばら、、、。

パーツァン。
これも濃厚。
中に、豚バラ角煮、やはり味付きうずらの玉子。

池波レシピであることは、最初に書いた。
先生は、焼きビーフンの方を書かれていたと思うが、

池波正太郎の銀座日記(全) (新潮文庫)

池波正太郎の銀座日記(全) (新潮文庫)

池波正太郎の銀座日記(全)」新潮文庫

私は汁の方が気に入った。

先生は映画の試写会にきた際に寄っていたよう。

正直のところ、随分前にきて焼きビーフンを食べ、
それほど感じるところはなく、それっきりになっていた
のである。

その時はまだ、ここの味がわからなかったのかもしれぬ。
(あるいは、汁の方が実際にうまいのか。)

この店、大きなくくりでは町中華に入るのかもしれぬが、
今日の汁ビーフンとパーツァンの味は頭一つ以上、
上回っているだろう。

ただ、先に書いたように、店はゴージャスな内装でもなく、
値が張る有名中華でもない。

ちょっと不思議な存在。

池波先生以外にも有名人にファンが多かったという。
また、驚くべきは、天皇陛下主催の園遊会にここのパーツァンが出され、
昭和天皇も食されたという。どういうつてがあったのか。

どちらにしても、この新橋駅前ビルらしい店、なのかもしれぬ。

 


ビーフン東


03-3571-6078
港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館 2F