浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鶏と大根の鍋

12月7日(水)夜

昨日は、徳島へ出張していたが、あちらはコートを着たら
暑いくらいであった。

寒暖の差が激しのでなんだか、どのあたりの気温が
ノーマルなのか、わからなくなっている。

今日は随分と寒く感じられる。

夜、オフィスを出て、なにを食べようか
つらつら考えるのだが、しばらく歩くうちに、
考えまとまった。

寒いので、やっぱり、鍋。

となると、家で。

だが、鍋といっても選択肢は随分と広い。
吉池に寄って、なにか鍋にできる魚をみつくろう
という手もある。

そうだ。
最近、ご無沙汰であったが、
池波レシピの鍋にしようか。
やっぱり、原点にはたまには帰らねば。

池波レシピの鍋でもいくつもある。
だが、簡単でうまいのは「鶏と大根の鍋」、
で、あろう。

大根を鶏のだしで煮て、しょうゆをたらして食べる、
それだけなのだが、これがうまい、のである。

鶏というのは、だしにするのだが、
脂の出る、皮が欠かせない。

皮だけ、でもよいのだが、身も骨もある、
手羽を使うことが多い。

大根と手羽だけでよいので、ハナマサ一軒で事が足りる。

いつものように御徒町で降りて、錦糸町行きの都バスに乗って
三つ目で降りる。

春日通りを渡って、ハナマサ

大根はちょっと安くなっているもの一本、100円。

手羽は6〜7本入ったもの。

帰宅。

久しぶりついでに、原作をちょっとだけ
引用させていただく。

梅安、で、ある。
作品によく登場する、目黒碑文谷に住む元香具師の元締め、
菅野の亀衛門。今は引退し、老妻とともに百姓仕事をしている。
時に、昔のしがらみで梅安に仕掛を頼みにくる。

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 「ま一つ、こんなものでもよければ、いっしょに箸を入れながら、
 話し合いましょう」
 畳に部厚い桜材の板を置き、その上の焜炉(こんろ)に
 土鍋が懸かっている。
 ぶつ切りにした大根と油揚げの細切り。それに鶏の皮と脂身を、
 これも細切りにし、薄目の出汁をたっぷり張った鍋で煮ながら食べる。」

池波正太郎 梅安針供養 仕掛人・藤枝梅安(四) (講談社文庫)

新装版・梅安針供養 仕掛人・藤枝梅安(四) (講談社文庫)

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仕掛人である藤枝梅安は表の顔は針医者だが、もう一つの顔は
金銭で殺しを引き受ける仕掛人
TV時代劇の仕掛人シリーズの原案といってもよいもの。

梅安の自宅兼針医者の診療所は品川台町というところで
近くに雉の宮という神社があると書かれている。

江戸の地図

雉の宮、雉子神社、の住所は東五反田で、桜田通り沿い、駅の東側の
山手の方。清泉女子大も近くにある島津山。
江戸の地図と見比べても、おそらくほぼ同じところに今もある
のではなかろうか。
また、品川台町という名前もみえる。

残念ながらまた私は行ったことがない。オフィスからも
さほど遠くはないので、今度行ってみようか。

先の菅野の亀衛門が訪ねてきて鶏と大根の鍋を
梅安が出すのは、この品川台町の梅安の自宅、で、ある。

ともあれ。

煮るだけなので、簡単なのだが、大根はご存知の通り、
煮えるのにそこそこ時間がかかるので、ショートカットで
圧力鍋の力を借りる。

大根は皮をむいて、四つに切る。
手羽も一緒に圧力鍋に入れて、水で煮てしまう。

圧力をかけて5分、放置20分程度。
これで、鶏のだしも出るし、大根も煮える。
煮えたら、土鍋に移す。

土鍋はカセットコンロへ。

やっぱり燗酒。
炭だけは熾して、火鉢に鉄瓶で燗をつける。

しょうゆをたらして、

食べる。

酒はいつもの菊正。
もう、これ一本、で、ある。

大根をゆでてしょうゆたらしただけ。

梅安ではないが“こんなもの”ではあるが、
うまいもの、で、ある。

そして、なにしろ温まる。

久しぶりの、池波レシピ「鶏と大根の鍋」。

満足、で、ある。