浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



黒はんぺんとじゃこ天

dancyotei2016-11-09



11月5日(土)午後

引き続き、土曜日。

海苔巻の買い出しをしに吉池に行った際に、
目に付いて、買ってきたものがあった。

生わさびを買うので、海苔巻だけではどうせあまるので
蒲鉾も買おうと思い、蒲鉾売場にまわったのである。

そこで目に付いたのは、黒はんぺんと、じゃこ天。

この二つ、ご存知であろうか。

蒲鉾、練り物の類なのであるが、青魚を原料にしたもの(仮)。

まず、黒はんぺん。
黒はんぺんというが、東京の白いフワフワのはんぺんとは
まったく別のもので、青魚で作った平たい練り物。
これは、静岡県あたりの名物。
東は、小田原あたりまである。

じゃこ天。
これも練り物だが、“天”という名の通り油で揚げたもの。

産地は四国、愛媛から対岸の九州沿岸にもあるようである。
じゃこは、ご存知の通り、関西広くで使われている言葉だが
もともとの言葉は雑魚(ざこ)で、東日本でいう、鰯の稚魚を
茹でて干した、しらす干しの乾燥度を少し高めたものも、じゃこと、
いっているというのも皆さんご存知であろう。
四国九州などでは、練り物を揚げたものを天ぷらというが、
じゃこ天とは、雑魚の練り物の天ぷらということにもなろう。

私など、青魚、光物というのは大好物であるが、
この青魚の練り物というのは、とても魅力的である。

青魚なので、基本は安い。
これも魅力。
(私の今までの印象ではどちらも一枚100円しないもの。)

静岡方面や、愛媛方面に出張などで出掛けても
黒はんぺんやじゃこ天は、駅や空港の酒のつまみのコーナー
には必ず置いてあるので、目に入ると必ず買うほどのもの
ではある。

またこの黒はんぺんもじゃこ天も、どちらも平べったくで
今日の黒はんぺんは少し丸っこいが、じゃこ天と同じ
長四角のものもあって、かなり似たものであるというのが
私の印象であった。

と、いうことで、御徒町の吉池にこの二つが
並んで置いてあったので、二つとも買って、
食べ比べてみようと思ったのである。

しかし、吉池というのはおもしろい店である。
魚介類系は加工品も含めて東京でほぼ出回っていない、
こんなご当地名物までも広く扱っている。

こんな感じ。



黒はんぺんの方は、桜えびで有名な静岡市由比町のもの。

じゃこ天は、愛媛県八幡浜市のもの。

じゃこ天の方が随分高かった。
黒はんぺんは一枚50円。
じゃこ天は一枚100円を超えるくらい。

切って、オーブントースターで加熱する。



薬味はおろししょうが。

食べ比べると、、、、

じゃこ天の方が、うまい。

黒はんぺんというのは、気持ち、甘い。
これは静岡のどこで買ってもこの味なので、
決まっているのであろう。
これは私の好みだが、この甘味がちょっと気になる。

じゃこ天の方は、これも地域によって違っているのかもしれぬが、
私が過去に食べたじゃこ天の中には多少甘味のあるものも
あった。(本場鹿児島のさつま揚げ、現地ではただ天ぷらというが、
は、それとわかるほど、甘い。九州の方が甘いのか?。)
ただ、今日のじゃこ天は甘味はほとんど感じられず、
さっぱりとして、魚の旨みと小骨の風味も感じられる。

さて。ここで大きな発見があった。
よくよく調べてみると、じゃこ天というのは、
青魚のものもあるのかもしれぬが、本場の南予地方で
ハランボと呼ばれているホタルジャコという魚を使うのが
本当とのこと。
(ホタルジャコは比較的深いところに住んでおり、
アカムツ=ノドグロに近い仲間のよう。)

この黒はんぺんは文字通り、青魚の鰯のすり身に鱈のすり身を
入れたものを原料にしているようである。

じゃこ天の方は、じゃことはいっているが、青魚でもない
決まった魚を使って作られており、そういう意味では
もはや雑魚とはいえず、黒はんぺんと比べてしまうのは
黒はんぺんの方が可哀そうなのかもしれぬ。

また、値段がじゃこ天の方が少し高いのも、原料の魚が
決まっているということで十分に納得できる。

対する黒はんぺん。
考えてみれば、青魚の練り物といえば、つみれ、
ではないか。
私などはおでんでも、つみれは大好物、で、ある。

で、あれば、つみれの味のまま、平たくすればよさそうな
気もするのだが、まあ、静岡ではこういうものが黒はんぺん、
なのであろう。
実際のところ、濃い味で有名な静岡おでんではこの黒はんぺんが
重要かつ人気の種になってもいる。
部外者がとやかくいう筋のものではなかろう。

ともあれ、比較すればの話しで、黒はんぺんも私は十分に
うまいもの、であるといってよいと思っている。