浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



五反田・とんかつ・あげ福

dancyotei2016-01-28



1月26日(火)夜

とんかつが食べたくなった。

市谷がオフィスであった頃は、帰り道、上野広小路で降りて
[ぽん多]だったり[井泉]あたりに寄っていた。

むろん、今も山手線を御徒町で降りているのでこれらに寄ってもよいのだが、
ちょっと、五反田で開拓してみようと考えた。

少し調べると表題の[あげ福]というのが出てきた。

なんとあの、ハンバーグ、ステーキで有名な
[ミート矢澤]が開いた店で店舗も隣。
開店は13年で2年ほどは経っているよう。

[ミート矢澤]の方は、一度は行ってみたいのだがいつも行列。
だが、このとんかつやは行列ということはないよう。
どちらにしてもオフィスからもすぐなので寄ってみることにした。

7時すぎ、目黒川沿い[ミート矢澤]の店前の空き待ちの
人々を横に見て、隣の[あげ福]へ。

ドアを開けて入る。

入って一人、というと、入り口そばのカウンターに
案内された。
入り口そばで、ちょっと寒そう。

とんかつやというが、店内は今風でお洒落。

カウンターとテーブル席。
調理もホールも、スタッフは若め。

瓶ビールをもらい、厚切りロースの定食で3000円也。
せっかくなので、一番のものを頼んでみようか、と、
いうことである。

席の埋まり具合は半分ぐらいであろうか。

厚切りなので、少し時間がかかるといっていたので
ビールを呑みながらのんびり待つ。

ちょうど座った前が、揚げている目の前。
30代前半かと見える若い男性。
材料に塩胡椒を振り、小麦粉をつけて玉子をくぐらせ、パン粉を
入念につけ、揚げる。

このお兄さん、油を切る動作がちょっとおもしろい。
いや、気になって目が離せなくなってしまった。

揚げ箸でつまんで、2回3回と油の上で振って油を切るわけだが
この時、背筋を伸ばし、右手に箸、左手はなぜか手を腰にあてて
(風呂上りにフルーツ牛乳を飲むときの左手である。)
右手をスローモーションのようにゆっくり振ってピタッととめる。
このゆっくりと振るのは油が飛び散らないように、
という配慮なのであろうが、同時に腰にあてた左手が、どうにも
気になってこの動作をするたびに、目がいってしまった。

15分弱か、きた。



ソース類の説明があった。
左側手前の塩が、トリュフ塩。
その上がオリジナルのジンジャーソース。
そして、カウンター上に“一般的な”ソース。

なるほど厚切り。

まず、塩から。

十分な肉のうまみ。
また、柔らかさも上々。

次にジンジャーソース。
これは、どちらかといえば、しょうがじょうゆに近いか。
だが、ちょっと複雑な味。
なにが入っているのかわからぬが、ちょっととろみもあるような、
濃厚さで、うまい。斬新であろう。

キャベツには梅しそのドレッシングをというので
ソースではなく、これをかけてみた。
これも、なかなか口当たりがよく、キャベツが食べやすい。

最後に、ソースで。
確かに“一般的”なソース。
別段、これでも問題なく、うまいとんかつ。

なぜか、ソースだと、からしがほしくなるが、
あえてであろう、カウンター上には置かれていない。
意図を無視してまで、もらうのはやめる。

ご飯、豚汁も平らげ、ご馳走様でした。

十分にうまいとんかつではあろう。

ただ、ちょっと辛口の表現をすると、ジンジャーソース以外は
特段、変ったことはない。
まあ水準のとんかつということである。

この店、隣の[ミート矢澤]で人気のハンバーグの
メンチカツがあり、これが話題でもあるらしい。
今日はあえてノーマルなとんかつにしたが、今度は、
それも食べてみよう。

さて。

今回、この店を見つけたのは「東京とんかつ会議」というページ。

かの、山本益博氏のページで、益博氏が主宰して3〜4人で
同じとんかつやをまわり、評価をしているというもの。

それで、この[あげ福]を取り上げていた、というわけである。

今回、この記事のいくつかを読んでみたのだが、
やはり、さすがと思わされた。

益博氏も含めて、食い物評論のプロである。
あたり前だが文章もちゃんとしている。

ネットの飲食店レビューというのは、今私が書いているこれも
むろんそれに入るし、各レビューサイトで、一般の人々が
盛んに書いている。

比べてどうか。

いやむろんのこと、比べるまでもない。
書いている評論内容についても、文章自体の質についても然り。
(美文、名文というのではないが。)

素人評論ばやり。私もあなたも今日からグルメレポーター?。

それ自体はわるいことではなかろうが、考えてみれば、昔から
益博氏のようなちゃんと、食べ手としての修行というのか、
勉強をして、むろん文章の訓練もして、ある見識を持って
料理評論をしている人々がちゃんといたのである。

もう一つ加えれば、特にTVなどでは最近は料理人そのものが出てきて
なにかいっているのだが、これもやっぱり、クエスションマークがつく。
彼らは料理のプロであろうが、話す、伝える、文章を書くプロではない。

少し前にラーメン[くろ喜]で書いたが、モチモチ、シコシコ、といった
擬態語を多用するというのはどちらかといえば、彼ら、料理人では
なかろうか。でなければ、その周辺の人か。彼らはやっぱり伝えるプロではない。
伝わっているようで、まったく伝わらない。結局言葉だけが踊っている、
のであろう。

となると、私自身のスタンスも書いておかなければいけなかろう。
私は料理評論を目指しているわけではない。
ただ、文章については、気持ちよく読んでいただきたい、
という思いで、書いてはいる。
食いものを通してだが、主として東京の街だったり人だったり、
歴史だったりを伝えたいと思っている。
ちょっと言い訳じみるが、そんな心持ではある。



P.S.益博氏のページで自らを「昭和のとんかつ小僧」と名乗り、
浅草[河金]がスタンダードであったといっている。
氏は私が今住んでいる元浅草七軒町の隣町、永住町(ともに旧町)の生まれ育ち。
永住町は池波正太郎氏、永六輔氏の育たれた町でもある。
この三人の顔ぶれ、ちょっとびっくり。






あげ福


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