浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



不動前・東印度カレー商会

1月21日(水)昼

さて。

昼飯、五反田、で、ある。

オフィスが移転して2か月半。
段々に五反田にも慣れてはきてはいる。

五反田と書いたが、今日は実は不動前。

不動前という駅はご存知でない方も少なくなかろう。

JRの五反田の渋谷方向の隣の駅が、目黒。
目黒から出ているのが東急目黒線
その一つ目の駅が不動前。

実は、私のオフィスのビルが不動前駅にも近く、南北線にもつながっているので
出掛ける方向によってはJR五反田駅ではなく、
こちらを使うこともままあり、もう一つの最寄駅になっている。

不動というのはむろんのこと、目黒不動のことである。

目黒不動は池波作品、鬼平などにも、よく登場する。
目黒不動瀧泉寺の創建は古いが、江戸になって家光の庇護を受けて発展した。

江戸郊外でお参りかたがた物見遊山の地としてはちょうどよかったのであろう。
鬼平には平蔵が市中見回りの足を延ばし、目黒不動を訪れ、
奥方の久栄への土産に名物の「桐屋の黒飴」を買うのが定番のコース。
あるいは、門前の料理や[伊勢虎]で木村忠吾が多摩川から運ばれた鮎の
塩焼と鮎飯を食べたり。
また、鬼平の時代よりは後、幕末から明治になるようだが、
近くの碑文谷、戸越といったところを中心に筍の栽培が盛んになり、
筍飯も門前料理やの名物の一つに加わったようである。
が、昭和に入り五反田の市街地化と足並みを揃え、竹林は宅地化され名物の
筍飯も姿を消していったようである。

目黒なる筍飯も昔かな(高浜虚子

先日、五反田花柳界のことを少し書いたが、
すぐ隣のこの目黒不動門前も、五反田と比べれば小規模のようだが
花柳界であった。
小規模の上に五反田よりもお手軽。例の昭和初期の「全国花街めぐり」によれば、
コミコミでいくら、なんというセット料金的なものもあったようで、
五反田以上の場末ということか。
ただ、やはりここの成立は古く、江戸期文化文政から天保(※)ということで
前述の茶店や料理やなどを拠点に“接待”をする女性がいたのであろう。

不動前駅というのはお不動様からは少しから離れている。
私はお不動様自体にもまだお参りしたこともなく、
そちら方向には歩いたことがないのでわからないが、
よく探せばそれなりの名残があるのかもしれない。

さて。

そんな歴史の不動前なのだが、ほぼ関係なく、
今日のランチは駅前の小さなカレーショップ
[東印度カレー商会]というところ。

知り合いに聞いていたのだが、なかなか不動前を使う機会がなく、
やっと、チャンス到来、で、ある。

[東印度カレー商会]とちょっとヘンな名前。
由来はよくわからない。

ここは築地の場外にも店があって、どうも築地の方が
先に有名になったようだが、不動前がもともとの店であったようである。
開店から4〜5年のようでさほど古くはない模様。

駅の改札からだと出て左の目の前。

間口一間、カウンターのみの小さな店。
ひょっとすると前を通っても目に入らないくらい。

店の前でカレーおにぎりを売っている。

昼時、入ってみると、ほぼ満席。

あいていた手前の一席に座る。

お兄さん一人と、おかあさん一人。

メニューは上々豚カレー(中辛)900円と
上々スパイシー豚カレー(辛口)950円の二品。
(築地に店があるせいであろう、マグロヅケ丼というのもあるよう。)

ナンかライス、またはナン・ライスのハーフ&ハーフから選べる。

すぐにきた。



おかあさんの、ルーのお替りできますから、とのコメント付き。

角煮といってよいのか、大きな豚バラ、それから手前のは
皮ごと焼いた玉ねぎ、焼きめが入っているにんじんとじゃがいも。

ルーは色が濃いめで、とろみもある。

食べてみる。

ん!。

ちょっと不思議な味。
スパイスの立った、インドカレーでもない。
いわゆる市販のルーのカレーに近いような気もするのだが、
そうでもない。
欧風カレー、、あるいは、洋食やのデミグラス系のカレー、、
なんとなくこれに近いような気もするが、微妙に違うようにも、、、。
一種独特。

中辛というのを選んだせいか、気持ち甘い感じもする。
いや、ちょっと違う。
正しく書くと、辛みはあるのだが、ベースが甘いというのかであろうか。
ちょっとモッサリした感じを受けなくもない。
もしかすると、甘いのではなく、濃い、のかもしれない。
濃さ、というのは、甘味と感じることがあるように思う。
これがなんとなく、ミスマッチというのか、アンバランスというのか、
そんな感覚を抱いてしまう。
これが辛口であれば、もっと違和感を感じるのかもしれぬ。

ご飯はノーマルだが、盛りが大きく、
ルーが足らなくなり、お替り。
おかあさんが、お玉で皿に足してくれる。

「あ〜、これ、慣れ、なのかもしれない。」

食べていくうちに、段々に違和感がなくなってきた。
インドカレーのようなサラサラ感を想定していたからか、
私自身、あまり食べたことのない味だから、かもしれない。

さて。帰りに店頭に残っていた二個のカレーおにぎりも買ってみた。

 



マグロとチーズ。
マグロはカレーで煮てあるもの。

カレー味。ほぼカレー粉のみを入れたドライカレーのよう。
ルーのような複雑な味はしない。
ちょっと辛みが強めで、うまい。

この店、おかずがカウンター上にフリーで置いてあったりもする。
おかあさんもお兄ちゃんも、いつもにこやかで、腰が低い。
なにか、これも魅力。
やっぱりちょっと、不思議なカレーやかもしれない。









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※西村他「近代東京における花街の成立」2008