浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



箱根塔ノ沢・福住楼 その1

dancyotei2015-12-28

12月26日(土)〜28(月)



さて。



今日は仕事納めの方も多かろうが、

私は一足早く、今日は休みを取り、

例年通り、箱根塔ノ沢の温泉旅館[福住楼]へ

内儀(かみ)さんと行ってきた。

行く目的は、年賀状書き。

家にいるとなかなか怠けてできないので

缶詰になって書こうということだが、

まあ、半分以上は冬の骨休め。

[福住楼]は明治からある純和風の温泉旅館で

その建物は、今ではかなり貴重になった

数寄屋造りで、国指定の有形文化財

これがよくて、毎年この時期に、もう20年近くは通っている。

塔ノ沢にはもう一軒老舗旅館[環翠楼]というのがあって

こちらはかの皇女和宮終焉の地であったり、超のつく格式の旅館。

これに対して[福住楼]は作家、芸人、芸能人に愛された宿。

昨年

今年は休みの関係で26から28の二泊である。

二泊の真ん中の日がポイントで日本旅館に二泊すると、

一日は部屋で作業ができる、ということ。

作家先生が、旅館に籠って作品を書くというのがあるが

ちょっとだけ、そんな気分にもなれる。

本来、日本の温泉旅館というのは、

湯治という習慣もあるが、箱根でも伊豆でも

長逗留するというのはむしろあたり前のことであった

はずである。

今、こんなことをする人間はまずあるまいが、

骨董品のような部屋で昼間、ゆっくりとすごせるのは

とても贅沢なことである。

と、いうことで、土曜昼すぎ、車で東京を出て、

夕方、箱根塔ノ沢着。

塔ノ沢というのは小田急の着く箱根湯本から

一つ目の温泉郷で歩くこともできるが、

山に入っている分、俗気がなく、静かな宿である。



入ると、若旦那が迎えてくれる。

大旦那は健在だが、数年前からここも切り盛りは

代替わりをして、大分雰囲気が変わっている。

また、この一、二年[福住楼]もご多分に漏れず

外国人が大挙して訪れており、今年の我々は、

両日早川に面した部屋が取れず、一日目は山側の部屋。

桐の三。

担当のお姐さんの案内で部屋へ。



この部屋は初めてであろうか。

八畳で他の部屋よりも狭く、次の間もなし。

まあ仕方がない。

だが、造りはやはり凝っている。



専門用語はわからない。飾り障子というのであろうか。



山型の意匠の桟(さん)。

障子にちょっと影ができているのがおわかりになろうか。

この障子の裏は正円の窓になっており、

その形が光の具合で透けて見える。

開けると、



こんな感じ。

この桟は内側から見るためではなく、外側から見るためか。

こちらの格子もまた凝っている。

私自身むろん、数寄屋造りの専門家でもなんでもないが、

これだけ凝っている建物というのもそう多くはあるまい。

一息入れて、風呂へ。

[福住楼]自慢の丸風呂。



縁は銅製であろうか。



まだ、お客も少ない。

手足を伸ばして、大きな湯船にゆっくりつかることができる。





風呂場の欄間にも粋な彫り物がほどこされている。



波に千鳥、か。



図案として粋、あか抜けていると思われまいか。

さて。

部屋に戻って、先に一杯やって夕飯まで

転寝。

こんな時間も、なんとも心地よい。

慣れてくると、このくらいの大きさは意外に落ち着ける。

聞いてみると、この部屋はなんと

川端康成が籠って執筆したという。

この宿では早川側を希望した作家が多かったようなのだが、

川端先生は音がうるさいというので山側。

なるほど、この落ち着きは、さもありなん。



しかし、いつ頃であろうか。

書かれた作品はなんであろうか。

今度調べてみようかしら。







つづく







福住楼