浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



松が谷・ふぐ・牧野 その2

dancyotei2015-12-01

11月29日(日)夜

引き続き、日曜日、ふぐの[牧野]。

ふぐの刺身というのは、なんというのであろうか。

もうなん度も食べているのだが、
いまだに、自分の中で落ち着きどころが見つからない。

白身の魚の刺身では、最も高価なものの一つであろう。

その値段に見合って、うまいと感じるかというと、
そうでもない、というのが心底、正直なところなのである。

むろん、まずくはない、いや、十分にうまいのではあるが。

そもそも、私などには、鯛でも平目でも鰈でも、
白身の刺身というのは味自体が淡泊でわかりずらい。

このあたりの鮨やなどでも定番の白身と比べると、
ふぐは、かなりしっかりした食感。

例えば、魚とすればふぐに近い種類のカワハギを
ふぐ、といって、出されてももしかしたら私にもわからない、
かもしれない。

旨味というよりは、食感。
味はぽん酢しょうゆの味?。
極端なことをいうと、そういう感想に至ってしまう。
(はなはだ、もったいないこと、だとは思うのだが。)

ともあれ。刺身を食べ終わる。

次は、焼き白子。


頼んだのは、刺身と鍋以外にはこれだけ。

ご主人が、熱いから気をつけて、と、声を掛けてくれる。

塩だけで焼いてあるようで、表面にプチプチと白いのが
塩であろう。

一口噛む。

これはたまらぬ。

熱いクリームのような白子が
口の中一杯に広がる。

白子は私は実際ところあまり得意ではないのだが
むろん鮮度もよいのであろう、生ぐささなどまったくなく
ねっとりとしたうまさ。
ひれ酒がすすむこと、夥(おびただ)しい。

さて。いよいよ鍋の準備。

お姐さんがカウンターにガスコンロをスタンバイしてくれる。
水を張った鍋をのせ、昆布を入れ、点火。


娘さんらしいお姐さんの調理場での定位置が私達なので
細かく世話をしてくれる。

鍋の具材は一人前。
二人でも量は一人前で十分。

沸騰してきたら、骨付きの部分を入れる。
白菜の芯の部分。

豆腐も?

と、豆腐を入れようとすると、
またまた、お爺さんのご主人が、豆腐は温まればよいから、あとで、が
いいですよと、と、言ってくれる。

よい豆腐なのであろう。
煮すぎないのがよいのか。

話しを始めるとこのご主人なかなか多弁。

短髪のごま塩頭。
おいくつぐらいなのであろうか。
かなりの腰の曲がり具合なのだが、意外に、若いか、、
60代なのかもしれぬ。

言葉を発すると丸い目をパッチリと見開いて、
タダモノではなさそうな雰囲気を漂わせている。

[牧野]は創業90年になるという。(大正末か。)
このご主人は二代目、あるいは三代目、なのかもしれない。

鍋も煮えてきた。


ぽん酢しょうゆには細かく切った万能ねぎ(あさつき?)
たっぷりの紅葉おろし、それから皮がちょっと厚めで
表面は黄色と緑が半々になっている柑橘類。(名前を
聞けばよかった。あれなんだったのだろう。)
これを絞る。

 

ふぐというのは、鍋にした場合、なにがうまいのか。
なにか根源的な疑問のようではあるが、
刺身同様に、関西の方々がうまいうまい、というのに
100%同意するまで至っていないのが正直なところである。
もちろん、うまいのではあるが。

同じ白身で、たらも定番の鍋である。
特に東北地方ではたらの鍋は風物詩であるし、むろん、うまい。
しかし、価格は圧倒的にふぐの方が高かろう。
ふぐの近い仲間のかわはぎも、鍋にして、とてもうまい。
それぞれの持ち味であろう。

ふぐ鍋やは、実際のところ当地浅草にはなぜかかなりの数がある。

東日本の人間は私も含めて、今でもふぐを喰う習慣は
ほとんどないといってよかろう。高価だからというのも
あろうが、もともと関西に比べれば馴染みは
少なかったのではなかろうか。

一度ちゃんと考証したいと思うが、想像するに、本格的に
食べるようになったのは明治以降ではあるまいか。
それもふぐの本場である長州・山口県の人々が持ち込んだ!?。
伊藤博文がうまいので山口県のふぐ食を解禁させたという逸話は
有名である。東京でのふぐ解禁は、明治25年。(明治15年から政府によって
ふぐ食が禁じられていたよう。wikipedia)これは他府県よりも
早かったのではなかろうか。

それで東京にふぐやが広まり、古い盛り場である浅草に残った。
毒もあり、ふぐ調理師免許が戦後できるまでは、危ないもの。
味もむろんよいが、スリルというのか、レア感、希少感もあり、
食通の好むものとなり→値段が上がる。
なんとなくではあるが、そういうことだったのではないかと
思っている。

ともあれ、鍋を食べ終わり、雑炊。


東京では、普通は“おじや”が一般的な言い方だが、
ここではふぐやだからか、雑炊といっている。

ご主人が、こちらの鍋は、身が一人前で少なかったからなのか、
白子の切れっ端を放り込んでくれた。

作ってくれるのは、娘さん。

できた。


大満足。

これでも十分に腹一杯。
ひれ酒もお替りももらって、上機嫌。

ご馳走様でした。

今日は、いい場所に座った。

 


台東区松が谷3−8−1
03−3844−6659