浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



金山寺味噌と落語黄金餅 その2

dancyotei2015-10-08



10月4(日)夜



引き続き、金山寺味噌から、落語黄金餅(こがねもち)のこと。

下谷山崎町の貧乏長屋に住む乞食坊主の西念が
多量の金銀を飲み込んだまま死んでしまった。

隣に住む金山寺味噌やの金兵衛は亡骸(なきがら)を
火葬場で焼いた時に骨の中から取ってしまおうと考える。
大家さんにも葬式万端、西念に頼まれたといっておいた。

金兵衛の寺は麻布絶口(あざぶぜっこう=麻布だが架空の地名)。

早桶(棺桶のこと。当時は座棺。)が買えないので、井戸端に
干してあった大家さんの菜漬の樽に亡骸を入れる。
これをさし担いで、夜、歩いて長屋みんなで寺まで送る。

「え〜〜。下谷の山崎町を出まして、あれから上野山下、
三枚橋から上野広小路、、、、」

ここから、神田、日本橋、京橋、銀座、新橋、飯倉、麻布永坂、
麻布十番、麻布絶口釜無村(かまなしむら)の木蓮寺まで、
途中の町名を順に言い立てる。ここが聞きどころ。

志ん生師の

木蓮寺に着いた時には、皆くたびれた。
 あたしもくたびれたよ。」

が、いつ聞いても傑作。

着いた木蓮寺も貧乏寺。

金兵衛が山門を叩くと和尚は、酔っ払っているようで

「酒屋の小僧かぁ?木蓮寺の和尚はなぁ、一升や二升の酒で夜逃げはしねえ
 と、帰って主人に、そいえ〜」
「なんだヵなぁ。そうじゃねえよ。山崎町の金山寺やの金兵衛」
「あ〜、なんだぁ〜。金山寺ぃ持ってきたぁ〜?」
金山寺、持ってきやしねえよ。弔(とむれ)え持ってきたんだよ」
「あ〜、金兵衛さんが死んだか」
「そうじぇねえよ」

ここのトンチンカンな会話が、まるでスネークマンショーのようで
また、傑作。(むろんスネークマンショーの方が後だが。)

寺に入って、お経をあげてもらうのだが、
このお経がまた、超テキトウ。メチャクチャ。
これもまた、聞きどころ。(この噺、志ん生版は、聞きどころでない部分は
ほとんどない。超名作であろう。)

みんなは帰して、金兵衛一人、亡骸の入った樽を背負って、
桐ケ谷の火葬場まで行き、火葬を頼む。
朝一で戻り、骨の中から金銀を発見。
金銀だけ持ってトンヅラ。(この焼場での会話も傑作。)

この金で金兵衛は目黒に餅やを開いた。
この餅を誰いうとなく、黄金餅といって、たいそう繁盛したそうな。
江戸名物、黄金餅の由来の一席でございました。

とまあ、こんな噺。

一言では言い表せない、多彩な内容を持った噺である。

ブラックであり、馬鹿馬鹿しく、ナンセンスであり、芸もみせる、
これが志ん生落語といった感じであろうか。

今の現役落語家も演る。
この志ん生版「黄金餅」が下敷きなので最高レベルのセンスが
必要である。
個人的には談志家元も志ん生を越えられているとは思えないくらいであるが
この志ん生師の話芸を少しでも後世に残すことを、現代の心ある落語家は
志すべきであろう。

落語黄金餅はこんな感じであるが、金山寺味噌であった。

この落語は、まず江戸時代に成立している、
もしくは、少なくとも江戸時代を実体験として知っている
人々が江戸時代を実体験として知っている聴衆に対して作った噺である
といってよいだろう。

その中で、主人公は、金山寺味噌やの金兵衛。

むろん黄“金”餅、だから。
たまたまではないことは、誰も異論がなかろう。

で、この噺の中での和尚との会話を書いたが、これをみても、
金山寺味噌は江戸期には江戸で一般的なものであった、
と、いってよいと私は思っている。

昨日冒頭に、金山寺味噌和歌山県湯浅町の名物と書いたが、
今も、湯浅町だけでなく東京近郊、
基本関東のしょうゆの産地と一致すると思うが、
千葉県でも作っているところがあり、東京などに出している。

ここまでみてくると、金山寺味噌は江戸、東京でも伝統的なものと
もはやいってよいだろう。

ではなぜ、紀州金山寺味噌が江戸に入ってきたのか。

歴史には重要なポジションの金山寺味噌だが、
普通の味噌やしょうゆといった、大量生産されることになる、
メジャーな調味料ではなく、たかだか、なめ味噌、なのに、、。

このへんも疑問であった。

今回調べてみて出てきたのは、吉宗の名前。

なるほど。
ご八代様、八代将軍吉宗紀州の出である。

江戸に広まったのは吉宗が紀州から献上させたから
との説があるようである。(ウィキペディア

当初は武士の間だけだったのかもしれぬが、
金山寺味噌は町人にも広まり、また、江戸近郊でも
作られるようになった、のか。

金山寺味噌以外にも紀伊国屋文左衛門のみかん、などもそうだが
江戸と紀州とのつながりは、意外に強かったのかもしれない。

さて。

その本場、紀州湯浅の金山寺味噌




箱を開けると、こんな感じ。


もろきゅう用のかわいいきゅうりが売っていたので。



エシャロットでもOKである。

味はどうか。

味噌自体は気持ち甘味が少ない気もするが、大きくは変わらないよう。
だが、入っている、具材というのか、野菜が大きい。

入っているのは、瓜、茄子。
NHKのTVでもやっていたが、茄子は湯浅の地の茄子、
湯浅茄子といって、身の堅い丸茄子だそうな。

大きいので、存在感があり、瓜などはちょっと
奈良漬のような感じ。

取り寄せると、送料と品代が同じくらいになってしまうが、
ちょっとはまりそうである。