浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



金山寺味噌と落語黄金餅 その1

dancyotei2015-10-07


10月4(日)夜


さて。


金山寺味噌、キンザンジミソで、ある。


金山寺味噌?。


名前を聞いてもピンとこない方もあるかもしれぬ。
もろきゅう、についてくる、つぶつぶしたちょっと甘い
味噌、と、いえばお分かりになるであろう。


金山寺味噌というのは、和歌山県湯浅町というところの名物である。


NHKの旅の料理番組(「キッチンが走る!」)で今週、
この湯浅町が舞台で、金山寺味噌も出てきて、本場の金山寺味噌
どんなものかちょっと食べてみたくなり、取り寄せてみたのである。







大きな樽入りのものから、小さなパックのものまであったが
中ぐらいの箱入りのものを買ってみた。


さて。


和歌山県湯浅町というと金山寺味噌なのだが、同時に
日本のしょうゆ発祥の地としても知られている。
これもご存知の方はおられようか。


金山寺味噌をなん年も置くと、黒くなり形がなくなり、
その上澄みが、たまりじょうゆになった、という。
これがしょうゆの最初といわれている。


室町時代のこと。
中国から帰った坊さんが「径山寺味噌」の製法を
紀州湯浅の村人に伝えたのが最初であるという。
径山寺と書いて、キンザンジと読むよう。
径山寺は中国のお寺の名前。


そんなわけで湯浅町金山寺味噌と並んで、今も
たまりじょうゆの産地としても知られている。


金山寺味噌というのは、もろきゅうぐらいにしか使わないが、
我が国の味噌やしょうゆの歴史の中で重要な役割を果たしてきた、
らしい、ものではある。


だが、そんな金山寺味噌なのだが、以前から、
私はちょっとした“ひっかかり”を感じていたのである。


東京でも金山寺味噌はスーパーに売っているし
一般的なものである。
だが、使い道はきゅうりにつけて食べるくらい。
まあ、いわゆるなめ味噌でそれ以外に使い道がない。


きゅうりだけならば、金山寺味噌でなくとも普通の味噌で
十分である。ちょっと不思議ではないか。
こんなピンポイントの用途のものが定番で売られているのは。


それも、我が国では和歌山発祥のものなのに。
東京で昔から食べられていたのか?。


実に、このこと、なのである。


皆さんは「黄金餅(こがねもち)」という落語を
ご存知であろうか。
これに金山寺味噌がちゃんと出てくる。



なんといっても志ん生師の独断場。



談志家元もおそらく自らが好きだったのであろう、
よく演っていた。



この主人公が金山寺味噌を売る金兵衛という男。


金山寺味噌からは離れるが、私も大好きな噺なので
あらすじを書いてみよう。


下谷の山崎町の超がつくほどの貧乏長屋。
(今の上野の昭和通り沿いのバイクや街あたり。
ちなみに、やっぱり貧乏長屋が舞台だが「長屋の花見」の
長屋もこのあたりを想定している。)


ここに乞食坊主の西念という人がいた。


乞食坊主と噺の中では呼んでいるが、願人(がんにん)坊主
のことだと思われる。坊主の恰好をした乞食なのか、
坊主なのだが乞食をしているのか。
願人坊主であれば、後者になる。乞食としてのもらいは、
坊さんであれば、寄進ということになるし、彼らは
一応決まったお寺に所属しており、つまり寺社奉行配下でちゃんとした
身分がある、という者どもで、ただのホームレスではない。
下谷の山崎町あたりには、彼らの集まっている長屋が
あったのである。


ともあれ。


この西念は、とにかく金を貯めるのが趣味で
乞食坊主をしてはいたが、意外に貯め込んでいた。


あるとき、その西念が、ひょんなことで病気になり
寝込んでしまった。そこで隣に住んでいるのが主人公の、
金山寺味噌やの金兵衛。


見舞いに覗くと、西念はあんころ餅が食いたいから
買ってきてくれと頼まれる。


買ってきてやると、西念は、見ていられると食べられない性分なので
帰ってくれと、金兵衛は帰らされる。
くやしいので、壁の穴から様子を見ていると、
西念はあんころ餅の餡をみんななめてしまい、餅だけにする。
胴巻きを取り出すと中からは、金銀取り混ぜて、どっさりと
出てきた。これを餡をなめ取った餅にくるんで飲み込み始めた。


「あ〜、この野郎、金に気が残って死ねえぇんだ」。


いくつめかに、西念は、餅を喉に詰まらせ、うーっと声を上げる。
金兵衛はあわてて、隣へ駆けつけるが、そのまま死んでしまう。


「天下の通用をみんな飲んじまって。


 もったいねえことをしやがる。


 なんとか取れねえかな、、、。


 そうだ、焼場へいって骨上げン時にさらっちゃお」。
 (火葬した時に骨の中から取れるだろう。)


なかなか壮絶ではないか。


現代人の感覚では、今一つピンとこないかもしれぬ。


飲み込むほうも飲み込む方だし、奪おうと思う方もまた然り。


最初に書いたが、もう完全にスラムといってよい、
極貧の長屋なのである。皆、本当にその日暮らし。
乞食とすれすれの生活をしている。


そこで、死体から飲み込んだ金銀をなんとか取りたい、
という必死の思いが出てくるのである。


これから金兵衛は大家さんに西念の死んだことと、
葬式のことなどを西念に頼まれたからやってやるよ
と話す。




つづく