浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



稲荷町・洋食・ベア・カツカレー

5月30日(土)昼

引き続き、土曜日。

どうしたわけか、カツカレーが食べたくなった。

このところ暑くなってきたせいであろう、
とんかつづいている。

この近所でカツカレーというと寿の[キッチン南海]であったのだが
しばらく行っていないうちに、閉店をしていた。
以前は国際通りと春日通りの交差点にとっても味のある
小さな店で、老夫婦と娘さんであろうか、家族で
やっていて、ファンであった。

一度、一度、この交差点の対角のビルの1階に引越してやっていたのである。
残念である。

こういういかにも下町らしい味のある小さな洋食やは
どうしても段々となくなっていくのであろう。

例えば、人形町[小春軒]などは
私よりも若い四代目が継がれている。

有名な店であればまだしも、なのであろうか。
新たに始める人はいないのであろうか。

ラーメンやなどは、もう雨後の竹の子のように
どんどんとできるが、洋食やを始めたいというような
若い人はやはり少なかろう。
(フレンチやイタリアンではなく「洋食や」である。)
正味のはなし、やはりラーメンの方が修行などにしても
簡単なのであろう。
てっとり早くできて当たれば儲かる?のか。

洋食というのは、鮨、うなぎ、天ぷらと並んで、明治大正から続く、
東京下町を代表するもう一つの食文化といってよろしかろう。
この佳き伝統が続いてほしいと心から願う。

ともあれ。

カツカレーというのはやっぱりどうしても定期的に
特にこの季節は、食べたくなる。

大手のスタンドカレーチェーンでもカツカレーはあるが
やはり、こういう東京下町洋食の流れをくむ洋食やの味には
勝てない。

そうだ!。
もう一軒思い出した。

稲荷町[ベア]である。

稲荷町は私の住む元浅草の隣町(となりちょう)。
清洲橋通りを渡って、歩いても5〜6分。
出前でもよくお世話になっているが、文字通り下町の
洋食やであろう。

昼12時に自転車で出て、先に床屋、仲御徒町のQBに寄る。

天気もよくて、素足に雪駄
半袖の白いポロシャツ。

髪を切って、仲御徒町から稲荷町にまわる。

場所は稲荷町の交差点近くではあるが、裏路地。

店の前に自転車をとめて入る。

土曜日の昼だが、席はほぼ埋まっている。

カウンターに座る。

迷わず、カツカレーを頼む。

お客さんはおそらく皆近所の人であろう。

後ろのテーブルに座っているお父さん、お母さん、
若い息子夫婦なんという家族。
聞くともなしに4人の話を聞いていると、お父さんが病院から退院
したところのよう。ビールを頼み、久しぶりのようで、
うまいね〜、とお父さん。

カウンターの向こうの調理場。
料理を作っているのは二人。

料理を出すのは一人。
今日初めて気が付いたのだが、この三人顔を見比べてみると、
どう見ても親、子、孫。三人眼鏡を掛けて、そっくりである。

いつもは料理を運び、会計をするのに、もう一人
先の三人との関係はよくわからぬが、年配の親爺さんがいる。
親爺さんは出前にでもでているのか。
それで、今は料理を運んでいるのは、料理人親子の
お孫さんのお兄ちゃん一人ということであろうか。

きた。



ここは必ず味噌汁付き。

食べると、今日のカレーは妙に濃い。

ここでもなん度かカツカレーは食べたことがあるが
もう少しカレーが薄かったような印象がある。
今日は、煮詰まっていたのか。
気のせいかもしれぬが。

やはり、カツカレーの場合、揚げ油はラードで
カレーの味は濃いめ。

これがうまい。

食べ終わり、真面目そうなお兄ちゃんに勘定をする。

調理場の中の二人からも、毎度ありがとうございます〜、と、
かわるがわる声がする。

ご馳走様でした。
おいしかったです。


下谷稲荷町[ベア]。

別段、電車賃を掛けてくるというところではない、
下町のなんということはない洋食やであるが、
こういう家が希少な存在になりつつある。




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