浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野・とんかつ・井泉

dancyotei2015-03-15



3月10日(火)夜



市谷のオフィスからの帰り道。



いつものようになにを食べようか、考える。



久しぶりに上野の[井泉]でとんかつでも食べようか。


広小路駅からも近く、ちょいと寄れるのが
便利、で、ある。


創業は昭和5年


今年で85年。


今は三代目のよう。


とんかつ発祥の地といわれる上野では
もう少し古い家もあるが、堂々たる老舗である。


今はこの街に面影はほとんどなくなったが、
下谷花柳界の中にあり、この店の座敷は
そんなにおいを少しだけ感じさせる。


やはり、池之端上野広小路湯島天神下には
なくてはならない家である。


今、池之端上野広小路、天神下、と
三つの地名を書いたが、この界隈、ちょっと
地名のこととなると複雑である。


今の上野広小路から湯島天神下の東西。
不忍池から池之端仲町通り、春日通りの南まで。
この範囲の飲食店街がおおかた以前の、下谷花柳界
ということになるのであろう。


ここに地名は池之端上野広小路湯島天神下と
ざっくり三つに分かれている。


不忍池に接したところが池之端で、池之端
藪蕎麦のある通り、池之端仲町通りの北まで。


この仲町通りの南側は町名は文京区湯島。
藪蕎麦も池之端ではなく、湯島にある。


文京区湯島と台東区池之端、あるいは上野が
このあたりごちゃついているのである。


江戸の地図を出してみよう。





江戸の頃は、今の春日通りはない。



上野から湯島方面へはその池之端仲町通りが
本通りであったわけである。
それで大きくはないが、高価な品物を扱う
小間物屋のような老舗、または宝丹という薬を
扱う薬やなどもあった。(この家は今も仲町通りにある。)


赤いラインを入れたが、これが今の文京区と
台東区の境界。


西側は板倉摂津守などの武家屋敷の区域。
この東に湯島天神下同朋町という町名が見える。


江戸の頃からここまで、湯島天神下であったわけである。
これが明治以降も踏襲され、東側が下谷区になり、
湯島天神下は本郷区になり、今の文京区と台東区
区境になっている。


ちなみに、今日の[井泉]もその天神下同朋町に
あったため、文京区側に入っている。


ただ今も実際には池之端上野広小路湯島天神下も
盛り場としては一体で特段の区別はないといってよろしかろう


さて。


[井泉]、着いたのは8時すぎ。


夕方になってパラパラと降りだした雨。
肌寒い。


傘を閉じ、格子を開けて入る。


コートを脱いで、あいている正面のカウンターに座る。


ビール、キリンの瓶をもらう。


今日は、ノーマルに定食にしようか。


特ロースの定食。


ちょうどお客が切れていたので、
目の前で私のとんかつが揚げられていくのが
見える。


揚がって、油を切り、専用と思われる
とんかつ一枚分の小さな年季の入った俎板の上でサク、サク、サクと
切ってキャベツの盛り付けてある皿にのせられる。


できた。


ご飯、お新香、豚汁とともに運ばれる。


ソースをかけ、辛子を皿に取る。





かすかに香るラード。



サクサクとしたパン粉。



「箸で切れるとんかつ」というのがここの
昔からのキャッチコピーであるが柔らかく
うまみたっぷりの肉。
ロースといっても、わかるほどの脂身は少ない。


特ロースと、普通のロースとの違いは
なんであろうか。大きさと厚みであろうか。


豚汁もうまい。


食べ終わると、お姐さんが番茶の入った急須を
置いていく。


ゆっくり番茶を飲んで、お勘定。


ご馳走様でした。


うまかった。






井泉本店




文京区湯島3-40−3
TEL 03-3834-2901