浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



松屋浅草・銀座すし栄

dancyotei2014-04-01



3月29日(土)

引き続き、土曜日。

吾妻橋のQBで髪を切り、2〜3分咲きの桜を見て、
吾妻橋を渡って西詰め。

実は、最初から考えてきたのだが、今日は、
松屋の地下に入っている、イートインの鮨や
銀座[すし栄]へ。

昨日からどうしてもここの鮨が食べたかった。

銀座[すし栄]というのは銀座7丁目の昭和通りのそばに
あった江戸創業の老舗。

支店が銀座松坂屋の地下にあり、ここは池波先生が
豊子夫人などとよく立ち寄っていたところ。

今、銀座松坂屋は改装中で閉店。
(これに合わせたとも思えぬが、去年の4月から、
本店も店を閉じているよう。)

池波先生が行かれていたというので、銀座松坂屋へ行ってみた。
デパートの地下のイートインなので果たして?!
と思っていたが、さすがに先生のお眼鏡にかなっているだけあり、
ちゃんとしていた。
値段も場所柄からリーズナブル。気軽に立ち寄れてこれはよいぞ、と、
銀座松坂屋の店に行くようになり、また、浅草松屋にも
ちょいちょい行くようになったのである。

値段がリーズナブルなので、むろん高価な種はない。
しかし、ちゃんとしているというのはどういうことか。

私の持論であるが、にぎりの鮨というのは、
タネを切って、ただそのまま握ればよいのかといえば、
そうではない。

昔であればなんらか仕事を施していたわけであるが、
今は生であっても、さばいてにぎるのに最良の状態で
用意されたものでなければ、いけないということである。

また、小肌や鯖、穴子、たこ、海老など今でも〆たり、煮たり
茹でたりするタネは、むろん最適な下拵えをしてあると
いうこと。

高い魚を使わなくとも、これがちゃんとしている
ということである。

安い鮨や、といえば回転ずしがすぐに思い浮かぶが、
まずこういうことは考えていないだろう。

最近は、これ見よがしに脂があったり、軍艦巻の盛りを
コテモリにしたり、人目を引くことには一生懸命で、
お客もそういう店に多く入っているのかもしれない。
そこでは、ありふれたタネをあたり前にうまく食べさせる
というようなことは関心の外であろう。

最近は、こういうものの方がうまい、と、感じる
人の方が多いのであろうか。
(そんなはずはないと思うのだが。)

ちゃんとした仕事がこういう鮨に駆逐されるというのは
食文化としてのにぎり鮨のことを考えた場合、
まったくもって嘆かわしいと、私なぞは思わずにはいられない。

しかしさすがに、江戸前鮨発祥の頃という老舗の看板を
背負(しょ)っているせいか[すし栄]では、まあ人によって、
あるいは時によって、多少の凸凹はあるが、ある程度以上の
神経を使って仕事をしたにぎりをにぎっている。

毎度の如く、ゴタクが長くなってしまったが、
安くてちゃんとした鮨やというのが、東京にはなかなか見つからぬ
ということであった。

そんなことで、浅草松屋の地下の[すし栄]。

いつもくるのは、ウイークエンド。
ここは意外にも(?)カウンターだけだが、いつもお客が絶えない。

今日も、なかなかにぎわっている。

入って、空いていた隅の席に座る。

瓶ビールをもらって、いつも頼むのは、
月替わりの旬のにぎり、1800円也。

品書きには『鰆、浅蜊蛍烏賊、春鯛、春飛魚、初鰹、とろ
づけまぐろ、特上穴子、かんぴょう巻』とある。

売場があるので、持ち帰りの注文も逐次入り、
つけ場は天手古舞(てんてこまい)。

しばらく待って、きた。



味噌汁付き。



右下、これが飛魚か。
鯖の押し寿司のように酢〆で薄い昆布をのせている。

その左隣、づけまぐろ、その隣が炙った鰆(さわら)、とろ。

真ん中、右から、穴子浅蜊

浅蜊は、つゆに漬け込み味をつけている。

蛍烏賊は酢味噌。

春鯛。

あまり意識したことはなかったが、鯛の旬は春だそうな。
(むろん酢〆にした小鯛、春子のことではない。)

上右、かんぴょう巻、初鰹。

今月は、なにかアイデアにぎりのようなものが多かったが
それでもやはり、ちゃんとしているといってよかろう。

いつもそうだが、これに追加。

小肌と鯵。



すみいか。


時期的にはもうお仕舞いに近い頃だと思うが、すみいからし
柔らかさと、あまみである。

うまかった。

実際に、安くとも“ちゃんとした”鮨や、というのは
他にもあるとは思うのだが、やはりいかんせん、そういう
店は、目立たない、のであろう。
有名で“ちゃんとした”高くてうまいところ、というのは
簡単に見つかるが。

もう一軒挙げるとすると、日本橋[吉野鮨] 。
([吉野鮨]はもう少しお高いか。)

ここのキャッチコピーは「たかが鮨、されど鮨」。
まさにこういうことだと思うのである。


ご馳走様でした。