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国立劇場三月歌舞伎公演菅原伝授手習鑑〜車引 處女翫浮名横櫛 その

dancyotei2014-03-25

国立劇場三月歌舞伎公演 菅原伝授手習鑑〜車引 處女翫浮名横櫛 その2


3月22日(土)



さて。



引き続き、国立劇場の歌舞伎見物。


「菅原伝授」の車引。
昨日、初見と書いてしまったが、まったく私も
いい加減なものである。
2010年の初芝居で歌舞伎座で観ていた。


これを読むと、なんだか、消化不良などと書いているが、
まったく記憶にないところをみると、理解すら
していなかったのであろう。
(イヤホンガイドを借りていなかったのか、歌舞伎を観る
下地のようなものが、まったくなかったからなのか。
まあ、ビキナーなど、こんなものなのである。)


ともあれ。


この芝居、役者のことにも触れておかなければ
いけなかろう。


いや、実は、今回また私、眼鏡を忘れてしまって、
かつ後方の席でもあり、顔がよくわからない状態で
観ていたので細かい所作のようなものまでは、
観られていないのである。
(ただまあ、慣れてしまえば、そんなものとして
ストレスなく、お仕舞まで観られてはいるのだが。)


国立劇場の歌舞伎は、歌舞伎座など松竹が主催するメインの芝居
と違って、超有名どころがなん人も出演するということは、
ないのではなかろうか。


なん回か観ているがどうもそのようである。


ではどういう顔ぶれかというと、いわゆる座頭格が一人
(あるいは二人程度)いて、その配下というのか、一門
(シンパ?)の役者で構成されている、一座。


今回の座頭(格)は「菅原伝授」では時平の坂東秀調
あるいは松王丸の中村錦之助、になるのか。


また、あとの「処女翫浮名横櫛」ではお富の中村時蔵が、
最後の切口上(きりこうじょう)も女形ながらしており、
座頭であろう。


時蔵は歌舞伎界女形トップの立女形(たておやま)であるので、
これは当然のこと。


時蔵は“萬屋よろずや)”で萬屋一門を中心とする
配役ということになっている。


時蔵次男の萬太郎が梅王丸、錦之助長男の隼人が桜丸。
(私はこの二人は初めてかもしれぬ)
ともに20代前半の二人がどう演じるのか、がポイント
だったのであろう。


正直、眼鏡なしですべてはよく観えなかったのだが、昨日書いたように
この芝居の構成上必要な荒事の力強さという点では、
どうしても伝わってくるものが少なかったように感じられた。


車引が終わって、休憩、昼飯。


国立なので、選択肢は少ない。


売店で売っていた柿の葉ずし





と、茶巾の入ったちらしずし。





と、いうことで、二幕目「処女翫浮名横櫛」。



「菅原伝授」の方が歌舞伎でいう、時代物で過去を扱った
歴史もの。二幕目は、世話物。
「処女翫浮名横櫛」は当時の現代劇で、一幕目は時代物、
二幕目が世話物と決まっていたのだが、この配置はそれに
合っている。


この作品は、まず、パロディーであるということ。
つまり、ある過去の作品を下敷きにしている。


もとの芝居はなにかというと
「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」
(これも偶然だが先の初芝居で車引と同じ日に観ていたのであった。)


主人公の与三郎が、切られる、ので、
この芝居の別名を「切られ与三郎」という。
また、相手の名前を入れて「お富与三郎」ともいう。


で、この切られるのが、与三郎ではなく、お富にかえたのが
今日の「処女翫浮名横櫛」ということなのである。
このためこちらは「切られお富」ともいう。


元祖の「切られ与三郎」の方は、春日八郎の「お富さん」
で、超、有名なのだが、ご存知あろうか。


「源氏店」などともいうが、



「え、御新造(ごしんぞ)さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、



いやさぁ、これ、お富、久しぶりだなぁ。」



(中略)



「しがねえ恋の情けが仇(あだ)」で始まる、


これも七五調の長い名ゼリフが売り。



ただ、七五調の長いセリフというといかにも
黙阿弥作品のようなのだが、この元祖の方は、
黙阿弥先生作ではない。


こちらは、ほぼ同世代なのだが、如月如皐(きさらぎじょこう)
という人で、黙阿弥先生よりも少し先に売れている。


で、江戸期初演当初、この「切られ与三郎」の方も
ヒットはするが、とある理由ですぐに演られなくなる。


なにかというと、与三郎を演った八代目市川團十郎
自殺をしてしまったから。


(このあたりのこと、少し書いている。)


これが「与話情浮名横櫛」切られ与三郎。





画:三代目豊国 嘉永6年 (1853年)江戸 中村座
与三郎、八代目市川團十郎 お富、四代目尾上梅幸


幕末のはかない大スター八代目團十郎


与三郎の顔に傷があるのがおわかりになろうか。


これに対して、こちらが今回の「切られお富」。





画:国周 元治1年(1864年)江戸 守田座
赤間源左衛門、四代目中村芝翫 お富、三代目沢村田之助


お富が切られる。


(このお富の、三代目沢村田之助も壊疽で両足切断後も舞台に
立つという、壮絶な役者人生を送っている。)


どちらも初演時の絵なのだが、
この間に、10年の隔(へだ)たりがあるのがおわかりになろう。





芝居にたどり着かなかった。


また明日。