浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



軍鶏鍋

2月14日(金)夜



先週末に引き続き、東京はまた雪。



今日は朝から降っており、通勤途中は道に積もり始めていたが
昼頃、少し暖かくなったのか、積もらない時間帯もあったが
3時、4時頃からまたまた積もり始めた。


会社でも、早く帰れ指令、が出始める。
私などは、まあ、地下鉄の大江戸線一本なので、
止まる気遣いはあまりないと思われるが、最近のことである、
“想定外”がよく起きるので油断はならない。


皆とともに5時すぎ、オフィスを出る。


アスファルトの路面にも1〜2cm積もり始めている。


さて。


なにを食べよう。


寒いので途中で温かいそばでも食べるか。


あるいは、家へ帰って、鶏肉と玉子のうどんを煮るか。


あるいは、鍋。


そうだ。


久々に、軍鶏鍋はどうであろうか。
軍鶏鍋は元気がつく。
雪の日にはよいかも。


毎度書いているが、私は池波正太郎の大ファンである。
小説やエッセイなどなど池波作品に登場する食べ物は
とてもうまそう、というのは一般によく知られていることだと思う。
この日記自体は、98年、私が名古屋に単身赴任をしていた頃
自分の食べたものを書き始めた。


そんな中で、池波作品に登場する食べ物を
再現して作り始めたのである。


その大立者(おおだてもの)が、やはりなんといってもこれ、
軍鶏鍋、で、ある。


ファンの方にはまったく説明不要であろうが、
池波先生の代表作中の代表作、鬼平犯科帳に登場する食べ物、
その数ある中でも、最も重要な、そして魅力的な食べ物が、
この軍鶏鍋、といってよろしかろう。


これを初めて作ったのが、99年の1月であった。
もう15年も前のことである。


今は驚くほどの数の池波レシピ料理本が出版されているが
この当座はまだほとんどなく、作品の文章のみ。
これに加えて、私は落語などに出てくる軍鶏鍋を参考に、
モツ(レバーなど)、皮も必要だと考えて作ってみた。


鍋といえば現代では寒い冬に食べるもの、というのが一般的だが、
意外に以前は、夏だから鍋、という習慣もあった。


暑い時期に元気をつけようという意図なのだが、
軍鶏鍋もその例に入っており、作品でもそのように
書かれてもいる。


この軍鶏鍋もそうなのだが、馬肉の桜鍋(森下[みのや]が著名)など
東京下町の古くからある鍋は汁物ではなく、少量の割り下や味噌で
照り煮にするものが多く、今ある、牛のすき焼きは、このスタイル
が元であろうと思われる。
これであれば火を囲むのは暑いが、まあ冬でなくとも、
食べられる料理である。


まあ、そんな背景もある軍鶏鍋だが、この雪の日、
元気付けに食べてみようか、で、ある。


軍鶏鍋はそう難しいことはない。


必要なものは鶏正肉にレバー、と皮。
野菜は笹がき牛蒡(ごぼう)だけでよい。


いつものハナマサでもも肉とレバー。


が、あれま。


いつもあるのだが、今日は皮が切れている。
脂が出てうまくなるので皮はできれば入れたいが
あきらめよう。


帰宅。


着がえて、泥付き牛蒡を洗って一本分笹がきにし、
ボールの水にさらしておく。


味付けは普通のすき焼きのように割り下か
直接鍋にしょうゆ、砂糖、酒などを入れても別段構わないが、
今日は割り下を作ろうか。


鍋にしょうゆ、砂糖、酒を入れ、軽く煮詰めておく。


レバーは洗ってスタンバイ完了。





火鉢の炭火ではさすがに火力が足らないので
カセットコンロ。


寒いので暖房用に炭を熾し火鉢も準備。


鍋は浅い鉄鍋。


皮があれば皮から入れて脂を出すのだが、ないので油を敷いて
レバー、もも肉、牛蒡を入れて割り下をかけ、煮る。





火の通りはレバーの方が早い。
いや、正確にいえばレバーは半生の方がうまい。


火鉢の鉄瓶で燗酒にしようかと思ったが、今日はビール。


煮えたら、溶き玉子をくぐらせて、食べる。






ん!。


ちょっと割り下が濃かった。


酒と水を足して、少し薄くする。


OK、OK。


半生のレバーは格別。


牛蒡もこの甘辛と脂との相性が抜群。


やはり、よくをいえば皮が入って脂ギト、程度が
よりうまいが、今日はこれで満足しよう。


また、ここに焼き豆腐だったり、白滝だったり
椎茸、なぞもわるくはないのだろうが、
やはり、江戸前を追求するならば、野菜一種、
主役一種。これがよい。


雪の夜の軍鶏鍋。


これもまた、よい。