浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



秋刀魚塩焼と秋刀魚飯

dancyotei2013-10-01


9月28日(土)夜

さて。

秋刀魚、で、ある。

やっと、近所のスーパーで一本100円になった。

今シーズンになって、食べてはいるのだが、
やはり、一本100円を切らなければ、秋刀魚ではない。

まったく、日本人のわるいところだと思うのだが、
初物好き、というやつである。

こう書くと誤解を招きやすいと思うのだが、
初物好き、というのは、季節感を大切にする日本人の
よい面でもあるのだが、ともすれば、行きすぎて
無理に初物を求めるということにつながっている。

旬というのは大事にしなければならないのだが、
相手は自然のこと、毎年同じではない。
(特に温暖化で変化してきているのも周知のことであろう。)

9月に入って秋刀魚の多く獲れる年もあれば、今年のように獲れない年もある。
無理をして高価なものを求めるのはいかがなものか、
と考えるのである。

鮨やでは小肌の新子が、まだメダカくらいの小さな頃のものを、
無理やりにぎっていたり、秋刀魚だって、8月初めには
高いものを取り寄せて出している。

こんな出っ端の、無理して獲ったものがうまいわけがない。

珍しがって高い銭を出す人がいるから、売る人がいる。

これは江戸の頃からそうだった。

ご存知の通り、江戸っ子は、女房を質に置いても、初鰹を買う、
なんということで見得を張っていたわけである。

青物(野菜)や果物でもそうであった。
青物や果物の場合は初物があまりに高騰するので、江戸の頃は品物毎に
流通させてよい時期が決まっており、それ以外の季節の取引は
ご禁制であった。

現代では野菜には、ほぼ季節はなくなっている。
本来はやはり、野菜だって、旬のものがうまくて安い、
はずなのである。

旬を大切にするのは日本人の大切な文化ではある。
漁法も稚拙であった江戸の頃ならば、大量には獲れなかったわけで、
まだよかった。

しかし、現代において、少し立ち止まって考えてみる必要があるように
私は思うのである。

特に、魚に関しては影響は大きい。
ご存知のマグロ、うなぎを筆頭にした絶滅が危惧されている魚達。

金さえ出せばいいだろう!、ではすまされないと思うのである。
金ですまそうという国民に品格はなく世界から尊敬はされない。
それ以上に、結局は自分達に跳ね返ってきていることに
早く気が付かねばいけなかろう。

秋刀魚も絶滅が差し迫っているわけではなかろうが、根っこは同じことである。
高いものを無理して買う必要はないと思うのである。
今年は秋刀魚の代わりに、脂ののった鰯が多く出回っているよう。
季節感は大事だが、獲れなければ別の魚を食べればよいではない。

安くてうまいものを食う。少し前に“ロハス”なんという言葉が流行ったが、
これが自然であり、これに従って生活をするのが、よいことではなかろうか。

で、やっぱり秋刀魚は100円以下。

一先ず、今日は様子見に、三本を買ってみた。
大量に買って、脂がなかったら、というのも考えてみたのである。

もう少しすれば、もっと獲れてくるのか、それも期待しよう。

大根もむろん購入。

炭で焼いてもよいのだが、様子見だし、ベランダは大規模修繕で
片付け中。ガスレンジで焼くことにする。

私と内儀(かみ)さんで二本。
もう一本は、秋刀魚飯用

塩焼もむろんうまいのだが、素焼きにした秋刀魚を炊き込んだ
しょうゆ味の飯は、脂ののった秋刀魚の味が染み込み
毎年作っているが、堪えられないうまさ、で、ある。

最初に米を研ぎ、浸水。
水で浸水ではなく、酒、しょうゆを入れ、これに水を加え
通常の水加減に合わせ、浸水する。

今日は、酒をたっぷり、水加減総量の50%程度入れてみる。
味が濃くなりそうというのが狙い。

ただ、酒を増やすと、浸水時間が長く必要になるので注意が必要。
それで、塩焼の前に、浸水だけ始めておく。

塩焼。



家庭用のガスのレンジで焼くと半分に切らなければ
いけないのが難点ではある。

大根おろしをたっぷりと用意し、食べる。

佐藤春夫の「秋刀魚の歌」に

「…さんま、さんま、 さんま苦いかしょっぱいか。…」

というのがある。

この歌を知ってから、私は大根おろしをのせて、はらわたも食べる。
むろん苦いのではあるが、はらわたも脂があってうまい。

9月の初め頃に食べたものよりは、心なしか脂はのっているように思われる。

やはり、よくなってきている。
これならば、秋刀魚飯にしてもうまそうだ。

秋刀魚飯の方ははらわたを出して、塩なしの素焼き。

3時間ほど浸水をした米の上にのせて、炊く。



炊けた。



中骨、頭、尻尾を取って、身をほぐして飯に混ぜ込む。

飯椀によそって、もみ海苔をまぶす。



酒を多めにすると香りもよくなるし、あまみも増す。

いくらでも食べられる。

今日は一本であったが、脂がのったものを二本も入れれば
まさに絶品の秋刀魚飯が出来上がる。